財産分与の基礎知識
離婚をするときに、夫婦の財産を分けることを財産分与といいます。
では、具体的にはどのようなものが財産分与の対象となり、どのように分ければよいのでしょうか?
財産分与の基本的な考え方について順に説明します。
目次
1 財産分与の種類
2 財産分与の対象になる財産、ならない財産
3 共有財産をどちらがどれだけもらうか
4 財産分与の方法
5 財産分与の請求期限
1 財産分与の種類
一口に財産分与といっても、法的には3つに分類されます。
① 清算的財産分与:貯まった財産を分ける
② 扶養的財産分与:将来の生活費を考慮して財産を分ける
③ 慰謝料的財産分与:慰謝料を考慮して財産を分ける
もう少し詳しく説明しましょう。
① 清算的財産分与とは?
清算的財産分与とは、2人で築いた財産を、その寄与度(貢献度)に応じて分けましょうという制度です。
通常、財産分与といえば、この清算的財産分与をいいます。
裁判で決める場合、②扶養的財産分与と③慰謝料的財産分与が認められることは、ほとんどありません。
② 扶養的財産分与とは?
離婚すると一方が経済的に苦しくなる場合に、その一方の当面の生活費分を考慮して財産分与をすることがあります。
これを扶養的財産分与といいます。
もっとも、扶養的財産分与が認められるのは非常に限定されており、一方に障害があったり、高齢で年金もないといったような場合に限られます。
専業主婦だから収入がないとか、子供が小さいから働けないという程度では、扶養的財産分与は認められません。
③ 慰謝料的財産分与
慰謝料的財産分与とは、通常は、離婚慰謝料として別途請求する慰謝料を財産分与の一部として考慮しようというものです。
上記のとおり、通常は慰謝料を別途請求するので、慰謝料的財産分与が認められることは、まずありません。
2 財産分与の対象になる財産、ならない財産
① 財産分与の対象になる財産
財産分与は、夫婦として築いた財産を分ける制度です。
ですから夫婦として協力関係がある間に築いた、ほぼ全ての財産的価値があるものは、名義がどちらのものであるかにかかわらず、夫婦共有財産として財産分与の対象になります。
例えば、結婚後に自宅を購入したけれども名義は夫のみという場合でも、自宅は夫婦共有財産として財産分与の対象となります。
ほかにも、預貯金や生命保険の解約返戻金(かいやくへんれいきん)など、財産的価値があるものは原則として財産分与の対象となります。
細かいところでは、家具・家電も対象になりますが、中古価格になってしまうので、ほとんど財産的価値はないため、だいたい公平になるように分け合うことになります。
では、「夫婦で協力して」築いたかどうかをどうやって判断するかですが、同居期間中に築いた財産は原則として夫婦で協力して築いたとみなされます。
不仲で別居しているような場合には、夫婦としての協力関係がないので、その期間中に築いた財産は、財産分与の対象にはなりません。
一緒に生活していなくても、単身赴任中の場合は、仕事の都合で別居しているだけで協力関係がなくなったとはいえないので、原則として財産分与の対象となります。
② 財産分与の対象とならない財産(特有財産)
財産分与の対象は、夫婦で協力して築いた財産ですから、独身時代に貯めたお金や、相続、両親からの贈与で得たお金は財産分与の対象になりません。
このような財産を特有財産といいます。
③ 財産分与の対象となるかが争われやすい財産
・退職見込み金
当事者が会社員(公務員)で、まだ退職していないけれど、今辞めたら退職金が出るという場合、その退職見込み金が財産分与の対象となるかどうかが争われます。
この点については、将来退職金が支払われる可能性がどれくらいあるかで判断されます。
具体的には、年齢や会社の規模を総合考慮して決めますが、近年の裁判例では、多くの場合で退職見込み金を財産分与の対象としています。
・専用財産
宝石や時計などが、財産分与の対象か争われることがありますが、どちらか一方のみが使うことを想定して購入された財産は専用財産といい、原則として財産分与の対象とはなりません。
ただし、すごく高額なものの場合、それを財産分与の対象外とすると不公平ですから、財産分与の対象とされることがあります。
・借金
借金のようなマイナスの財産について、財産分与で争われることがありますが、原則として財産分与の対象とはなりません。
なぜなら、財産分与とは、夫婦で協力して築いた財産を分ける制度であるところ、マイナス財産は、夫婦で協力して築いた財産といえないからです。
もっとも、住宅ローンのように、代わりにプラスの価値がある物を手に入れている場合に、自宅は財産分与の対象になるけれども住宅ローンは個人の借金というのは不公平ですので、これらは一体の物として評価されます。
また、夫婦の共同生活のためにやむを得ずにした借金、たとえば、子供の学費が足りずに夫婦で話しあってお金を借りたような場合は、他にプラスの財産がある場合にはプラスの財産と差し引きされます。
3 共有財産をどちらがどれだけもらうか
財産分与の対象となる財産が決まったら、それをどのように分けるかが問題となりますが、分ける割合は寄与度(貢献度)に応じて決まります。
寄与度については、2分の1とするのが原則です。
よく、専業主婦だから寄与度が低くなるのではないかという質問を受けますが、専業主婦か、パートか、正社員かといったことで2分の1の割合が変わることはありません。
もっとも、年収1億円、資産30億など、明らかにその人の特殊な才能によって高額な財産を築いているような場合は、この割合が6:4になったり、7:3になったりすることはあります。
その判断は、具体的な資産額のほかに、どのような資格や才能で稼いでいるのか、その資格は結婚前に得たものか、将来も同様の収入が得られる見込みか、といった事情を総合考慮してなされます。
4 財産分与の方法
財産分与について、話し合いで解決出来るならば、話し合いで決めてかまいません。
話し合いで決める場合は、上記のような法律上の取扱いにとらわれず自由に決めることができます。
もっとも、社会的に許されない内容だと無効になることがありますし、あいまいだと後々トラブルになることがあるので、十分注意しましょう。
話し合いで決着がつかない場合は、裁判所に調停を申し立てることになります。
離婚と同時に財産分与をする場合は、離婚調停とセットで申し立てます。離婚後に財産分与をする場合は、財産分与調停を申し立てることになります。
調停は、裁判所で行う話し合いです。裁判所の臨時職員である調停委員が仲立ちをしてくれますし、裁判官が意見を言ってくれることもありますが、話し合いにすぎないので、当事者が合意しない場合は不成立となります。
調停で決着がつかない場合は、裁判官に決めてもらうことになりますが、離婚とセットの場合は、離婚とセットで訴訟(裁判)を起こすことになります。
財産分与だけ調停を申し立てた場合は、調停手続から自動的に審判という手続になります。
審判は、家庭内のもめごとについての特殊な裁判と思ってください。
5 財産分与の請求期限
財産分与は、離婚時に解決するのが通常ですが、とりあえず離婚をして、あとから財産分与を請求することも可能です。
その場合、離婚をした日から2年以内に請求する必要があります。
この2年という期限は除斥期間(じょせききかん)といって、時効のように相手が承諾したからといって延長することはできないので注意してください。
また、ここでいう請求とは、裁判上の請求(調停、審判、訴訟)をいうので、請求書を送ったからといって安心しないでください。
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なごみ法律事務所
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住所:〒104-0032 東京都中央区
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弁護士 本 田 幸 則
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監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。