養育費増額の審判から半年後に私立大学に進学した場合の養育費
養育費をいつまで払うかについては、裁判所が決める場合は20歳までとされることが多いですが、その後、事情の変更がある場合には変更が認められます(民法880条)。
その事情変更の典型例が子供が大学に進学した場合です。
大学に進学の際の学費負担や、養育費支払いの終期については、支払い義務者が同意していたかや、両親の学歴、収入などを総合考慮して判断するということは定着していますが、今回紹介する裁判例は、養育費増額審判が出てから、わずか半年後に進学していること、学費支払義務と、養育費の支払い終期を別々に考慮していることが珍しいので紹介します。
1 本件決定に至るまでの経緯
今回紹介するのは、東京高裁平成29年11月9日決定ですが、事情が複雑なので時系列で簡単に決定までの流れを紹介します。
① 2008年に裁判離婚、養育費について、20歳まで一人あたり5万円との判決
② 2010年9月に、一人あたり4万円とする減額調停成立
③ 2012年に、養育費以外の強制執行が終了し次第、養育費について再協議との調停成立
④ 2014年に、養育費の増額と、子が私立大学付属の高校に進学したから、私立大学進学が確定していることを理由に、養育費の支払い終期を22歳に達した後の最初の3月までに延期する申立→審判移行し、養育費を5万5000円とするが、大学へは、進学見込みというにすぎないとして、支払い終期は20歳までを変更しないという審判
⑤ 2015年に、子が私立大学に進学したことを理由に、学納金の分担と支払い終期を22歳に達した後の最初の3月までとする調停申立→さいたま家裁川越支部は、学納金の負担も支払い終期の延長も認めず→東京高裁に抗告(本決定)
2 本決定の概要
本決定の特徴は、冒頭に書いた通り、学納金負担義務と、養育費支払い終期を別々に判断すべきとしたことです。
まず、学納金の負担については、支払義務者が大学進学を了解していたか否か、支払義務者の地位、学歴、収入等を考慮して判断すべきとしました。
そして、本件では、支払義務者が私立高校への通学を反対し、私立大学への進学を了解していなかったこと、子本人に足りない部分について奨学金を受けたりアルバイトをさせて補填させることが酷とはいえないこと、上記④の審判で公立学校を前提とする教育関係費より5000円多くの教育関係費を負担するよう命じる決定がされていることなどから、別途私立大学の額納金負担までは認められないとしました。
次に、支払終期については、大学卒業までは自ら生活をするだけの収入を得ることはできず、未成年者と同視できる未成熟子といえること、支払義務者が大卒で私立高校教師として就労し、年収900万円を超えていること、支払義務者が大学進学自体に反対していたとは認められないこと、などから、22歳に達した後の最初の3月までの延長を認めました。
3 コメント
養育費を20歳までと取り決めた後に大学進学が決まった場合、事情の変更があったとして養育費の取り決めの変更が認められることがあります(民法880条)。
本決定で特徴的なのは、私立大学の学用金の負担と養育費の支払終期を別に検討している点です。
大学進学率が50%を超えていること、現に子供が大学に進学していることからすれば、養育費の終期を大学卒業まで延長することは合理性があるでしょう。
他方で、離婚して離れて生活し、進学先について相談等もなかったような事案であれば、私立の学用金まで負担しろというのは酷だということでしょう。
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監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。