ペットの財産分与と将来の飼育費用についての裁判例
ペットを飼っている夫婦が離婚をすることになると、そのペットをどちらが引き取るか、将来の飼育費用はどうするのかが問題になることがあります。
よくある問題でありながら、裁判例があまりないのですが、福岡家庭裁判所久留米支部の令和2年9月24日判決が、結婚後に飼った犬がどちらのものになるのかと、将来の飼育費用をどうするかについて判断したのでご紹介します。
1 事案の概要
・1996年8月 結婚
・2001年10月 戸建てを借りる
・犬を飼う
・2012年 夫が自宅を出て別居開始
妻の家賃月額4万5000円及び公共料金は夫が負担
犬3頭(ゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバー、雑種(中型犬))を飼っていたが、別居後は妻宅で飼育している。
夫は、別居後も餌代を負担。
夫の主張:犬3頭は、財産的価値がないため財産分与の対象とならない。
餌代は今後も負担するほか、散歩等にも協力する。
妻の主張:犬は、持分2分の1ずつの共有とする。
飼育継続のために自宅の賃貸を継続する必要があるし、餌代や獣医師への支払も必要である。犬たちが生存する限り、扶養的財産分与として4万5000円を請求する。
2 判決
犬3頭については、積極的な財産的価値があるとは認めがたいものの、一種の動産ではあり、広い意味では夫婦共同の財産に当たる。
事実上、今後も被告が被告宅において飼育し続けざるを得ないものである。
しかし、犬3頭分の餌代、その他の費用を負担する必要もあるところ、その全額を被告に負わせるのは公平を欠くというべきである。
そこで、被告が主張するように、犬3頭についてはこれを原被告の共有と定め、民法253条1項により原被告が持ち分に応じて飼育費用を負担するものとしておくのが相当と考えられる。
そして、原告がアルバイトなどで稼働してきたもので現在は無職であり、借家住まいであることに照らすと、持分割合は、原告2対被告1として、同割合で費用を負担するのが実質的な公平にかなうといえる。
また、同条項には、同法649条にあるような費用前払に関する規定はないが、犬3頭の飼育費用として、被告宅家賃の一部及び原告が支払い中の餌代が今後も発生し続けることは明らかであるため、その3分の2については人事訴訟法32条2項により、原告に支払いを命ずるのが相当である。
被告宅の家賃月4万5000円のうち、少なくとも半分程度は被告自身の居住のための費用とみるべきであるから、飼育場所の確保のための費用に当たるのは月2万2500円程度とみられる。
この費用は、1頭でも犬が飼育されている間は発生し続けるから、その間は、原告はその3分の2である月1万5000円を支払うものとするのが相当である。
また、証拠(甲14)によれば、原告が負担をしている餌代は税込みで概ね月4000円余りで、1頭当たり月1400円弱と認められるから、その3分の2相当である1頭当たり月900円について、原告は毎月被告に支払うものとしておくこととする。
なお、これらの支払額の定めは、飼育場所の確保のための費用を月2万2500円、1頭当たりの餌代を月1400円弱として算定したものであり、特に餌代については実際の額を下回っているいると認められるから、被告が上記支払額の定めを超える必要費を支出したときは、その3分の2について原告に償還を求めることは妨げられない。
逆に、実際にかかる費用が上記の前提とした額を下回るようになった時には、原告は請求異議により支払額の減免を求めることが出来ると解される。
3 解説
ペットは、法律上は物と同じ扱いです。
ですから、ペットの養育費という概念はありません。
そのため、一般的には、離婚時にペットの帰属が問題になった場合には、裁判所がどちらかを飼主と決め、以後は、飼主が飼育費用を負担します。
なお、ペットの種類や年齢によっては、財産的価値がない場合がありますが、財産的価値がない場合は、ペットを取得した方が相手に代償金を支払わなくてよいというだけで、財産的価値がないから裁判所は夫婦どちらの物になるかの判断をしなくてよい、ということにはならないので、本件夫が主張している、財産的価値がないから財産分与の対象外だという主張には無理があります。
本件では、上記のような、ペットをどちらに取得させるか決めるだけという一般的な判断と異なり、ペットである犬を共有として、共有物に関する費用負担の問題として、夫婦双方に費用を案分して負担するよう命じました。
本件は、大型犬2頭と中型犬1頭の合計3頭をペット可の賃貸住宅で飼育しているという事案であり、簡単には引っ越しできないことから、裁判官がペットの財産分与の原則的判断枠組みを維持ししつつ、他の民法の条項を引用して、苦心の末妥当な落としどころをひねり出したという印象です。
本件のような、ペットが原因で簡単には引っ越しできず、かつ、飼育費用が多額になる場合には参考になると思われますが、本件がペットの財産分与に関する一般的考えとはいえないでしょう。
【参考条文】
民法253条1項
各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。人事訴訟法32条
1 申立てにより、夫婦の一方が他の一方に対して提起した婚姻の取消し又は離婚の訴えに係る請求を認容する判決において、子の監護者の指定その他の子の監護に関する処分、財産の分与に関する処分又は厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)第七十八条の二第二項の規定による処分(以下「附帯処分」と総称する。)についての裁判をしなければならない。
2 前項の場合においては、裁判所は、同項の判決において、当事者に対し、子の引渡し又は金銭の支払その他の財産上の給付その他の給付を命ずることができる。
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監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。