子供から別居している親を相手に面会交流を請求できるか?
面会交流といえば、離婚や別居の際に子供と離れ離れになった方の親から、子供を監護している方の親に対して子供との面会交流を求めるのが一般的です。
では、子供から離れて暮らす親に対して面会交流を求めることはできないのでしょうか?
実は、子供から別居親に対する面会交流を求めた事例というのは、私が知る限り1例しかありません(後述する、さいたま家裁の審判)。
その事例も、小学生の子供を母親が代理して面会交流調停を申し立てたもので、子供自身が申し立てを行った事例はないのではないかと思います。
ですから、明確に「子供にも親に面会する権利があるから、面会交流調停をすれば認められるし、応じない場合は損害賠償もできる」とまではいえません。
ただ、具体的事情によっては、認められる可能性もあるのではないかと思います。
以下、詳しく説明します。
1 面会交流権の根拠は?
面会交流は、誰の誰に対する権利なんだということは、日本の法律は明確に書いてありません。
面会交流に関して言及があるのは、民法766条1項とそれを準用する771条だけですが、以下のような記載にとどまります。
民法766条1項
父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者,父又は母と子との面会及びその他の交流,子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は,その協議で定める。この場合においては,子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
しかも、この条文は、平成24年4月1日に改正されて面会交流について書き足されたもので、それ以前は法律には「面会交流」という言葉は明記されていませんでした。
つまり、親が子供に会う権利は、解釈上認められていたといっていいのではないかと思います(申し訳ありませんが、面会交流権なるものがいつごろから議論されたのか分かりませんでした)。
そして、昔は、面会交流は、親が子供に会う権利と解釈されていたのですが、子供も人格を持った一人の人間ではないかという意識が高まり、近年では、面会交流は、子供の権利でもあると考えられるようになってきました。
これを端的に表しているのが子供の権利条約9条3項です。
子供の権利条約9条3項
締約国は、児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する。
日本は、一部留保付きであるものの子供の権利条約に批准しており、9条3項は留保する条文の中には入っていません。つまり、上記条約が日本でも効力を有するということです。
国家間の取り決めである条約が、そのまま国民に直接適用されるのかという問題はありますが(「条約の国内法的効力」という憲法学における論点)、これらの経緯からすれば、子供が離れて暮らす親に会う権利も認められると考えてよいでしょう。
2 裁判例
子供の親に対する面会交流権については、さいたま家裁平成19年7月19日審判が唯一の裁判例ではないかと思います。
この事例は、子供を監護している母親が、小学4年生の子供を代理して、父親に対して面会交流を求める調停を起こしたものです。
調停は不成立となり、裁判所が審判をすることになりましたが、裁判所は、直接の面会交流は認めなかったものの、父親に対し、毎年3月、6月、9月、12月末日までに、子供宛に手紙を送付するように命じました。
その理由としては、離婚時は子供が2歳であったことから父親の記憶はないと思われ、父親に会いたいという子の思いは抽象的な父親像にとどまっていると思われること、子供に離婚していることなど正確な事情が伝わっていないこと、父母間の葛藤が根深いこと、などの事実関係を総合考慮して、将来的には環境を整えて面会交流の円滑な実施ができるようになることが期待されるが、当分の間は、間接的に手紙のやり取りを通じて交流を図ることが相当であるとしています。
3 コメント
この審判例は、具体的事情を詳細に認定し、無理に父親と面会交流をさせるのは、かえって子供のためにならないとして、父親に手紙を書く義務を負わせるにとどめましたが、その理由からすれば、面会交流を認める審判が下される可能性もあるのではないかと考えます。
たとえば、子供がある程度大きく、父母の離婚について理解しており、父親が面会交流に消極的であることを知って、なお面会交流を求めるような場合です。
【関連コラム】
・面会交流の具体的内容
・祖父母・兄弟姉妹の面会交流権
・コラム目次ー男女問題を争点ごとに詳しく解説-
監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。