別居中の児童手当は、実際に子供を監護している親のものです
児童手当は、収入の多い方の親の口座に振り込まれますが、それが別居時に子供を監護する方の親の口座ではないことがあります。
多いのは、夫の口座が振込口座となっており、妻が子供を連れて出て行ったというケースです。
このようなケースでは、別居後速やかに市区町村役場で別居していることを証明する書類を提出し、振り込み口座を変えてもらうことになりますが、行政手続きの関係で別居後もしばらくの間夫の口座に児童手当が振り込まれるということがあります。
その場合、夫に児童手当を支払うよう要求すれば、ほとんどのケースで支払いをしてくれますが、まれに、「支払わない」と争われることがあります。
そのような場合、どちらに児童手当をもらう権利があるのでしょうか?
1 児童手当は、別居中はどちらの親がもらう権利があるか?
この点については、児童手当法4条に明確に定めがあります。
少し長いですが引用します。
”児童手当法4条
1 児童手当は、次の各号のいずれかに該当する者に支給する。
① 次のイ又はロに掲げる児童を監護し、かつ、これと生計を同じくするその父又は母であつて、日本国内に住所(未成年後見人が法人である場合にあつては、主たる事務所の所在地とする。)を有するもの
②以下略
2 前項第一号の場合において、児童を監護し、かつ、これと生計を同じくするその未成年後見人が数人あるときは、当該児童は、当該未成年後見人のうちいずれか当該児童の生計を維持する程度の高い者によつて監護され、かつ、これと生計を同じくするものとみなす。
3 第一項第一号又は第二号の場合において、父及び母、未成年後見人並びに父母指定者のうちいずれか二以上の者が当該父及び母の子である児童を監護し、かつ、これと生計を同じくするときは、当該児童は、当該父若しくは母、未成年後見人又は父母指定者のうちいずれか当該児童の生計を維持する程度の高い者によつて監護され、かつ、これと生計を同じくするものとみなす。
4 前二項の規定にかかわらず、児童を監護し、かつ、これと生計を同じくするその父若しくは母、未成年後見人又は父母指定者のうちいずれか一の者が当該児童と同居している場合は、当該児童は、当該同居している父若しくは母、未成年後見人又は父母指定者によつて監護され、かつ、これと生計を同じくするものとみなす。”
長々と書いてありますが、同居している方の親に払いますよということが書いてあります。
法律に明確に書いてあるので、実際に監護していないほうの親が「支払わない」と言っても勝ち目はありません。
ですから、児童手当に関して争われるケースは極めてまれです。
2 争われた場合にどうやって請求する?
⑴ 裁判例
上記のとおり争われること自体がマレなケースです。
しかも、裁判をすれば確実に赤字になります。
そのため、裁判例も私が知る限り1例しかありません。
その裁判例では、妻は、財産分与の一部として児童手当を支払うよう要求しましたが、認められませんでした。
理由は、児童手当は、児童手当法に基づいて監護親に支払われるものであって、夫婦共有財産を分けるという財産分与とは性質を異にするというものです。
個人的には、財産分与は「一切の事情を考慮して」決めるわけですから、「児童手当の返還」という構成は無理でも、「夫は児童手当相当額の利益を妻の損失の下で受けているのであるから、それを考慮した金額とする」ということができないものかと思います(そうすると、およそ何でも離婚手続きで解決することになりかねませんが・・・)。
⑵ 返還請求可能な手続き①
上記裁判例は、財産分与の一部として請求したけれども認められなかったというものです。
これは、訴訟費用の関係で赤字にならないように、財産分与の一部として請求したものと思われますが、別途訴訟をすることも可能です。
上記1のとおり、児童手当法は、児童手当は、監護親に支払うとしているのに、監護していない方の親が受け取り、監護親が受け取れていないので、不当利得返還請求権(民法703条)を行使すれば認められると思われます。
ただし、何度もくどいですが、確実に赤字になります。
⑶ 返還請求可能な手続き②
DVに限ったことではありますが、裁判所を通さず自治体レベルで対応してくれる場合があります。
DVにより世帯分離の届け出が遅れた場合には、実際に別居を開始したときにさかのぼって、監護親に児童手当を給付し、既に非監護親に支給していた児童手当は、過誤給付として自治体が非監護親に返還請求をしてくれたことがあります。
常にこの方法が取れればいいのですが、このような方法は法律には定めがなく、現場レベルで法律をどう解釈運用するかの違いで、自治体によって取り扱いが異なります。
また、このような方法を認めてくれた自治体もDVに限っての例外的な運用とのことでしたから、どのような案件でも認められるわけではありません。
3 児童手当は婚姻費用・養育費を決める際の収入にあたるか?
この点については、収入として考慮されません。
なぜなら、児童手当は国が政策的な判断で、子育てを援助しているもので、本人の能力に関係なく政策的判断で増減、あるいは廃止されるものだからです。
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監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。