GPSで追跡することがストーカー規制法に違反しないとした最高裁判決
離婚相談の際に、相手が普段使っている車にGPSをつけて素行調査をしてよいかと質問を受けることがあります。
民事的には証拠として認められますが、ストーカー規制法や迷惑防止条例違反になる可能性があるので、やっていいとはいえませんと答えていましたが、この度、最高裁が、相手の車にGPSをつけて追跡することについて、原則としてストーカー規制法に違反しないと判示しました。
最高裁判所第一小法廷は、令和2年7月30日判決(平成30年(あ)第1528号、平成30年(あ)第1529号の2つの判決)で次のように判示しています。
ストーカー規制法2条1項1号は,好意の感情等を抱いている対象である特定の者又はその者と社会生活において密接な関係を有する者に対し,「住居,勤務先,学校その他その通常所在する場所(住居等)の付近において見張り」をする行為について規定しているところ,この規定内容及びその趣旨に照らすと,「住居等の付近において見張り」をする行為に該当するためには,機器等を用いる場合であっても,上記特定の者等の「住居等」の付近という一定の場所において同所における上記特定の者等の動静を観察する行為が行われることを要するものと解するのが相当である。」
そして、具体的事実への当てはめ部分で、平成30年(あ)第1528号では、
「被告人は,妻が上記自動車を駐車するために賃借していた駐車場においてGPS機器を同車に取り付けたが,同車の位置情報の探索取得は同駐車場の付近において行われたものではないというのであり,また,同駐車場を離れて移動する同車の位置情報は同駐車場付近における妻の動静に関する情報とはいえず,被告人の行為は上記の要件を満たさない」
としています。
平成30年(あ)第1529号では、次のように具体的事実へ当てはめています。
「被告人は,元交際相手が利用していた美容室の駐車場等においてGPS機器を上記自動車に取り付けたが,同車の位置の探索は同駐車場等の付近から離れた場所において行われたというのであり,また,同駐車場等を離れて移動する同車の位置情報は同駐車場等の付近における同人の動静に関する情報とはいえず,被告人の行為は上記の要件を満たさないから,「住居等の付近において見張り」をする行為に該当しないとした原判決の結論は正当として是認することができる。」
通常は、不貞行為の証拠集めのためにGPSをつけて相手の行動を監視する場合は、住居等における相手の動静を知りたいのではなく、どこへ行ったか(通常はラブホテルや浮気相手の家に行ったか)が知りたいのですから、最高裁判決の解釈によればストーカー規制法違反となることはないでしょう。
もっとも、最高裁も無条件に適法としているわけではない点は注意が必要です
*冒頭に記載した通り、迷惑防止条例違反の方で問題となりうる可能性はあります(東京都迷惑防止条例だと条文上該当しないと思われます)。
*正当な理由がない限り、民事上はプライバシー侵害として違法となる可能性があります。
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監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。