300日問題での認知調停の現状
離婚後300日以内の出産の場合、遺伝学的な父親に対する認知調停が出来る場合があります。
私が、平成24年ころに初めて東京家庭裁判所に300日問題での認知調停を申立てたときには、裁判所から事務所に「認知調停は出来ないのでは?」という電話がかかってきて、裁判官とも電話で話して、やっと受け付けてもらえたという状況でした。
しかし、300日問題がマスメディアなどで取り上げられたりした影響か、平成28年7月現在では、かなり手続がスムーズになってきています。
まず、受付自体に手間取ることがなくなりました(少なくとも、東京家庭裁判所、横浜家庭裁判所、千葉家庭裁判所、さいたま家庭裁判所では何も言われません)。
調停当日は、一応、申立人待合室と相手方待合室に別れて待ちますが、一緒に申立人待合室で待っていてもよいと言われることもあります。
東京家庭裁判所では、手続の説明が終わったら、調停の原則通り、申立人⇒相手方の順で事情を聞かれます。
何度も申立をしていますが、全てこの手順で行われています。
千葉家庭裁判所市川支部で調停が行われたときには、最初から裁判官が立ち会い、双方同席で、簡単に事情を聞かれる程度でした(これまでで一番簡単に認められました。このときの裁判官が例外的に柔軟な方なのかもしれません)。
横浜家庭裁判所川崎支部でも、裁判官立ち合いで簡単に事情を聴かれただけでした。
地方の裁判所ではルール化が進んでいないのかもしれません。
最近の事件では、調停委員の方が、以前に申立てたときは持っていなかったチェックシートを持っていて、そのチェックシートに従い質問をされました。
なお、チェックシートには、血液型の確認が書いてあるようでしたが、最近は子供の血液型を調べないのが通常ですし、DNA鑑定をするので、意味がない質問だと思います(平成29年1月の調停では聞かれませんでした)。
調停委員の方は、最近は子供の血液型を調べないということに驚いていたので、たぶん認知請求手続きは初めてだったのでしょう。
2018.3.17追記:最近は、またチェックシートが持たなくなったようです(あからさまにチェックしなくなっただけか?)
調停委員による事情の聴取が終わると、裁判官が出席し、事実関係の確認のため簡単な質問と、場合によっては追加でいくつか質問します。
DNA鑑定を提出している場合には、前夫に知らせることなく認知を認めてくれる裁判官が多いのですが、たまに前夫の手続保障の観点から、前夫に連絡したいとおっしゃる裁判官がいます。
こちらとしては、離婚問題を再燃させることになる等と強く主張し、今のところ前夫に連絡されたことはありません。
追記1:平成28年末に依頼を受けた事件で1件だけ、連絡する点は譲れないといわれたことがあります。もっとも、その案件は別居を証明する証拠がない案件でしたが。
追記2:認知調停の際に前夫への連絡が必要といわれたため不成立とし、認知訴訟をして前夫の関与なく認知が認めらられた事例がありました(コラム「300日問題は認知調停がダメでも認知訴訟で解決できることがあります」)
追記3:認知調停担当の裁判官から「認めない」と言われたため、認知訴訟をしたところ、認知訴訟の担当裁判官に調停に戻され、その裁判官がすぐに認めてくれるといったことがありました。
嫡出推定をくつがえすのに、どの程度の資料が必要かの判断は、裁判官によってかなりの幅があるようです。
認知調停が認められるかどうか迷っておられる方も、一度認知調停をしてみてはどうかと思います。
なお、DNA鑑定について、裁判官から「普通は、申立後に裁判所で行うんですが」と言われたことがあります。
半年ほど前に受けた弁護士会の研修でも講師の方は、裁判所でDNA鑑定をするとおっしゃってました。
しかし、そのときの講師の方2名は、いずれも自分で実際に申立をしたことはないとのことでしたので、「●●が普通」といえるほどメジャーな案件ではないと思います。
ちなみに、DNA鑑定を調停前に済ませるかどうかは、費用と調停に何度も行くことの煩わしさ、審判の早さなどから決めることになります。
裁判所でDNA鑑定となると、まずは、調停に1回出席し、裁判官の指示でDNA鑑定をすることになり、裁判所指定の鑑定機関と日程調整をして鑑定し、また調停に出席し、審判ということになります。
費用は、4万4000円です。
調停前にDNA鑑定をする場合は、お子さんが生まれてから速やかに鑑定機関に連絡し、鑑定します。
その後、その鑑定結果をつけて調停を申立をするので、裁判所に行くのは1回で済みます。
さらに早く進めるには、とりあえずDNA鑑定なしで申立をし、その後、調停期日までにDNA鑑定を追完する方法もあります。
もっとも、1度鑑定機関から鑑定結果が届くのが遅れてヒヤヒヤしたことがあるので、積極的にはお勧めしておりません。
費用は、私が何度かお願いしているところで、7万8000円程度です。
申立人と相手方の話の内容やDNA鑑定から、父子関係があることに間違いがないと判断されれば、合意に代わる審判がされます。
通常、調停の場で「認知を認めます」と言われますが、審判書ができるのは1~2週間後となります。
*1件だけ、その場で「認める」とも「認めない」とも言ってくれない裁判官がいらっしゃいました(東京家裁にて)。
*1件だけ、事前に審判書きを準備してくださり、当日審判書きを受け取れたことがありました(横浜家裁川崎支部にて)
審判書を受け取ってから、2週間は不服申立期間となります。
この不服申立期間は、双方当事者が不服申し立て権を放棄すれば短縮することができることがあります(裁判所により取り扱いが異なります)。
不服申立期間が経過したら、裁判所で確定証明書をもらい、市区町村役場に審判書と確定証明書、出生届けを出して手続きをします。
役所内で形式的なチェックが終わったら戸籍に記載されるので、一度戸籍をとってみて確認してください。
なお、届出から戸籍記載までの期間は役所によりまちまちですが、1週間程度のところが多いようです。
【関連ページ】
・離婚後300日問題の全てー基礎知識から手続き、書式までー
・300日問題-元夫に知られずに出生届を出したい-
・300日問題は、認知調停がダメでも認知訴訟で解決できる場合があります
・離婚前に他の男性の子供を出産してしまった場合
・父子関係に関する最高裁判所H26.7.17判決
・コラム目次ー男女問題を争点ごとに詳しく解説-
監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。