年金分割の基礎知識
1 分割の対象となる年金の種類
離婚時には、年金分割が認められますが、この分割が認められる年金は、厚生年金と共済年金(平成27年10月に厚生年金に統一される予定)だけです。
国民年金や企業年金などは年金分割の対象とはならないので注意してください。
ただし、企業年金は、原則として財産分与が認められます。
2 何を分割するのか
年金分割といっても、もらえる年金を分けるのではなく、これまで支払ってきた金額を夫婦で分け合うことにしようというものです。
いわば年金納付記録を過去に遡って修正する訳ですから、将来給付を受けるときに何らかの届出をする必要はありません。
専業主婦の場合は、会社員の夫の厚生年金部分の半分について、妻が払っていたのと同じ取り扱いになります。
共働きの場合は、多い方を少ない方に分けることになります。
足して2で割ると考えればよいでしょう。
3 分割割合はどうなるのか
分割割合については、原則として0.5(50%)とされ、その割合が不当と考える方が、具体的事情を主張することになります。
ただし、3号被保険者(専業主婦など)の場合、平成20年4月以降かどうかで取扱いが異なります。
平成20年3月末までの分については、当事者の合意または裁判所の判決(審判でも可)で決められた割合となります。
平成20年4月以降の分については、3号被保険者(専業主婦など)の場合の分割割合は当然に0.5とされ、年金事務所に届け出をするだけで分割できます。
4 年金分割の期間制限
年金分割については期間制限があり、離婚が成立した日から2年間に年金事務所または共済組合で手続をする必要があります。
2年ぎりぎりで家庭裁判所に年金分割調停や審判を申立てた場合、調停の成立や審判が2年経過後になってしまいますが、この場合には、特別に調停成立または審判確定の日から1か月以内に年金事務所や共済組合で手続をすれば、年金分割が認められます。
5 いつの分から分割されるか?
すでに年金を受け取っている方の年金分割の場合、いつの分から分割されるのかが問題になります。
分割されるのは、年金事務所が受付をした月の翌月分からです。
たとえば、2015年1月に離婚をし、年金分割をする旨の公正証書を作ったけれど、年金事務所へ届け出たのは5月だったという場合、6月分の年金からが年金分割の対象となります。
これは、たとえ判決で年金分割が決まった場合でも同じです。
判決の時ではなく、年金事務所に届出たときになるので、年金分割が決まったら速やかに届け出をしましょう。
ところで、年金は、2か月ごとの後払いです。
たとえば、2015年2月分、3月分は、4月に支給されます。
そのため、年金分割の届け出を2015年1月にすると、2月分の年金からが分割対象となり、それが実際に支払われるのは、4月ということになります。
6 具体的手続
年金分割は、当事者の合意で行うこともできるので、まずは話しあってみてください。
話し合いで合意ができた場合、二人で一緒に年金事務所で行き手続きをするか、合意内容を書面にして公証役場で認証を受けるか、公正証書にする必要があります。
話合いで合意ができないときは、相手の住所地を管轄する家庭裁判所または合意で決めた家庭裁判所で調停を申立てますが、すでに離婚しているかどうかで手続が異なります。
離婚がまだの場合は、離婚調停とセットで年金分割も請求します。
すでに離婚している場合は、年金分割の割合を定める調停を申立てることになります。
調停ではなく審判(裁判所が決める手続)を申立てることもできますが、ほとんどの場合、裁判所の職権で調停に付されますから、最初から調停を申立てておいた方が良いでしょう。
どうしても調停ではなく審判がよいという場合は、審判でなければならない事情を説明する書面も同時に提出しておいた方が良いでしょう。
なお、調停は相手方の住所を管轄する裁判所に申し立てる必要がありますが、審判の場合は、申立人の住所を管轄する裁判所で申立てることも可能です。
調停(審判)の申立には、調停(審判)申立書と「年金分割のための情報通知書」が必要となります。
「年金分割のための情報通知書」は、厚生年金の場合は年金事務所、共済年金の場合は共済組合でもらうことができます。
手続や申立書式などについては、裁判所の年金分割の割合を定める審判又は調停のページに載っています。
離婚と同時に年金分割を請求する場合には、離婚調停申立書のチェック欄に年金分割に関する項目があるので、そこにチェックをして、年金分割のための情報通知書を添付して提出しましょう。
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監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。