親権者からの子の引き渡し仮処分が権利濫用で認められなかった事例

2018-09-01

最高裁判所が、親権者の親権に基づく請求が権利濫用として認められない場合があるという判決をしたので紹介します。

以下、最高裁判所第三小法廷平成29年12月5日判決の概要です。

 

1 事案の概要

・2010年9月  父親と母親は、長男をもうけて結婚

・2013年2月  別居、長男は母親が監護

・2016年3月  長男の親権者を父と決めて協議離婚

・2016年12月 母親が父親を相手に親権変更調停申立

・2017年4月  父親が親権に基づく妨害排除請求権を被保全債権とする子の引き渡し仮処分命令申立(本件)

 

2 最高裁判所の判断

「離婚した父母のうち子の親権者と定められた一方は、民事訴訟の手続により、法律上監護権を有しない他方に対して親権に基づく妨害排除請求として子の引き渡しを求めることができると解される(カッコ内で引用の判例省略)。

もっとも、親権を行う者は子の利益のために子の監護を行う権利を有する(民法820条)から、子の利益を害する親権の行使は、権利の濫用として許されない

本件においては、長男が7歳であり、母は、抗告人と別居してから四年以上、単独で長男の監護にあたってきたものであって、母による上記監護が長男の利益の観点から相当なものではないことの疎明はない。そして、母は、抗告人を相手方として長男の親権の変更を求める調停を申立てているのであって、長男において、仮に抗告人に対して引き渡された後、その親権者を母に変更されて、母に対し引き渡されることになれば、短期間で養育環境を変えられ、その利益を著しく害されることになりかねない。他方、抗告人は、母を相手方とし、子の監護に関する処分として長男の引き渡しを求める申立をすることができるものと解され、上記申立てに係る手続においては、子の福祉に対する配慮が図られているところ(家事事件手続法六五条等)、抗告人が子の監護に関する処分としてではなく、親権に基づく妨害排除請求として長男の引渡しを求める合理的な理由を有することはうかがわれない。

そうすると、上記の事情の下においては、抗告人が母に対して親権に基づく妨害排除請求として長男の引渡しを求めることは、権利の濫用というべきである。

 

3 説明

⑴ まず、本件は、民事事訴訟法上の保全手続をとっていることから、このような手続が認められるのか、家事事件手続法に子の引渡し請求とその仮処分の手続が定められていることから、家事事件手続法で同趣旨の手続があるのに民事訴訟法上の手続ができるのかが問題となります。
この点、第一審の那覇地裁平成29年4月26日決定と、福岡高裁那覇支部平成29年6月6日決定は、民事訴訟法上の手続は認められないとしました。
これに対し、最高裁は、過去の最高裁判決(昭和35年3月15日、昭和45年5月22日)判決を引き、民事訴訟法上の手続をとることができるとしました。
この点については、結果的に同じことになるんだから、家事事件手続上の手続のみを認めればよいではないかという学説も有力に主張されていますが、家事事件手続法上の手続は形成裁判で、民事訴訟法上の手続が給付訴訟であるという違いがあるのであるから、民事訴訟法上の手続をとることができるというのが多数派のようです。
⑵ 次に、親権者が親権に基づいて行う権利が制限できるのかですが、親権は子供の利益のために行使されなければならなず(民法八二〇条)、親権者があまりにも不適切な場合には親権停止(民法834条の2)という制度を設けていることからしても、権利濫用といえるような場合には、裁判所は権利行使を認めない場合もあり得るとしています。
この結論については、争いは無いものと思われます。
⑶ 最後に、本件の具体的な事情、つまり、母親が4年以上監護していること、母親が親権変更調停を申立てており、変更が認められる可能性があることからすると本件申立を認めると子供が、母親→父親→母親と生活環境がコロコロと変わる結果になること、本件が認められなくても家事事件手続法上の子の引渡し請求が可能であること、を考慮して、父親からの子の引渡し請求は権利濫用であり認めないという結論にしています。

 

4 当職の意見

結論自体は妥当だと思いますが、本件は、なぜか別居後3年間も母親が長男を監護しているのに、父親を親権者として協議離婚をしていたり、そのわずか9か月後に母親が親権者変更をしていたり、父親は親権者と決まった後約1年も経ってから本件引渡しを求めるなど、経緯が不思議な事案です。

最高裁判決であることから、経緯が詳細に書かれていないため、一体どのような事情があって、そのようになったのか分かりませんが、父親の親権行使が権利濫用になるとされた一事例として参考になるのではないでしょうか。

 

 

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弁護士 本 田 幸 則
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