死後認知後の相続手続きに関する裁判例
亡くなった方(被相続人)に認知していない子供がいる場合、死後認知という手続きで認知をしてもらうことが可能です。
認知が認められると、その効力は生まれたときにさかのぼります(民法784条本文)。
ですから、死後認知された子供も最初から相続人であったことになります。
もっとも、死後認知は、死後3年間できるので、死後認知が認められた時には、すでに遺産分割手続きが終わっているということがあります。
そのような場合については、相続をやり直すのではなく、既に相続財産を受け取った相続人が、死後認知された相続人の相続割合相当額のお金を支払いなさいということになっています(民法910条)。
このお金の支払いが話し合いで解決できれば良いのですが、解決できない場合はどうするのか、実は法律には明確に書いていません。
そのため、どういう手続きで解決するのか、争う相手は誰にするのかが問題になったのが東京地方裁判所平成28年10月28日判決の事例です(控訴されています)。
この判決は、
①死後認知による相続問題は裁判で解決するもの
②もともとの相続人に配偶者と子がいる場合には、子のみを被告とする
と判示しました。
「どういう意味?」と思われたかもしれませんが、もっぱら手続き的な問題なので一般の方には理解しづらいかもしれません。
以下は、興味のある方のみお読みください。
1 死後認知による相続問題は裁判で解決するもの
これが問題となるのは、家庭裁判所には裁判手続きのほかに審判という手続きがあり、遺産分割は審判で決めることになっているため、死後認知によって生じた相続問題も遺産分割に準ずるものであるから審判手続きでするべきではないかという見解があるからです。
この点について、東京家庭裁判所は、審判事項について定めた家事事件手続法39条は、審判事項は別表1と2に限定する趣旨であるから、同表にない死後認知後の相続問題は裁判手続きで判断するとしたのです。
この判決の見解は、学説上も通説的なものです。
2 もともとの相続人に配偶者と子がいる場合には、子のみを被告とする
これがなぜ問題となるのかというと、死後認知後の相続問題で配偶者に影響する場合と影響しない場合があるからです。
たとえば、死後認知がなされる前の相続人が、配偶者のみであった場合、配偶者がすべての財産を相続しているわけですから、死後認知によって相続人になったものは、配偶者に対して相続分相当額を支払うよう請求することになります。
しかし、死後認知がなされる前の相続人が、配偶者と他の子供であった場合、配偶者が2分の1、子供たちが2分の1を相続することになります。
そうすると、たとえ死後認知によって子供が増えたとしても、配偶者の相続割合が2分の1であることに変わりがありません。
このような場合にも、相続に関する争いなのだから、相続人すべてを被告として裁判をしなければならないのか、それとも配偶者の相続割合には影響がないのだから、配偶者は裁判に巻き込まないようにするべきなのかが問題となります。
この点について、上記東京地方裁判所は、配偶者の相続権は、血族相続とは別系列の相続であり、相続分にも影響を与えないから、配偶者を被告として裁判に巻き込む必要はないと判断しました。
この判断についても、学説上通説とされる見解と同じものです。
もっとも、この原則を貫くと死後認知を受けた子供が著しく不利になるケースがあります。
たとえば、被相続人に配偶者と子がA人いて、遺産分割協議で全ての財産を配偶者のものとすると決めたあと、死後認知が認められた場合、認知を受けた子Bは、Aのみに相続分相当額のお金を請求できます。
この時、Aがお金持ちや破産できないような事情があればいいですが、Aが経済的に豊かでない場合、BがAにお金を請求しても、Aは支払えず、場合によっては破産されてしまうという場合があります。
破産されるとBは、Aに相続分相当額のお金は請求できません。
しかも、配偶者に対しては請求権がないので、どうしようもないということになります。
このような不利益を受けることについて、上記裁判例は、制度上やむを得ないと判示しています。
たしかに、上記のケースでうまくあてはまる法律はありませんが、私は、何か脱法的でおかしいと思えてなりません。
【関連コラム】
監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。