前妻との子や浮気相手との子がいる場合の婚姻費用の計算
婚姻費用を請求したところ、夫から「前妻との子の養育費があるから、そんなに支払えない」との主張があった場合、どのように婚姻費用を計算すればよいでしょうか?
この問題は、夫が子供を監護していて妻に婚姻費用を請求するケースで、妻に前夫との子がいる場合も同様です。
また、夫と前妻との間に子がいる場合だけでなく、浮気相手との間に子供ができた場合でも同様に問題になります。
以下では、説明の便宜上、夫に前妻との間に子がいる場合を想定して説明するので、適宜ご自身のケースに読みかえてください。
1 権利者(妻)、義務者(夫)、前妻の基礎収入の算定
基礎収入は、総収入から税金や収入を維持するのに必要な費用などを差し引いたもので、年収2000万円(自営業の場合1567万円)までは統計を利用して画一的に算出します。
具体的には、実際の収入に以下の割合をかけて算出します。
会社員・公務員などの場合(総支給額に対し以下の割合)
0~75万円・・・・・・・・54%
75万~100万円・・・・・50%
100~125万円・・・・・46%
125~175万円・・・・・44%
175~275万円・・・・・43%
275~525万円・・・・・42%
525~725万円・・・・・41%
725~1325万円・・・・40%
1325~1475万円・・・39%
1475~2000万円・・・38%
2000万円~・・・・・・・具体的事情に応じて算出
自営業の場合(所得金額-社会保険料+青色申告(白色申告)特別控除+実際に支払っていない専従者給与、に対し以下の割合)
0~66万円・・・・・・・・61%
66~82万円・・・・・・・60%
82~98万円・・・・・・・59%
98~256万円・・・・・・58%
256~349万円・・・・・57%
349~392万円・・・・・56%
392~496万円・・・・・55%
496~563万円・・・・・54%
563~784万円・・・・・53%
784~942万円・・・・・52%
942~1046万円・・・・51%
1046~1179万円・・・50%
1179~1482万円・・・49%
1482~1567万円・・・48%
1567~・・・・・・・・・具体的事情に応じて算出
まずは、支払い義務者である夫、請求権利者である妻、前妻の基礎収入を算出します。
① 夫の基礎収入=夫の年収×上記比率
② 妻の基礎収入=夫の年収×上記比率
③ 前妻の基礎収入=前妻の年収×上記比率
2 前妻との間の子の生活費指数のうち夫負担分の算定
次に、夫と前妻との間の子について、夫と前妻との間で、どちらがどれだけ生活費を負担するかを決めます。
そのために、生活費指数というものを利用します。
生活費指数は、大人を100とした場合、子供の生活費がどれくらいかかるかを統計的に算出したもので、14歳以下の子を62、15歳以上の子を85とします。
この生活費指数を夫と前妻の基礎収入の比率で割り付けます。
④ 前妻との子の生活費指数のうち夫負担分=62×14歳以下の子の人数×②/(②+③)+85×15歳以上の子の人数×②/(②+③)
3 権利者世帯に割り振られる婚姻費用の計算
前妻との子の生活費のどれだけを夫が負担するかが決まったら、夫と妻の基礎収入をどういうふうに割り振るかを決めます。
具体的には、夫の基礎収入を現家族+前妻との子の生活費指数で割って、妻側の生活費指数で割り付けます。
これで、夫の収入のうち、いくら妻側世帯に割り振られるかが決まります。
次に、妻の基礎収入を現家族全員の生活費指数で割って、妻側世帯の生活費指数で割り付けます。
妻の基礎収入を夫の前妻の子に割り振る必要はないので、前者とは分母が異なる点に注意してください。
この両者を足したものが妻側世帯に割り当てられる生活費ということになります。
計算式にすると次のとおりになります。
権利者世帯に割り振られる婚姻費用(⑤)=①×(100+62×14歳以下の子の人数+85×15歳以上の子の人数)/(100+100+62×14歳以下の子の人数+85×15歳以上の子の人数+④)+②×(100+62×14歳以下の子の人数+85×15歳以上の子の人数)/(100+100+62×14歳以下の子の人数+85×15歳以上の子の人数)
4 義務者の負担額の計算
最後に、上記の妻側世帯に割り振られる婚姻費用から、既に妻の手元にある妻の基礎収入を差し引きます。
義務者が負担する婚姻費用=⑤-①
これで、夫に前妻がいる場合の婚姻費用が計算できます。
5 具体例
上記計算方法について、具体例で考えてみましょう。
夫は会社員で年収700万円、妻も会社員で年収300万円、夫婦間に3歳子1人、夫の前妻も会社員で年収500万円、前妻との間の子17歳1人、10歳の子1人とします。
① 夫の基礎収入=700万円×41%=287万円
② 妻の基礎収入=300万円×42%=126万円
③ 前妻の基礎収入=500万円×42%=210万円
④ 前妻との間の子の生活費指数のうち夫負担分=85×①/(①+③)+62×①/(①+③)≒84.8873
⑤ 妻側に割り振られる金額=①×(100+62)/(100+100+62+④)+②×(100+62)/(100+100+62)=211万9404円
⑥ 夫が負担する婚姻費用=⑤-②=85万9404円
月額=85万9404円/12か月=7万1617円
となります。
ちなみに、前妻との間に子がいなかった場合は、月額10万7805円なので、前妻との間に子が2人いると約3万5000円減額されることになります。
【関連コラム】
・再婚相手の子を養子にした場合の養育費に関する裁判例
・コラム目次ー男女問題を争点ごとに詳しく解説-
監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。