親の介護で働けないことが婚姻費用に影響を与えるか
親の介護で働けないから、収入をゼロとして婚姻費用を算出してほしいという主張について判断した東京高等裁判所の決定をご紹介します。
1 東京高裁令和4年5月17日決定の概要
申立人が要介護3の親を介護しているから働くことが出来ないため、収入をゼロとして婚姻費用の算定を求め、相手方が、親に対する生活扶助義務は、夫婦間の生活保持義務に劣後するから、親の介護は婚姻費用算定に影響を与えない=パート程度の年収(120万円)があると仮定して婚姻費用を算出すべきとして争われました。
これに対し、東京高裁は、「婚姻費用分担額は当事者が実際に得た収入に基づいて算定するのが原則であって、潜在的な稼働能力に基づく収入を実際に得たものとみなして分担額を算定するのは、あくまでも当事者間の衡平を図るための例外的な措置であるところ、本件で認められる事情を総合考慮した場合を総合考慮した場合、上記例外的な措置を取らないと不当な結果が生じることになると認められないことは、1で引用する原審判「理由」第2の2⑶で認定説示するとおりである。」とし、介護により働けないから収入はゼロとして婚姻費用を算定すべきであるとの主張を認めました。
ここで、原審を引用しているので、原審をご紹介します。
原審は、さいたま家庭裁判所川越支部令和4年1月21日審判ですが、裁判所は、実親に対する扶養料の支払いと現に実親を介護しているために就労が困難になることは別問題である、介護保険制度を利用した各種行政サービスを利用してまで働かなければならないとするのは酷であるし、実現可能性も定かでない、として、介護を理由として働けないと主張した申立人の主張を認め、申立人の収入を0として婚姻費用を算定しました。
2 コメント
介護と収入に関する論点について記載した裁判例は、私が知る限り外にないため参考になるかと思います。。
結論としては、介護の必要性の程度問題で、親の要介護度が高く、放っておけないという場合に、親を放っておいてでも働けという訳にはいかないので、これを考慮した婚姻費用とせざるを得ないでしょう。
逆に、介護の必要性が低く、かつ、同居家族が何人もいて人手が足りているという場合には、介護は夫婦関係の経済問題に優先しないという判断になると思われます。
今回の決定は、支払い義務者には厳しい判断ですが、権利者は、その親に育てられたのですから、親が厳しい生活状況になれば援助はするでしょうし、義務者も、結婚時には、権利者の親が困ったら多少は援助しようという気もあったでしょうから、やむを得ないように思います。
もっとも、原審が、介護保険制度を利用した各種行政サービスを利用してまで働かなければならないとするのは酷であると判断したのは、やりすぎな気がします。
要介護の家族がいる家庭の多くは、働かないと家計が維持できないなどの理由で各種行政サービスを利用して働いています。
そのような実態を知ってか知らずか、「そこまでしなくていいよ」と裁判所が言うのは疑問を感じます。
私個人の意見としては、各種行政サービスを利用したけれども、それだけでは不十分で親族の介護が欠かせない、だから働けないということまで必要ではないかと思います。
なお、原審であるさいたま家裁は、「実親に対する扶養料の支払いと現に実親を介護しているために就労が困難になることは別問題である」としていますが、親への仕送りは、原則として婚姻費用に影響を与えません。
詳しくは、「親への仕送りと養育費・婚姻費用」のコラムをご覧ください。
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監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。