過去の婚姻費用の請求
婚姻費用とは生活費のことですが、別居してしばらくしてから「婚姻費用を請求できることを知らなかった」という理由で、過去の婚姻費用を請求したいという方がいらっしゃいます。
これからの婚姻費用は、相手が支払いを拒否している場合でも、婚姻費用分担請求調停、または、婚姻費用分担請求審判で請求することが出来ますが、すでに経過した過去の分の婚姻費用をさかのぼって請求できるでしょうか?
この点について、相手が支払いに応じれば可能ですが、裁判所が決める場合は、調停または審判申立時より前の過去の婚姻費用は原則として請求が認められません。
例外的に、過去に内容証明郵便等で明確に婚姻費用の支払を請求していた場合に認められた審判例があります。
もっとも、審判例の中には、金額が記載されていないから請求が不明確であり、請求として不十分としているものもあります。
いずれにせよ、調停を申立てるのが確実ですから、今から婚姻費用を請求しようという場合は、私的な請求ではなく調停を申立てましょう。
そのうえで、私的な合意ができれば調停を取り下げればよいと考えます。
では、事前に私的な請求すらしていなかったという場合はダメなのかですが、婚姻費用としては認められません。
しかし、未払いにいたる事情や期間、支払義務者の資産や収入、権利者が実際に支出した生活費の金額、子供の養育状況などを総合考慮して、離婚時の財産分与額を決めるにあたって考慮するとしている裁判例があります。
そうすると、財産分与は離婚後2年までできるため、離婚が成立した後に過去の婚姻費用が請求できるのかという問題が出てきます。
この点については、一般に公開されている裁判例はないようですが、学説上は、財産分与は離婚後2年間できることから(民法768条2項ただし書き)、同条項を適用して離婚後2年間請求できるという学説があります。
もっとも、未払い婚姻費用を財産分与で考慮するという裁判例は少数ですし、未払い婚姻費用の全てが認められるわけではないため、やはり婚姻費用請求権があると気づいたら早期に調停を申立てるのが得策です。
未払い婚姻費用とは逆に、過去に婚姻費用算定表より多く支払っていたので、その分を返せという請求は認められるでしょうか?
この点については、任意に生活費を支払ったのを返せというのは適切ではないことと、生活費ですから、すでに使ってしまっていることも多いので、原則として過払い分を返せという権利はありません。
〈最高裁判昭和53年11月14日判決〉
裁判所は、当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の精算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることが出来ると解するのが、相当である。
〈高松高等裁判所平成9年3月27日判決〉
夫婦が円満である間に当事者の一方が過当に負担した婚姻費用は、特段の事情がない限り、過当な部分については贈与の趣旨であって精算の必要はない。
夫婦関係が破綻に瀕したあとに当事者の一方が過当に負担した婚姻費用に限り精算を求めることが出来る。
〈大阪高等裁判所平成21年9月4日決定〉
当事者の一方が自発的または合意に基づいて、標準算定式に基づく金額以上の婚姻費用を支払っていても、それが当事者双方の収入や生活状況から著しく相当性を欠くものでない限り、標準算定式を上回る部分について財産分与の前渡しとして評価することは相当でない。
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監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。