死後認知請求
1 死後認知とは?
子供の父親とは結婚していないけれども認知はしてほしい。でも、父親は既に死んでいるという場合、死後認知という方法があります(民法787条)。
死後認知は、父親の死後3年以内に、検察官を相手として訴えます。
死後認知が認められると、子供は生まれた時から父親の子供であったとみなされます(民法784条)。つまり、父親の相続人となります。
ただし、認知請求が認められるまでに遺産分割協議などが済んでしまっている場合には、混乱を避けるため、遺産分割協議は有効としたまま、他の相続人にお金を請求することになります(民法910条)。
なお、父親が犯罪被害で亡くなった場合には、犯罪被害者給付金を請求することもできます。
2 死後認知の手続きについての解説書がない!!
ここまでは、民法の基本的なテキストにも記載があります。
ところが、裁判例はいくつもあるのですが、死後認知請求訴訟をするための手続きについては、色々さがしましたが、とある弁護士向けの書式集にペラッと申立書記載例が載っている程度で詳しい解説書がありません。
そこで、死後認知を考えておられる方はのために、以下に死後認知請求の流れを載せておくので参考にしてください。
よくわからない場合は、なごみ法律事務所へお電話ください。
3 死後認知請求の流れ(2018年9月時点)
⑴ 訴状記載における注意
・死後認知も認知請求の一種なので、事件名としては「認知請求訴訟」となる。
・原告は子供(住所のほかに本籍地も書く)、ただし、子供が未成年の場合、母親が「原告法定代理人親権者母」として手続きを行う。
・管轄は、原告の住所地または、父親の最後の住所を管轄する裁判所(人事訴訟法4条1項)
・被告は、管轄裁判所に対応する地方検察庁(人事訴訟法12条3項)
・検察庁名の下に「検事正●●」と書く(代表取締役の要領で)
・訴訟物の価格は160万円(価格算定不能と考える)
・請求の趣旨は「原告が、本籍●●亡●●(昭和●年●月●日生)の子であることを認知する」と書く
・調停前置主義の適用がないことを書く(家事事件手続法257条2項ただし書き、最判昭36年6月20日)
・利害関係人を書く(人事訴訟法28条、人事訴訟規則16条別表六)
*利害関係人とは、東京家裁では、「認知が認められた場合、相続割合が変わるものをいうと解釈されるため亡くなった方の配偶者は含まない」と言われたのですが、名古屋家裁では、配偶者も利害関係人として扱われました。
⑵ 手続きの流れ
ア 訴訟提起における注意
法的には、上記のとおり認知請求訴訟を提起することになりますが、悩ましいのが亡くなった方の遺族に事前に連絡を取るかです。
死後認知は、相手遺族が認めても裁判所によって認定されないとならないので、法的には事前に連絡する必要はないのですが、裁判でのDNA鑑定への協力や、その後の遺産分割問題、墓参りがしたいといった希望がある場合、相手遺族には最大限配慮した対応をしたいところです。
そうすると、いきなり裁判所から書類が届くよりは、事前に連絡しておいた方がいいのではないかと思います。
もちろん、事前にあいさつしたからといって、快く受け入れてくれる人はマレでしょうが。
次に、訴状にどの程度詳しく事情を書くかですが、この点は最小限度にすることをお勧めします。
また、母親の陳述書は、私は原則として出しません。
これも、上記と同様、相手遺族から反発を受けることを避けるためです。
ここまで気を使っても、相手遺族からは反発を受けます(当然でしょう)。
相手遺族を気遣って訴状はシンプルにし、陳述書も提出しなかったのに、「そんなはずはない。詳しく書いていないのは、事実じゃないからだ。詳しい事情を説明しろ」と言われ、裁判所の訴訟指揮もあって、やむなく陳述書を提出したのにも関わらず「こんなに詳しく書くなんて、遺族を傷つける行為だ」と言われたこともあります。
「どうしろというんだよ!」と思いますが、隠し子がいたことが発覚した相手遺族にとってみればショックでしょうし、その感情をぶつける先はこちらしかないので仕方ないと思い、反論しないようにしていますが・・・
イ 裁判の流れ
訴状を提出すると、被告である検察庁の担当検事に訴状が送られます。
検事は、利害関係人と連絡を取り、利害関係人は、訴訟に参加するかどうかを決めます。
なお、利害関係人は、訴訟の当事者ではないので、補助参加という手続きで参加します。
第1回期日までに、検察官から、請求を棄却する、請求原因については不知という答弁書が送られてきます。
要するに、何も知りませんという答弁書です。
第1回期日では、訴状と答弁書が陳述(正式に提出扱い)され、補助参加や今後の進行について話がなされます。
たいていの場合は、相手遺族が補助参加し、2回目の期日までに補助参加人から書面が提出されることになります。
1回目あるいは2回目で補助参加人の意見が分かったところで、裁判官からDNA鑑定への協力の意思について質問されます。
私の経験では、渋々ながらもDNA鑑定に協力してくれる遺族が多いのですが、拒否をする遺族もいます。
そうすると、民事裁判(正確には家事ですが)では、刑事事件と違ってDNA鑑定を強制することができないので、手持ちの証拠と母親の証人尋問などで立証し、あとは裁判所の判断を待つことになります。
なお、DNA鑑定は、決定的な証拠となりますが、他方で、DNA鑑定ができないからといって、必ずしも死後認知が認められないというわけではありません。
実際、DNA鑑定ができなかった事案で死後認知を認めるとの判決をもらったこともあります。
【関連問題コラム】
*死後認知後に相続分を請求する場合の遺産の価格算定基準時と遅延損害金
監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。