死後認知後に相続分を請求する場合の遺産の価格算定基準時と遅延損害金
死後認知によって亡くなった方の子供と認められた方は、最初から子供であったことになるので、亡くなった方の相続人となります。
もっとも、死後認知が認められる前に遺産分割手続きが終わっている場合には、遺産分割を無効とするのではなく、すでに遺産を受け取っている相続人が、死後認知によって相続人になった者に相続割合相当額のお金を支払いなさいということになっています。
この場合、相続財産が現金のみであれば問題ありませんが、不動産や株式が含まれていると、いったいいつの時点の価格を基準にお金を支払えばいいのかという問題が生じます。
また、死後認知によって相続人になった方は、既に遺産を受け取っていた相続人からお金を支払ってもらうことになりますが、本来被相続人死亡時から権利があったのに支払いが遅れたのだとして遅延損害金を請求できるのか、それとも請求されたのに支払わなかった時から遅延損害金が発生するのかという問題が生じます。
この2点について、最高裁判所第二小法廷平成28年2月26日判決は、以下の通り判断を示しました。
1 価格算定の基準時は?
まず、価格が変動する遺産について、いつの時点の金額を基準に価格を算定するかについて、最高裁判所は、死後認知請求によって相続人になったものから他の相続人に対し支払い請求があったときの価格を基準とするとしました。
以下、判決文が分かりやすいので、そのまま引用します。
相続の開始後認知によって相続人となった者が他の共同相続人に対して民法910条に基づき価額の支払を請求する場合における遺産の価額算定の基準時は,価額の支払を請求した時であると解するのが相当である。
なぜならば,民法910条の規定は,相続の開始後に認知された者が遺産の分割を請求しようとする場合において,他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしていたときには,当該分割等の効力を維持しつつ認知された者に価額の支払請求を認めることによって,他の共同相続人と認知された者との利害の調整を図るものであるところ,認知された者が価額の支払を請求した時点までの遺産の価額の変動を他の共同相続人が支払うべき金額に反映させるとともに,その時点で直ちに当該金額を算定し得るものとすることが,当事者間の衡平の観点から相当であるといえるからである。
2 いつから遅延損害金が発生する?
次に、請求を受けた相続人は、いつの分から遅延損害金を支払わなければならないかですが、最高裁判所は、請求を受けたときに支払い義務が生じるから、翌日から遅延損害金が生じるとしました。
こちらも判決文が分かりやすいので、そのまま引用します。
民法910条に基づく他の共同相続人の価額の支払債務は,期限の定めのない債務であって,履行の請求を受けた時に遅滞に陥ると解するのが相当である。
そうすると,本件の価額の支払請求に係る遅延損害金の起算日は,上告人が被上告人らに対して価額の支払を請求した日の翌日である平成23年5月7日ということになる。
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監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。