年金受給者、失業保険受給者の婚姻費用・養育費
当事者が給与生活者や自営業者の場合の場合の婚姻費用や養育費については、裁判所が作成している婚姻費用算定表・養育費算定表で算出できます。
算定表よりも緻密に算出したい場合は、算定表の元になっている標準算定式を用いれば算出できます(くわしくは、「婚姻費用の計算」「養育費の計算」をご覧ください)。
では、当事者が年金や失業保険を貰っている場合はどうなるのでしょうか?
年金は、65歳から支給される年金と、障害がある場合に支給される障害年金とでは違いがあります。
まずは、よく議論の対象となる老齢年金について、2番目に障害年金について説明します。
失業保険受給者の場合は、老齢年金と同じ考え方になります。
1 老齢年金、失業保険を受給している場合の婚姻費用・養育費
① 基本的な考え方
婚姻費用・養育費の考え方は、総収入から、公租公課、職業費、特別経費を差し引いた金額を基礎収入と考え、その基礎収入を家族構成に応じて分けるものです。
総収入から引かれる公租公課は、税金のことです。
職業費は、仕事関係の服や靴、交通費など、仕事を続けるために最低限支出しなければならないと考えられる費用です。
特別経費は、住居関係の費用や医療費などの、生きていくための最低限の費用です。
給与所得者の場合は、上記3項目をすべて引いたあとの金額を基礎収入とし、その基礎収入を家族構成に応じて分けることになりますが、年金収入の場合は、上記のうち、職業費がかかりません。
ですから、老齢年金受給者や失業保険受給者は、総収入から公租公課と特別経費のみ差し引きます。
というのが理屈ですが、婚姻費用・養育費算定表や、そのもとになっている標準算定式は、給与所得者を基準に作られているため、実際には給与所得者の基礎収入に職業費を加算して修正するのが一般的です。
以下、具体的に算出方法を説明します。
② 婚姻費用・養育費算定表を使って算出する
婚姻費用・養育費算定表には、給与所得者の欄がありますので、上記のとおり、年金収入に職業費分を加算して、もしそれが給与所得だったら●●円相当と考えて算定表に当てはめます。
では、いくら加算するかですが、職業費は、収入によって若干比率が変わりますが、おおよそ15%です(旧算定表だと20%)。
ですから、15%分割り戻してあげればよいということになります。
具体的には、以下の計算式になります。
年金収入÷0.85=給与相当額
面倒なので、表にすると以下のようになります。
年金収入(年額) | 給与収入相当額 | 年金収入(年額) | 給与収入相当額 | |
21万円 | 25万円 | 276万円 | 325万円 | |
43万円 | 50万円 | 298万円 | 350万円 | |
64万円 | 75万円 | 319万円 | 375万円 | |
85万円 | 100万円 | 340万円 | 400万円 | |
106万円 | 125万円 | 361万円 | 425万円 | |
128万円 | 150万円 | 383万円 | 450万円 | |
149万円 | 175万円 | 404万円 | 475万円 | |
170万円 | 200万円 | 425万円 | 500万円 | |
191万円 | 225万円 | 446万円 | 525万円 | |
213万円 | 250万円 | 468万円 | 550万円 | |
234万円 | 275万円 | 489万円 | 575万円 | |
255万円 | 300万円 | 510万円 | 600万円 |
この年金収入を給与収入相当額に修正した金額を婚姻費用・養育費算定表に当てはめれば、毎月の金額が算出できます。
③ 標準算定式を使って細かく計算する
婚姻費用の計算と、養育費の計算で説明した通り、算定表にはもとになっている計算式があります。
その最初のステップの基礎収入の割合を計算する際、職業費15%を考慮した割合にします。
具体的には、以下のとおりとなります。
0~75万円・・・・・・・・69%
75万~100万円・・・・・65%
100~125万円・・・・・61%
125~175万円・・・・・59%
175~275万円・・・・・58%
275~525万円・・・・・57%
525~725万円・・・・・56%
725~1325万円・・・・55%
1325~1475万円・・・54%
1475~2000万円・・・53%
2000万円~・・・・・・・具体的事情に応じて算出
厳密には、統計的に職業費は、年収250万円程度が一番比率が高く、それ以上になると、緩やかに下がっていきますが、それほど大きな違いはないので、15%で考えてよいでしょう。
基礎収入が算定出来たら、婚姻費用の計算と、養育費の計算で説明した標準算定式の計算に当てはめます。
簡単に結論だけ書いておくと以下の通りです。
① 婚姻費用の計算
権利者に配分されるべき金額=(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)×(100+55×14歳以下の子供の人数+90×15歳以上の子供の人数)÷(100×2+55×14歳以下の子供の人数+90×15歳以上の子供の人数)
義務者が支払う金額(年額)=権利者に配分されるべき金額-義務者の基礎収入
② 養育費の計算
子供の生活費=義務者の基礎収入×(62×14歳以下の子供の人数+85×15歳以上の子供の人数)÷(62×14歳以下の子供の人数+85×15歳以上の子供の人数+100)
義務者の負担額(養育費・年額)=子供の生活費×義務者の基礎収入÷(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)
2 障害年金を受給しているの場合の婚姻費用・養育費
老齢年金の場合は上記のとおりですが、障害年金については、あまり論じられておらず、私の知る限り裁判例も見当たりません。
学説上は、障害年金は、障害がある方のために、その障害に応じた最低限の生活をするための給付金なので、婚姻費用や養育費を請求できないとするものや、請求できるが障害に応じた考慮が必要とするものがあります。
また、障害年金には、障害基礎年金と障害厚生年金があるので、上記のように、障害者の生活保障的側面から障害基礎年金から婚姻費用・養育費を支払うよう命じるのは制限するとしても、障害厚生年金部分についてまで同様の配慮が必要なのかは議論があります。
さらに、上記の理屈からすれば、権利者のみが障害年金を受給している場合には、婚姻費用・養育費を請求して収入が増えることはあっても、減ることはないので、老齢年金と同様に考えてよいということになるはずです。
【関連コラム】
・婚姻費用の計算|2019年12月改定対応
・養育費の計算|2019年12月改定対応
・コラム目次ー男女問題を争点ごとに詳しく解説-
監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。