離婚で財産分与をするときの自宅の分け方は?
離婚時の財産分与で大きな問題になるのが、自宅が持ち家の場合に、これをどう分けるかです。
財産分与においては、自宅の名義がどうなっているかではなく、その不動産購入にあたり、どちらがお金を支出したかで分け方が決まります。
もっとも、不動産のような高額なものの場合、ローンを組んでいたり、独身時代の預貯金で一部を支払っていたり、実家の援助があったりと、購入資金をどちらがどれだけ出したか複雑な関係になっていることがあるため、かなり厄介な問題になることもあります。
基本的なケースについて、以下で詳しく説明します。
1 自宅の購入費用について夫婦の収入から完済している場合
2 自宅購入費用は完済しているが、独身時代の貯金や実家の支援があった場合
3 ローンが残っている場合(独身時代の貯金からの支払や実家の援助がないケース)
4 ローンが残っている場合(独身時代の貯金からの支出や実家の援助があるケース)
5 ペアローン、連帯保証、その他に問題になること
6 残ローン>自宅価格に関する珍しい裁判例(東京地方裁判所平成24年12月27日判)
1 自宅の購入費用について夫婦の収入から完済している場合
この場合は単純です。
自宅の価値を半分に分けるだけです。具体的には以下の通りです。
⑴ どちらかが自宅を取得する場合
不動産を査定に出して、自宅を取得する側が相手に、査定額の半分を支払います。
ほとんどの場合は、不動産会社による査定で金額を決めますが、双方がどうしても納得いかない場合は、訴訟で不動産鑑定士に正式に査定してもらうことになりますが、費用が高額なため滅多にそこまでは行いません。
⑵ どちらも自宅がいらない場合
この場合は、実際に売ってしまって諸費用を差し引いた金額を半分に分けます。
ここでもめるとすれば、売却手続きにどちらがどの程度関わるか、売却するにあたり、どの程度の金額なら妥協できるかです。
売却手続きに関しては、双方とも高く売れた方がいいでしょうから、名義人にまかせてしまった方が簡単でしょう。
もし、売却代金を相手に使い込まれないか心配という場合は、不動産業者が応じてくれるならば、半分ずつ振り込むことをお願いしましょう。
次に問題となるとすれば、いくらで売るかです。
早く現金化したければ、ある程度売り出し金額を低くする必要がありますし、なるべく高く売りたいということであれば、売却まで時間がかかることを覚悟する必要があります。
これらの売却手続きについても取り決めておいた方が安全でしょう。
2 自宅購入費用は完済しているが、独身時代の貯金や実家の支援があった場合
離婚時の財産分与は、婚姻期間中に築いた財産を分けるものですから、独身時代の預貯金や実家からの援助金は財産分与の対象にはならず、完全に個人のもの(特有財産)となります。
現金や預貯金であれば、〇〇円は特有財産、××円は夫婦共有財産だから半分もらうなどができますが、特有財産を不動産購入資金にあてた場合はどうなるでしょうか?
考え方としては、比率で考えることになります。
具体的に考えてみましょう。
・購入時価格 4000万円
・夫実家からの援助 1000万円
・妻の独身時代の貯金 500万円
・ローン 2500万円(完済)
この場合、この家の実質的な所有割合は、
夫の特有財産 1000万円/4000万円=1/4
妻の特有財産 500万円/4000万円=1/8
夫婦共有財産 2500万円/4000万円=5/8
となります。これを前提として、具体的な分け方は以下の通りです。
⑴ どちらかが自宅を取得する場合
どちらかが自宅を取得したい場合、不動産を査定に出し、その金額を上記割合で分けることになります。
仮に、現在の不動産価格が3000万円と査定されたとしてみましょう。
その場合、以下のような持分になります。
・夫の特有財産 3000万円×1/4=750万円
・妻の特有財産 3000万円×1/8=375万円
・夫婦共有財産 3000万円×5/8=1875万円
夫婦共有財産を半分に分けて、特有財産分を加えるとそれぞれの取り分は、以下のようになります。
・夫 750万円+(1875万円÷2)=1687万5000円
・妻 375万円+(1875万円÷2)=1312万5000円
したがって、夫が自宅を取得し、妻が出ていく場合には、夫が妻に1312万5000円を支払わなければならないことになります。
妻が自宅を取得する場合、妻が夫に1687万5000円を支払わなければならないということになります。
⑵ どちらも自宅はいらない場合
どちらも自宅はいらないという場合は、実際に売却した価格から諸経費を差し引いて、上記の割合を掛けた金額がそれぞれの取り分となります。
3 ローンが残っている場合(独身時代の貯金からの支払や実家の援助がないケース)
ローンが残っている場合は、大きく①自宅の現在価格>ローン残高というケースと、②自宅の現在価格<ローン残高というケースに分けられるので、以下、場合分けして説明します。
⑴ ①自宅の現在価格>ローン残高というケース
自宅の現在価値が現在のローン残高より高額の場合は、分け方は簡単です。
自宅の価格からローン残高を差引いて2分の1にすれば良いだけです。
実際に売ってしまう場合は、売却価格から諸経費を引き、ローンを返済し、残りを半分に分けます。
どちらかが自宅を取得したい場合には、不動産会社に査定に出し、査定額からローンを差引いた金額の2分の1を、自宅を出る方に支払います。
⑵ ②自宅の現在価格<ローン残高というケース
このケースでは、分与すべき財産はないということになります。
なぜなら、離婚による財産分与は、婚姻期間中に築いた財産を分ける制度であるところ、自宅の現在価値よりローン残高の方が多いというケースでは、その家は事実上価値がなく、分けるべき財産がないと考えられるからです。
そして、ローンは名義人のみが責任を負うのが一般的です。
もっとも、他に多額の資産がある場合は、その資産も合算された上で2分の1と処理されることが多いので、ローンを折半するのと同様の効果を生じます。
なお、この考え方では不都合も生じます。
たとえば、以下のようなケースです。
・購入時価格 4000万円
・フルローンで購入
・ローン残高 3000万円
・夫が不動産を取得する形で離婚
・離婚時価格 2500万円
・ローン完済時価格 2000万円
この場合、離婚時にはオーバーローンで財産分与はなしとなります。
しかし、実際にはローンの4分の1は夫婦で返しています。
つまり、理論上は8分の1は妻が返しています。
それなのに、ローンを完済した2000万円相当の自宅は夫のものとなってしまいます。
このような問題について、これまで議論になることはなかったのではないかと思います。
なぜなら、離婚後何十年も相手の資産状況を確認し、ローンを完済したのを見計らって共有持ち分を請求するというのが現実的ではないからです。
しかし、東京地方裁判所平成24年12月27日判決は、離婚時の自宅の時価よりローン残高が高く財産分与ができなかったけれど、妻が自宅の頭金を出していたというケースで、妻に共有持ち分があるとしました(長くなるので詳しくは、本コラム末尾に記載します)。
この判決からすれば、ローン残高が多すぎて財産分与がなされない場合でも、不動産が共有であると主張できると思われます。
4 ローンが残っているケース(独身時代の貯金からの支出や実家の援助があるケース)
独身時代の預貯金や実家からの援助金を頭金に入れてローンが残っているのが一番面倒なケースです。
裁判例は統一されていませんが、大きく分けて以下の2つの考え方があります。
①先に残ローンを考慮し、その後、特有財産を考慮する
②先に特有財産を考慮し、その後、残ローンを考慮する
① 先に残ローンを考慮する考え方
具体的な事例で考えてみましょう。
・購入時価格 4000万円
・夫実家からの援助 1000万円
・妻の独身時代の貯金 500万円
・ローン 2500万円(ローン残高1000万円)
・現在の自宅の価格 3000万円
この場合、まず、この家の実質的な価格を考えます。
現在価格が3000万円で、ローン残高が1000万円なので、家の実質的な価値は、
3000万円-1000万円=2000万円となります。
次に、この家を取得するにあたっての寄与度(貢献度)を考えます。
具体的には、購入金額のうち、どのような負担割合だったかを考えます。
すると、次のようになります。
・夫の特有財産割合 1000万円/4000万円=1/4
・妻の特有財産割合 500万円/4000万円=1/8
・夫婦共有財産割合 2500万円/4000万円=5/8
最後に、先に計算した家の実質的価格を上記の貢献度で分けます。
・夫の特有財産 2000万円×1/4=500万円
・妻の特有財産 2000万円×1/8=250万円
・夫婦共有財産 2000万円×5/8=1250万円⇒夫625万円、妻625万円
上記のようになるので、たとえば、夫が家を取得する場合は、ローンの全額負担と妻に875万円(特有分250万円+共有分625万円)を支払って清算します。
実際に家を売る場合は、夫1125万円(特有分500万円+共有分625万円)、妻875万円を取得することになります。
イメージにすると、こんな感じです。
②先に特有財産を考慮する場合
先に特有財産を考慮するという考え方は、家の実質的価値という考えではなく、純粋に家の価値への寄与度で考える方法です。
イメージ図としては、こんな感じです。
先ほどと同じ条件で考えてみましょう。
・購入時価格 4000万円
・夫実家からの援助 1000万円(購入時価格の4分の1)
・妻の独身時代の貯金 500万円(購入時価格の8分の1)
・ローン 2500万円(ローン残高1000万円)
・現在の自宅の価格 3000万円
自宅の現在価格を寄与度に応じて分けるので、
・夫の特有財産=3000万円×1/4=750万円・・・①
・妻の特有財産=3000万円×1/8=375万円・・・②
・夫婦共有財産=現在価格-①-②-残ローン
=3000万円-750万円-375万円-1000万円
=875万円・・・③
最終的な夫婦の取り分は、夫1187万5000円(①+③/2)、妻812万5000円、となります。
③ どちらの考えで主張すべきか?
①と②のどちらで計算すべきかですが、理論的には②の方が筋が通っています。
しかし、②の欠点は、先に夫婦各自の寄与度分の金額を引いて残った金額がローン残高より少ない場合の処理をどうするかが問題になる点です。
この場合は、自宅の分与とローンの負担割合を別々に計算したあと相殺するという考えもありますが、裁判例としては見たことがありません。
実際には、残ローンが多い場合は①の方法で計算し、そうでない場合は、自身に有利な方(購入時に特有財産から多く支出した方は②、そうでない方は①)で主張するのが得策でしょう。
5 ペアローン、連帯保証などの処理
理論的には上記の応用でどんな場合でも財産分与は可能なのですが、それはあくまでも夫婦間のことであって、金融機関に主張することはできません。
ですから、たとえば、ペアローンで夫2000万円、妻2000万円のローンを組んだけれど、離婚することになり、夫婦間では夫が残りのローンを支払うことに決めたとしても、妻分の支払いについて夫が実行しなかった場合には、金融機関から請求を受けるのは妻となります。
そのため、できれば離婚時に夫単独名義での借り換えをしたり、夫の親族に保証人を代わってもらったりした方がいいのですが、金融機関が承知しない場合には、夫が支払いを滞らせる可能性があるということを念頭に置いた上で、なおそのような財産分与の方法で良いのかを検討しなければなりません。
さらにやっかいなのが、専業主婦の妻の両親との二世帯住宅を妻側の両親との共同ローンで建設していたり、妻の父親の土地の上に夫名義の建物が建っているようなケースで、夫も妻も相手に適切な金額を支払って単独取得できる程の経済力がない場合です。
こうなってくると、家は売るしかないのですが、二世帯住宅は流動性が低く、なかなか売れず、離婚本体は解決しているのに、自宅の売却だけが年単位で残ってしまうということもあり得ます。
6 残ローン>自宅価格、に関する珍しい裁判例(東京地方裁判所平成24年12月27日判決)
財産分与は、離婚時(別居が先行する場合は別居時)にある財産を分けようという制度ですから、原則として自宅の現在の価格より住宅ローンの残額の方が多い場合は、分けるべき財産がないということになります。
これは、自宅の頭金が一方の特有財産(独身時代に貯金や親の援助)から出された場合この場合でも同じで、財産分与はゼロとなります。
なぜなら、いくら頭金を出そうとも、その不動産の価値が実質ゼロだからです。
この場合の、頭金は投資をしたようなものだと考えると分かりやすいかもしれません。
ある会社が成功しそうだということで株を買います。
その会社の事業がうまくいった場合は、その株式を売って売却益を得たりすることができますが、投資先が破産した場合はいくら投資しても1円も帰ってきません。
これと同じで、自宅の価格が上がれば、最初に投入した頭金以上のお金が戻りますが、自宅の価格よりローンが多い=借金まみれの会社の場合、投資家には1円も返ってきません。
ここで、投資と違うのは、現に不動産は存在するという点です。
この現に存在する不動産の一部は自分のものだと主張できないでしょうか?
この点、東京地方裁判所平成24年12月27日判決は、不動産について共有持ち分があるという形で権利を認めました。
同裁判例は、現実に起こった問題ですから、数字が中途半端で計算が分かりにくくなるので、計算しやすいように以下の事例で考えてみましょう。
・自宅購入時価格5000万円
・頭金1000万円を妻の独身時代の貯金から支出
・4000万円を夫名義のローン
・自宅購入から5年後に離婚
・現在の自宅価格3000万円
・残ローン3500万円
このようなケースでは、自宅購入価格5000万円のうち1000万円を妻の特有財産から出しているので、家の5分の1は妻のものといえます。
また、残り4000万円のうち、500万円を夫婦である間に返した=250万円分は妻が返したと評価できます。
そうすると250/5000=1/20も妻のものといえます。
先の5分の1とあわせて、この家のうち妻が5/20=1/4は妻のものといえます。
ですから、この不動産は、4分の3は夫のもの、4分の1は妻のものです。
さて、理論上はそうだとして、それを主張することに意味があるのでしょうか?
妻が4分の1は自分のものだから、自分の権利を登記しろと言っても、実際にそれをやったら金融機関が名義変更に同意せず、抵当権を実行するでしょう。
そうすると、自宅の時価額よりローン残高の方が高いので、銀行の抵当権が実行されると、自宅の売却代金は全て銀行に入り、妻の手元には1円も入ってきません。
結局、これをやる意味があるケースは2つだけではないかと思います。
①その家に住み続けたいので共有者として自宅の利用権を主張(上記の裁判例のケース)。
もちろん、その場合は元夫に家賃相場の3/4程度の家賃を払う必要が出てきます。
②何十年か後に住宅ローンが返せるだろうから、その時に少しでも取り返せればいいやと思って主張する。
もちろん、元夫と何十年後かに交渉する必要がありますが、そんなことをしたい人はあまりいないのではないでしょうか。
以上のしだいで、上記の権利を主張する意味があるケースは少ないと考えます。
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監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。