再婚相手の子との養子縁組を隠して元妻と養育費の合意をした後の減額請求の可否
元妻との間の子の養育費を決める際に、すでに再婚し、再婚相手の子を養子としていたのに、そのことを元妻に知らせずに養育費の合意をしました。
その後、元夫が、実は養子がいて生活が苦しいから養育費を減額してほしいと主張した場合、その主張は認められるでしょうか?
このことについて判断したのが、東京高等裁判所平成19年11月9日決定です。
この事案は、養育費に関する調停が成立した約1年後に、元夫が、仕事で使うトラックの費用がかかることと、再婚相手の連れ子を養子にしたため社会保険料が上がったことなどから、借金や税金滞納が生じており、以前合意した養育費は払えないとして養育費減額請求調停を申立てたものです。
元夫は、先の調停の際には、すでに再婚相手の連れ子を養子にしており、仕事用トラックも老朽化により早晩買い替えまたはレンタルが必要という事情が分かっていました。
このような事情において、東京高等裁判所は、
「調停は当事者双方の話合いの結果調停委員会の関与の下で成立し,調停調書の記載は確定判決と同一の効力を有するのであるから,その内容は最大限尊重されなければならず,調停の当時,当事者に予測不能であったことが後に生じた場合に限り,これを事情の変更と評価して調停の内容を変更することが認められるものであるところ,上記の事情に照らすと,相手方の収入の減少は相手方に予測可能であって,これをもって養育費を減額すべき事情の変更ということはできない。」
として、養育費の減額が認められませんでした。
【コメント】
養育費について合意をしても、その後に事情の変更があった場合には、増減額が認められます。
しかし、この事案のように、再婚相手の子と養子縁組をしたことを隠して養育費の合意をしておきながら、後になって、実は養子がいましたなどという主張が認められないのは当然と思う方が多いでしょう。
私も、感覚的にはそう思うのですが、裁判例を見てみると、必ずしもそうはいえません。
現に、この事案は、一審では減額が認められたために、不服申立てがされ、東京高裁が判断することとなりました。
また、本件のように連れ子を養子にしたのではなく、浮気をして隠し子がいたけれども、それを隠して養育費の取り決めをして離婚し、離婚後に隠し子を認知し、扶養家族が増えたから減額を求めたという事案もあります。
そのような事案で、大阪家庭裁判所平成26年7月18日審判は、隠し子が元夫の行為により負担を受けなければならないのはおかしい、隠し子の福祉も考慮すべきだとの理由で減額を認めています。
この大阪家裁の事案は、元夫が失業してしまっていた事案ですので、当初の取り決め通りだと、隠し子があまりにも困窮してしまうという事情もありました。
たしかに、大阪家裁がいうように、親がズルをした負担を隠し子が受けなければならないのは理不尽なのですが、他方で、元妻をダマした元夫の減額請求が通るのもおかしな話です。
原則として東京高裁が言うように、合意時に分かっていた事情を理由として減額請求は認めないとしながら、例外的に大阪家裁のように、あまりにも困窮する場合は養子(隠し子)の福祉の観点から多少の減額を認めるのが落としどころかもしれません。
【関連コラム】
・再婚相手の子を養子にした場合の養育費に関する裁判例
・養育費の計算|2019年12月改定対応
・コラム目次ー男女問題を争点ごとに詳しく解説-
監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。