離婚後300日問題の全てー基礎知識から手続き、書式までー
離婚後300日以内に生まれた子は、前夫の子と推定されます(民法772条2項)。
ですが、実際には前夫の子ではないので、前夫の子と推定されては困るという相談があります。
そのような場合どうすればよいか、基礎的な知識から、具体的手続き、手続きに必要な書式まで、この問題に取り組んで10数年の経験を全て公開します。
なお、出産時点で子の父親と結婚していた場合には、2022年の民法改正(2024年4月1日施行予定)により、結婚相手の子と推定されることになりました。
そのため、今後は、離婚後300日問題は、お子さんが生まれるまでに、お子さんの父親と結婚しない場合にのみ問題となります。
この改正法は、改正法施行日以降に生まれた子に適用されるので、施行日前に子供が生まれた場合は、なお以下の手続きが必要となります。
【目 次】
1 300日問題で前夫の子としない方法
⑴ そもそも手続きがいらないケース
⑵ 嫡出否認請求
⑶ 親子関係不存在確認請求
⑷ 認知請求(元夫に知られない方法)
⑸ まとめ
2 具体的な手続き
⑴ どこの裁判所で手続きをするか
⑵ 調停の具体的な手続き
⑶ 訴訟の具体的な手続き
1 300日問題で前夫の子としない方法
⑴ そもそも手続きが必要ないケース
例外1:通称300日問題と言われる問題ですが、実は、前夫の子と推定されるのは、結婚後200日経過しており、かつ、離婚後300日以内に生まれた子に限られます。
ですから、結婚する前に妊娠し、その後しばらくしてから結婚し、すぐに離婚したケースでは、結婚してから200日経過する前に子供が産まれたというケースがあります。
その場合は、そもそも前夫が子供の父親と推定されないため、特別な手続きは必要ありません。
ただし、市区町村役場の実務上、子供の戸籍の父親欄に前夫が記載されることがあるので、窓口で事情を説明して父親欄を空欄にするように念押ししておいた方がよいでしょう。
例外2:早産により離婚後300日以内に子供が生まれてしまった場合には、医師に「懐胎時期の証明書」という書類を書いてもらい、出生届と一緒に提出することで、生まれた子供は前夫の子とはされなくなります。
懐胎時期の証明書の書式は、こちらの法務省のサイトに書式があるのでご確認ください。
⑵ 嫡出否認請求
子供を前夫の子としない方法としては、前夫の間で嫡出否認請求をする方法があります(民法774条以下)。
法律上は、嫡出否認の訴えとなっていますが、まずは調停を申立てて、調停不成立の場合に訴訟提起をすることになります。
調停や訴訟の申し立ては、元夫から子(母)に対して、又は、子(母)から元夫に対して行います。
*2022年改正前は、元夫から子(母)に対してのみ申立てが認められていました。
嫡出否認請求には期間制限があり、前夫が子供の出生を知ってから1年以内に限られます。
調停で、関係者全員が、子どもが前夫の子でないと争わず、前夫の子でないことが間違いないといえる場合(通常はDNA鑑定)には、合意に相当する審判がなされます。
子供の身分関係に影響を与える判断となるので、当事者間に争いがなくても、裁判所が証拠が足りないと判断した場合には、嫡出否認が認められません。
当事者間で争いがある場合や、裁判所が証拠が不足していると考える場合には、調停は不成立となります。
調停が不成立となった場合には、嫡出否認訴訟を提起することになります。
合意に相当する審判がなされた場合には、異議申し立て期間経過後に、裁判所で確定証明書をもらって、市区町村役場で手続きをします。
この方法の欠点は、前夫に知られてしまうことです。
そのため、この手続きをとったことをきっかけに、前夫から慰謝料請求される等のトラブルになることもあります。
⑶ 親子関係不存在確認請求
子供を前夫の子にしない方法の2つ目は、親子関係不存在確認請求です。
この方法は、法律に明記されておらず、判例上の解釈で認められてきた手続です。
親子関係不存在確認請求は、子、母親、前夫、その他身分上の利害関係を有する者のいずれも申立が可能です。
一般的には、母親が子供の法定代理人として、前夫を相手に親子関係不存在確認調停を申立てます。
親子関係不存在確認請求は、嫡出否認請求と異なり、原則として申立ての期間に制限はありません(元夫が死亡している場合には死後3年間に限られる)。
親子関係不存在確認請求が認められるためには、嫡出推定が及ばないことが必要です。
嫡出推定が及ばないかどうかについて、最高裁判所は、客観的外形的にみて、前夫の子でないことが明らかであることが必要としています。
具体的には、以下の場合が嫡出推定が及ばないとされています。
・前夫が服役中
・当事者のいずれかが海外に住んでいる
・事実上離婚しており接触がなかった
もっとも、実際の家庭裁判所の現場では、関係者が争っておらず、DNA鑑定で元夫と親子関係がないことが明らかな場合には、裁判官が、嫡出推定についてかなり緩やかに解釈してくれています。
基本的な手続きは、嫡出否認請求と同じで、まずは調停を申立てる必要があります。
調停で、関係者全員が、子どもが前夫の子でないことを争わず、前夫の子でないことが間違いないといえる場合(通常はDNA鑑定)で、かつ、嫡出推定が及ばないことを推定させる証拠がある場合には、合意に相当する審判がなされます。
子供の身分関係に影響を与える判断となるので、当事者間に争いがなくても、裁判所が証拠が足りないと判断した場合には、親子関係不存在確認請求は認められません。
当事者間で争いがある場合や、裁判所が証拠が不足していると考える場合には、調停は不成立となります。
調停が不成立となった場合には、親子関係不存在確認請求訴訟を提起することになります。
合意に相当する審判がなされた場合には、異議申し立て期間経過後に、裁判所で確定証明書をもらって、市区町村役場で手続きをします。
この方法の欠点は、嫡出否認と同様に前夫に知られてしまうことです。
そのため、この手続きをとったことをきっかけに、前夫から慰謝料請求される等のトラブルになることがあります。
2022年改正により、嫡出否認請求の申立権者について、元夫のみとされていたのが、子や母も申し立てができるとされたため、親子関係不存在確認請求をするメリットがほとんどなくなりました。
ただし、嫡出否認請求と違って、申立ての期間制限がないため、何らかの事情で嫡出否認請求の期間を経過してしまった場合には、親子関係不存在請求を検討することになります。
⑷ 認知請求(元夫に知られない方法)
子供を前夫の子にしない3つ目の方法は、実の父親に対する認知請求をすることです。
この方法は、法律に明確な規定はありませんが、判例上認められています。
認知請求は、子(母)が、実の父親を相手方として認知を求めるもので(民法787条)、実の父親に対する認知が認められると、これと矛盾する前夫の子という身分が否定されるという理屈です。
この理屈から、前夫が法律上の父親と推定される場合には、すでに父親がいることになるので、実の父親に対する認知請求は認められません。
つまり、実の父親に対する認知請求が認めらられるためには、以下の2つの要件を満たすことが必要になります。
①前夫との関係で、嫡出推定が及ばないこと
②実の父親との父子関係が明確なこと
①については、上記⑶で説明した親子関係不存在確認請求と同じで、客観的、外形的に見て前夫の子でないことが明らかといえることが必要です。
具体的には、以下の場合が嫡出推定が及ばないとされています。
・前夫が服役中
・当事者のいずれかが海外に住んでいる
・事実上離婚しており接触がなかった
この手続きも、親子関係不存在確認請求と同様に、実の父親との間でDNAの一致が見られる場合には、多くの裁判官は、上記の要件を緩やかに解釈してくれる傾向にあります。
基本的な手続きは、前記2つの手続と同様で、まずは調停を申立てる必要があります。
調停で、関係者全員が、父子関係について争わず、相手方の子であることが確実といえる場合(通常はDNA鑑定)で、かつ、嫡出推定が及ばないことを推定させる証拠がある場合には、合意に相当する審判がなされます。
子供の身分関係に影響を与える判断となるので、当事者間に争いがなくても、裁判所が証拠が足りないと判断した場合には、認知が認められません。
当事者間で争いがある場合や、裁判所が証拠が不足していると考える場合には、調停は不成立となります。
調停が不成立になった場合には、認知請求訴訟を提起することになります。
合意に相当する審判がなされた場合には、異議申し立て期間経過後に、裁判所で確定証明書をもらって、市区町村役場で手続きをします。
この手続きの最大のメリットは、原則として前夫が関与しないので、前夫に知られないということです。
しかし、嫡出推定を否定する証拠が少ないときは、裁判所が職権で前夫に連絡して事情を確認することがあります。
また、前夫への照会の際は、相手方(実の父親)が誰であるかは伏せて問い合わせをされるのが一般的ですが、前夫は関係者として裁判所に記録閲覧請求ができるため、実の父親がどこのだれかということを知られる場合もあります。
⑸ まとめ
上記各手続について、表にまとめると下記のようになります。
手続 | 当事者と審理内容 | 期間制限 | 要件 | 証明方法 | 備考 | |
嫡出否認
(原則的方法) |
調停
↓ 訴訟 |
前夫 ⇒ 子(母親) 子(母親)⇒前夫「この子は私(前夫)の子供ではない」等 |
前夫が子の出生を知った時から1年以内 | 前夫の子でないことが間違いないこと | DNA鑑定など | |
親子関係不存在 | 調停
↓ 訴訟 |
利害関係人 ⇒ 前夫
「この子はあなた(前夫)の子供ではない」 |
原則としてなし | ⑴法律上の嫡出推定が及ばないこと | 懐胎時期の前後に前夫に会っていないことの証明資料 | |
⑵前夫の子でないことが間違いないこと | DNA鑑定など | |||||
認知請求
(例外的方法) |
調停
↓ 訴訟 |
子(母親) ⇒ 本当の父親
「この子はあなた(本当の父親)の子供だ」 |
特になし | ⑴法律上の嫡出推定が及ばないこと | 懐胎時期の前後に前夫に会っていないことの証明資料 | ・要件⑴の証拠が少ないと、裁判所が職権で前夫に連絡をして事情を確認することもある。
・担当裁判官により、要求される証明の程度が異なる。 |
⑵本当の父親の子であることが間違いないこと | DNA鑑定など |
2 具体的な手続き
具体的な手続きについて、3つの方法方法でほとんど共通しているので、
⑴どこの裁判所で手続きをするか
⑵調停手続き
⑶訴訟手続き
の順に説明し、各手続きに必要な書式も紹介します。
⑴ どこの裁判所で手続きをするか
① 調停をどこの裁判所で行うか
どこの裁判所で手続きをするかを裁判管轄といいますが、調停をするときの管轄裁判所は法律で決まっており、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、または、合意によって定めた家庭裁判所となります。
裁判所が何処にあるかや、相手方の住所を管轄する家庭裁判所はどこかは、こちらの裁判所のサイトで確認できます。
お好きな裁判所で申立ててもいいのですが、嫡出否認事件以外は、できれば東京家裁等の都市部の裁判所で申立てることをお勧めします。
なぜなら、離婚後300日問題は、申立件数が少なく、地方の裁判所では取り扱い経験がないこともあるため、東京家裁等の都市部の裁判所の方が手続きがスムーズだからです。
とくに決定的な違いが出てくるのは、認知請求と親子関係不存在確認請求における嫡出推定の判断です。
前記の通り、認知請求や親子関係不存在確認請求が認められるためには、嫡出推定が及ばないことが必要ですが、最高裁判所は、嫡出推定が及ばないといえるのは、客観的、外形的に見て前夫の子でないことが明らかといえる場合としています。
そして、具体例として、前夫が服役中、当事者のいずれかが海外に住んでいる、事実上離婚しており接触がなかった、といった一見かなり厳しい例を挙げています。
300日問題を取り扱ったことのない裁判官は、この最高裁判決を字義通り厳格に解釈し、前夫の子であるはずがないという明確な証拠を求めがちです。
ところが、東京家裁などでは、多くの裁判官が、上記の要件をかなり緩やかに解釈してくれます。
たとえば、海外でなくて国内でも遠方に住んでいたり、メールやLINEでしばらく会っていないというやり取りがなされていたり、妊娠したであろう時期に既に弁護士が入って離婚交渉をしていたり、というケースでも推定が及ばないと認めてくれています。
ですから、当事務所としては、調停は東京家裁など都市部の裁判所ですることをお勧めしています。
もちろん、東京家裁の裁判官でも厳しめの認定をする裁判官もいないわけではありませんし、地方でも柔軟に対応してくれる裁判官もいますから、絶対に東京家裁でないといけないわけではありませんが、より確実に認めてもらうためには東京家裁等の都市部の裁判所がいいと考えています。
なお、調停を申立てたけれども、担当裁判官が厳しい見解を示した場合の対応として以下の2つの方法が考えられます。
①調停を取下げて、別の裁判所でもう一回調停をするという方法
②調停を不成立にしてもらい、別の裁判所で訴訟をするという方法
以下、順に説明します。
①調停を取下げて、別の裁判所でもう一度調停をするという方法
調停は、取り下げると初めからなかったことになるので、もう一度同じ内容で調停を申立てることが出来ます。
同じ裁判所で申立てることもできますが、同じ裁判所だと同じ裁判官に当たってしまったり、地方だと裁判所内部で「この人、この間取り下げた人だ」と覚えられていたりすることがあるのでお勧めしません。
②調停を不成立にしてもらい、訴訟をするという方法
この方法は、調停担当の裁判官に証拠がビミョーと言われたり、「東京家裁なら確実に認められるのに・・・」という場合にとる方法です。
調停担当裁判官に証拠がビミョーと言われた場合というのは、一般的な事件では、合意で成立する調停に対して、証拠に基づいて判断する訴訟の方が認定が厳しいのですが、認知請求や親子関係不存在請求では、これが逆転する場合があるからです。
というのは、前記の通り、認知請求調停や親子関係不存在確認請求調停は、子供の身分関係に影響を与えるので、当事者の合意のみでは成立せず、裁判官が十分な証拠があると判断した場合に認められます。
つまり、認定方法としては、調停でも訴訟でも大差ないということになります。
そして、調停で証拠がビミョーな場合、訴訟にして本人尋問(テレビの裁判物である裁判所で証言する手続き)を行うと、裁判所での証言が証拠となります。
つまり、証拠が一つ増えるのです。
このような理由から、調停で裁判官に証拠がビミョーと言われた案件では、訴訟を検討することになります。
ちなみに、この方法は、調停担当の裁判官に説明され、訴訟提起を促された方法ですが、実際に訴訟提起をしてみたら、「訴状のとおりですね。」「被告も認めるということですね。」「では、認知を認めます。お子さん生まれたばかりなのに大変でしたね。」と10秒ほどで終わってしまったため、尋問せずに終わりました。
「東京家裁なら確実に認められるのに・・・」というケースは、当事者の希望でとある地方の家庭裁判所支部に調停を申立てたときに、支部長裁判官にダメだと言われたときにとった方法です。
裁判官からは、「不成立にしてどうするつもりなの?」と不思議そうに聞かれたり、調停後に調停委員から、「あの方は、ここの支部長さんですよ。支部長が無理と言っているんだから無理なんじゃないですか。」などと言われましたが、既に多数の経験があり、認められるはずという確信があったため東京家裁に訴訟提起しました。
東京家裁の訴訟担当裁判官には、予想通りすぐに認めてもらえましたが、訴訟終了後に裁判官から「これ、なんで調停ではダメだったの?」と質問されました。
つまり、東京家裁では認められるのが一般的な認知請求が、地方の家庭裁判所では認められないことがあるということです。
② 訴訟(裁判)をどこの裁判所で行うか
訴訟の管轄裁判所は、当事者いずれかの住所地を管轄する家庭裁判所です。
訴訟では、調停と違い合意で管轄裁判所を決めることはできません。
例外的に、調停を行った裁判所は、訴訟も取り扱うことが出来ることになっています。
取り扱うかどうかは、裁判官の職権判断なので確実ではありませんが、今のところ移送(他の裁判所に移す手続き)されたことはありません。
訴訟も調停と同様に、出来れば東京家裁等の都市部の裁判所で行う方がよいと考えます。
ですから、地方に住んでいらっしゃる方は、調停段階から東京家裁で行うか、一時的に東京家裁が管轄となる住所地に引っ越すなどをお勧めします。
訴訟を起こしたけれども、認められそうにない場合、通常は裁判所が心証(その時点での判決見込み)を開示してくれます。
それを受けて、通常は訴訟を取り下げます。
裁判官の心証が悪いのに判決をもらっても、ダメだという判決が出されるだけで何のメリットもないからです。
取り下げたあとですが、もともと無理筋だったのをイチかバチかで訴訟提起した場合にはあきらめることも必要になります。
普通は認められるだろうというケースで、厳しい裁判官に当たってしまった場合には、取下げて再訴訟します。
⑵ 調停の具体的な手続き
① 申立て準備
調停は、申立てで始まるので、なるべく早く申し立てることをお勧めしますが、出産後はなかなか動けないと思いますので、なるべく出産前に準備しておきましょう。
事前に準備しておくものは以下のものです。
・調停申立書等の裁判所に提出する書類の記載(詳細は、以下の②参照)
・証拠の収集、整理
・戸籍謄本3通(1⃣前夫の結婚当時のもの(除籍謄本)、2⃣離婚後のもの、3⃣子の父親のもの)
・DNA鑑定の予約
なお、DNA鑑定については、裁判後に裁判所指定の鑑定機関で行うことも可能ですが、その場合、1回目の調停で鑑定を命じられ、期日間で鑑定をし、2~3か月後に2回目の調停を行い、そこで鑑定結果を確認し判断することとなるため、審判がなされるのが遅くなります。
そのため、当事務所では、事前に私的なDNA鑑定を行うことをお勧めしております。
DNA鑑定については、非常に簡易なものから刑事裁判で使われるような高精度なものまで様々で、簡易なものだと裁判所に再鑑定を命じられる可能性があります。
そこで、DNA鑑定を依頼する際には、裁判所での採用実績を問い合わせましょう。
② 申立て
お子さんが生まれたら、病院で、
・出生証明書
・懐胎時期の証明書
を貰って、調停を申立てます。
並行してDNA鑑定の手続をしてください。
出生届は出さないでください。
出生届を提出すると、前夫が戸籍の子供の父欄に記載されてしまうからです。
ただし、海外で出産した場合で、その国が出生地主義の場合は、二重国籍との兼ね合いで3か月以内に出生届を提出しないと日本国籍を失う可能性があるので、その場合は、3か月の期間内に手続きが完了させるか、前夫が父と記載されるか、日本国籍をあきらめるかの3択を迫られます。
その他、行政手続きについては、最後に説明します。
DNA鑑定は、すぐに結果が出ないと思いますが、その場合は、申立ての際にDNA鑑定は追って提出と記載して申立てをし、第1回調停期日までに提出すれば大丈夫です。
具体的な調停の申し立て方法については、裁判所がかなり詳しく説明しており、費用や書式も公開しています。
こちらの裁判所のサイトの真ん中あたりが子供関係の調停申立の書式ですので参考にしてください。
ただし、認知請求調停の申立書だけは、なぜか一般的な認知調停の書式で、300日問題に対応していません。
具体的には、出生届を出していないので、本籍地を空欄、または、出生届未了と記載して提出する必要があります。
また、お子さんの名前の表示ですが、担当裁判官によって異なり、母親と同じ名字で記載する場合と、下の名前だけ書くように言われる場合があります。
ここは裁判官しだいですので、とりあえず苗字も書いておいて、裁判所から訂正するように言われたら訂正すればよいと思います。
次に、申立ての理由が裁判所の書式では全然足りません。
記載例を張り付けておくので、参考にしてください。
なお、証拠を裁判所に出す場合は、出す順番に「甲第●号証」と右上に朱書して提出します。
一覧で分かるように、できれば資料説明書を提出しておきましょう。
③ 調停申し立て後の流れ
裁判所の窓口で、あるいは郵送で調停申し立てをすると、形式面のチェックがされ、問題がなければ2週間程度で裁判所から日程調整の連絡があります。
現在の東京家裁の状況ですと、1回目の調停は、申立てから2か月ほど先になります。
とりあえず申し立てをして、DNA鑑定を後回しにした場合は、この1回目の調停までの間にDNA鑑定書を提出します。
調停当日は、裁判所に指定された場所で待ちます。
調停は、両親のみでも可能ですが、当事務所では、裁判官や調停委員に少しでも共感してもらうために、赤ちゃんも一緒に出席することをお勧めしています。
調停開始までは、申立人待合室と相手方待合室に分かれて待つことになりますが、担当裁判官によっては、争いがない場合には、一緒に申立人待合室で待っていてもよいと言われることもあります。
調停の進め方も裁判官によって違いますが、多くの裁判官は、原則通り、調停委員が調停手続の説明をし、申立人⇒相手方の順で事情を聞きます。
調停で、よく質問されることは、以下の質問リストからダウンロードしてください。
双方からの聞き取り後、当事者間に争いがなく、証拠も十分あるという場合には、裁判官が出席し、再度事実関係の確認をし、1回で調停が終了します。
調停終了から2週間程度で審判がなされ、審判書を受け取りに行くか郵送してもらいます。
審判書受領から2週間の異議申し立て期間があるので、その期間経過後に審判確定証明書をもらいます。
審判確定証明書は、申請書と収入印紙200円が必要ですが、申請書は裁判所の担当部署の窓口でもらえます。
以上が一般的な流れですが、裁判官によっては、調停の最初から裁判官が立ち会い、双方同席のうえで簡単に事情を聞かれ、その場で審判言渡しがあり、しかも、その場で異議申し立て権放棄書の提出を促されて、すぐに審判書と確定証明書がもらえるということもあります。
逆に、調停は1回で終わったものの、審判は2か月後ということもありました。
なお、実の父親に対する認知調停で、証拠が十分でない、あるいは、前夫に対する手続保障が必要と言われ、前夫に照会をしたいと言われることがあります。
その場合は、その裁判官が特別厳しくてそのような判断になったのか否かを見極め、厳しすぎると考える場合はいったん取り下げて再調停をするか、認知請求訴訟に進みます。
元々ダメそうだったけれども、イチかバチかやってみたら、やはりだめだったという場合は、前夫への連絡を覚悟しましょう。
⑶ 訴訟(裁判)の具体的な手続き
調停段階で解決しなかった場合は、さすがに弁護士に依頼することをお勧めします。
どうしても自分でやりたい方のために、書式を貼っておきます(弁護士の方もご自由にご利用ください)。
記載内容は、調停申立書の理由とほぼ同じ内容を書くことになります。
訴訟提起をすると、2週間程度で裁判所から日程調整の連絡があります。
日程調整をして第1回口頭弁論期日が決まったら、期日に指定された法廷に出向きます。
証拠が十分な場合には、1回目の期日で終了し、判決を待つことになります。
事案や裁判官によっては、結審(主張する機会の終了)し、引き続きその場で判決言い渡しとなることもあります。
証拠が不十分な場合には、追加証拠を求められたり、尋問手続に入ることがあります。
申し立て内容が認められる判決が貰えたら、2週間の控訴期間が経過するのを待ち、判決確定証明書をもらいます。
裁判官によっては、控訴権放棄書の提出をすれば、すぐに確定させてくれます。
3 行政関係の手続き
⑴ 出生届の出し方
お子さんが生まれたら、病院から出生証明書をもらいますが、前記の通り、これは提出しないでください。
なぜなら、前夫が父親欄に記載されてしまうからです。
なお、法律上は、出生後14日以内に出生届を提出しないと5万円以下の科料(罰金のようなもの)が科されることになっていますが、今のところ課された例はないようです。
海外在住の方については、国籍の関係で3か月以内に出生届提出の必要があることは前記のとおりです。
認知調停等の手続が終わり、裁判所から審判(判決)と審判(判決)確定証明書がもらえたら、それらと出生証明書を役所に提出して出生届の手続をしてください。
⑵ 行政サービスの受け方
お子さんが生まれると、各種予防接種を受けたり、健康保険に入ったり、児童手当や、保育所の入所、母子保健等の児童福祉行政上のサービスが受けたりすることが出来ますが、出生届を提出していなくても、これらのサービスを受けることが出来ます。
法務省では、各種調停の申し立てを要件として、仮の住民票をつくり、各種サービスが受けられるようにしています。
ですから、お子さんが生まれた段階で、書類がすべてそろっていなくても、「追完予定」として早期に調停を申立て、裁判所で「事件係属証明書」をもらいましょう。
役所の窓口で300日問題により出生届が出せないこと、仮の住民票をつくって欲しいこと、事件係属証明書を取得済みであることを説明すれば、手続きをしてもらえます。
300日問題を取り扱ったことがない役所だと、手続きをするのに待たされることもあるので、できれば出産前に住民課等に事情を説明し、出産後にどのような手続きをすればよいか相談しておきましょう。
なお、かなり前ですが、区役所窓口で出生届を提出しないと住民票が作れず、住民票がないと行政サービスが受けられないと説明を受けた方がいらっしゃいましたが間違いです。
そのような場合は、こちらの法務省の無戸籍児に関するサイトのQ&Aの最後に各種行政サービスが受けられるとの記載がありますので、担当者にリンク先のページを示してください。
なお、勤務先の健康保険に加入を希望する場合は、勤務先の健康保険組合にご相談下さい
今のところ、一番厳しい健康保険組合でも仮の住民票を提示して加入ができています。
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監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。