再婚と養育費
再婚をしたので養育費の取り決めを変更したいというご相談を受けることがありますが、認められるでしょうか?
養育費は、取り決めをした時を基準とした金額ですから、取り決めのときには想定していなかった事情がある場合には変更が認められます(民法880条)。
ですから、養育費を取り決める段階で、既に再婚が予定されていたような場合を除き、事情の変更があったとして養育費の見直しができることがあります。
もっとも、再婚すれば必ず養育費の変更が認められるわけではありません
以下、養育費の支払義務者が再婚する場合と、養育費を請求する権利者が再婚する場合に分けて説明します。
1 支払義務者が再婚した場合
⑴ 基本的な考え方
養育費の支払義務者が再婚しても、それだけでは養育費に影響は与えません。
なぜなら、再婚によって必ずしも義務者の生活が苦しくなるとはいえないからです。
しかし、支払義務者の扶養しなければならない家族が増える場合には、支払義務者の収入は、その扶養家族のためにも使われるべきですから、相対的に養育費が減額されることになります。
扶養する家族が増えたことを理由に養育費が減額される場合としては、再婚相手の連れ子と養子縁組をした場合や、再婚相手との間に子供ができた場合です。
⑵ 再婚相手が専業主婦などで収入がない場合
では、再婚相手が専業主婦だった場合は、再婚相手を扶養する必要があるとして養育費の減額が認められるでしょうか?
この点、再婚相手が専業主婦であるというだけでは、当然には養育費は減額されないのが最近の裁判所の考えです。
なぜなら、結婚相手も大人なのですから、健康上の問題がある等でなければ自分の生活費程度の収入を得ることはできるといえるからです。
昔の裁判例では、妻が専業主婦だから扶養家族が増えたとしているものがあり、これに基づく解説書もありますが、現在では、女性だから満足な収入は得られないとはいえないので、再婚相手が専業主婦と主張するだけでは、養育費を減額すべき理由として弱いと考えます。
再婚相手が専業主婦になったことを理由に養育費の減額を主張する場合には、なぜ専業主婦になったのかという事情まで説明する必要があります。
具体的には、子供が乳児のため働けないとか、子供あるいは再婚相手本人が障害を持っていて働けない、高齢のため働けないといった事情を主張する必要があります。
もちろん、上記のようなケースでは、何らかの公的給付があるケースが多いので、その給付金は考慮されます。
⑶ 具体的な計算方法
*標準算定式を用いた養育費の計算方法を応用することになるので、あわせてコラム「養育費の計算」もご覧ください。
① 再婚相手に収入がなく扶養しなければならない場合
再婚相手に収入がなく、働くのが難しいといえる場合は、支払義務者は再婚相手を扶養する義務があります。
その場合、再婚相手は、0~14歳の子供と同様に扱うとしている裁判例が多いようです。
具体的には、再婚相手の生活費指数を62と考えることになるので、
子供に支払われるべき金額=支払義務者の基礎収入×(62×0~14歳の子供の人数+85×14~19歳の子供の人数)÷(100+62+62×0~14歳の子供の人数+85×14~19歳の子供の人数)
となります。
養育費は権利者と支払義務者の収入割合で決まるので、以下のようになります。
養育費=子供に支払われるべき金額×支払義務者の基礎収入÷(支払義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)
具体的に計算してみましょう。
10歳の子供が一人で元妻が親権者で年収300万円、元夫の年収600万円、元夫の再婚相手が無職で働けない事情がある場合
子供に支払われるべき金額=(600万円×0.41)×62÷(100+62+62)≒68万円
養育費=68万円×(600万円×0.41)÷(600×0.41+300×0.42)≒45万円
1か月あたり=45万円÷12か月≒3万7500円
となります。
なお、権利者の収入が高額でない場合は、養育費算定表を利用して算出することができます。
上記の例ですと、再婚相手は0~14歳の子供と同じ扱いになるので、養育費算定表の子2人表(第1子及び第2子0~14歳)で、義務者年収600万円、権利者収入300万円の場合を見ます。
すると、養育費(月額)は6~8万円の上限付近になるので、月8万円と考えられます。
権利者が育てている子供は1人なので、月8万円の2分の1である月4万円となります。
この、養育費算定表を利用した方法では、権利者も再婚相手の生活費の一部を負担することになってしまうので、権利者の収入が多い場合には誤差が大きくなるため、養育費算定表を使うのは適切ではありません。
② 再婚相手に収入がある(十分な収入を得られる)場合
再婚相手に収入がある(十分な収入を得られる)場合は、再婚相手を扶養する必要はありませんが、再婚相手との間に子供ができた場合には、その子供を扶養しなければならない関係で、支払義務者の負担が増えるので調整する必要が出てきます。
もっとも、計算方法についての統一的な見解はないようです。
ここでは、法曹時報第66巻第6号という雑誌に裁判官が寄稿した解説の中で示されている算出方法を紹介します。
子供の生活費については、大人を100とした場合に子供の生活費がどれくらいかということを示した生活費指数という概念を使います。
この生活費指数を、再婚相手に十分な収入がある場合には修正します。
具体的には、通常の生活費指数(0~14歳は62、15歳~19歳は85)を、支払義務者と再婚相手の収入割合で案分します。
計算式は、以下のようになります。
再婚相手との子の生活費指数=(62×0~14歳の人数+85×15~19歳の人数)×支払義務者の基礎収入÷(支払義務者の基礎収入+再婚相手の基礎収入)
あとは、複数の子を夫婦が別々に引き取った場合と同様に、子供の合計人数に応じた養育費を求め、その養育費を生活費指数で案分します。
具体的に計算してみましょう。
10歳の子供が一人で元妻が親権者で年収300万円、元夫の年収600万円、元夫と再婚相手との間に3歳の子がいて再婚相手の年収が200万円の場合、
再婚相手との子の生活費指数=62×600万円×0.41÷(600万円×0.41+200万円×0.43)=45.94
養育費算定表の子2人表(第1子及び第2子0~14歳)で、義務者年収600万円、権利者収入300万円の場合、養育費(月額)は6~8万円の上限付近になので、月8万円とすると以下のとおりです。
養育費(月額)=8万円×62(権利者の子の生活費指数)÷(62(権利者の子の生活費指数)+45.94(再婚相手との子の生活費指数))≒4万6000円
③ 再婚相手との間に子供ができたが、再婚相手とも離婚した場合
このようなケースについて言及している文献等は見たことがありませんが、実際には生じる問題です。
私見ですが、このような場合には、支払義務者の収入のうち、子供に支払われるべき金額を計算し、これを各権利者の収入の比率と子供たちの生活費指数を勘案して分けるのが適切ではないかと思います。
2 請求権利者が再婚した場合
養育費の請求権者が再婚した場合、子供と再婚相手との間で養子縁組をするかどうかで、養育費への影響が異なります。
再婚はしたけれども、再婚相手と子供は養子縁組をしていないという場合、これまで通り子供の生活に責任を負うのは元配偶者ですから、原則として養育費に影響を与えません。
しかし、再婚相手と子供とが養子縁組をした場合、再婚相手が子供に対して一次的義務を負い、それでも不十分な場合に元配偶者が二次的に義務を負うという関係になります。
ですから、元配偶者の養育費支払義務は、再婚相手の収入が十分な場合にはゼロとされ、再婚相手の収入が子供を養育するのに足りない場合は、前夫もある程度負担をすることになります。
前夫がある程度負担しなければならないというケースでの養育費は、足りない分を補填するということになるので、画一的には計算できないため、具体的な事情に応じて裁判官が適切と考える金額を算出するということになります。
もう一つ、再婚によって請求権者の収入が変わる場合があります。
再婚前はフルタイムで働いていたのが、再婚によって専業主婦(夫)となったような場合です。
養育費は、双方の収入を基礎に算定されますから、請求権者が専業主婦(夫)になって収入がゼロになった場合には、養育費は増額されるようにも思えます。
このような場合について解説した文献・裁判例を見つけることができませんでしたが、このような場合には、ほとんどの場合、再婚相手に十分な収入があるでしょうし、請求権者が働けるにもかかわらず自分の意思で働かないわけですから、原則として養育費は増額されないと考えるのが適切だと考えます。
【関連コラム】
・養育費の計算
・連れ子再婚で前夫から養育費をもらっている場合の婚姻費用は?
・再婚相手の子を養子にした場合の養育費に関する裁判例
・コラム目次ー男女問題を争点ごとに詳しく解説-
監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。