35年間別居していても、年金分割の分割割合は0.5とした裁判例
長期間の別居を経て離婚をする場合、別居期間については夫婦としての協力関係がないから、年金分割の分割割合を修正すべきだとして争った事案で、分割割合は原則通り0.5(半分ずつ)とするとした裁判例をご紹介します。
1 事案の概要
・1974年12月2日 結婚
・1983年ころ 別居開始
・2018年7月2日 元夫が、離婚訴訟を提起し、元妻が争わなかったため離婚成立
・2019年 元妻が年金分割調停申立
・2019年5月9日 大津家庭裁判所審判(元妻が即時抗告)
・2020年8月21日 大阪高等裁判所決定(本件)
2 大阪高等裁判所令和1年8月21日決定
「婚姻期間44年中、同居期間は9年程度に過ぎないものの、夫婦は互いに扶助義務を負っているのであり(民法752条)このことは、夫婦が別居した場合においても基本的に異なるものではなく、老後のための所得保障についても、夫婦の一方又は双方の収入によって、同等に形成されるべきものである。
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そうすると、対象期間中の保険料納付に対する抗告人と相手方の寄与の程度は、同等とみるべきであるから、本件案分割合を0.5と定めるものとする。」
3 コメント
年金分割の分割割合については、原則として0.5とし、例外的に、割合を平等にすることが著しく不当とみられる場合に若干の修正が認められます。
裁判例では、夫がまともに働かず、かつ、浪費がひどかったような事案で、分割割合を修正された例などがありますが、極めてまれな例です。
本件は、長期間の別居が分割割合が修正されるべき例外的な場合にあたるかが争われましたが、大阪高裁は、修正理由にはならないとしました。
なお、原審である大津家庭裁判所は、別居期間中は、夫婦としての協力がないことを理由に、分割割合を0.35としています。
原審が判示したように、別居後は夫婦としての協力がないことを重視すれば、分割割合を修正すべきということになるでしょう。
当事者の年齢(70歳前後)を考慮すると、女性が男性と同等の待遇で正社員として定年まで働くのは珍しい時代だったでしょうから、判決文には書かれていませんが、大阪高裁は、女性の老後を保証する必要性もあると考えたのではないでしょうか。
また、本件は違いますが、たとえば、相手の浮気で別居となったような場合にも配慮は必要でしょう。
そのように考えても、どうしても相手のことが嫌な場合は、早期に離婚訴訟を提起すればよいのですから、さほど元夫に不利益とはいえないでしょう。
なお、本裁判例にどの程度先例拘束性があるか分かりませんが、弁護士としては、年金分割割合の変更を求める場合には、単に、長期間の別居のみを主張するのでは足りず、他にも0.5とすることが不平等だという理由を主張していかなければならないと考えておく必要があります。
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監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。