離婚理由となるか、慰謝料が認められるかの予想はむずかしい
「こんなことが離婚理由になりますか?」とか、「この理由で慰謝料が取れますか?」
という相談を受けることが多いのですが、おおよその見通しは立てられますが、断言することはできません。
離婚は、話し合い(協議離婚)や調停であれば当事者が合意すれば、反社会的な合意でない限り離婚できるのですが、裁判になった場合は、離婚理由が法律で決まっています。
この法律で決まっている離婚理由のうち、不貞行為(浮気)は事例も多く、予測が立てやすいです。
しかし、「その他婚姻を継続し難い重大な事情」については、裁判官の価値観が大きく影響します。
このような、裁判官の価値観による部分が大きい訴訟においては、過去の事例や一般常識から、こういった点を主張すれば良いだろうと予想を立てて訴訟を進めていくわけですが、全く予想外の判決をもらうことがあります。
有名なのは「青い鳥判決」といわれるものです。
これは、名古屋地方裁判所岡崎支部の平成3年9月20日判決のことです。
裁判官は、妻からの暴言暴力を理由とする離婚請求について、おおむね事実関係を認めつつも、夫について「ひとかどの身代をまじめに作り上げた被告が法廷の片隅で一人孤独に淋しそうにことの成行きを見守って傍聴している姿は憐れでならない」と同情を示します。
そして、「被告が前記反省すべき点を充分反省すれば、いまなお原告との婚姻生活の継続は可能と考えられるから、原告と被告、殊に被告に対して最後の機会を与え、二人して何処を探しても見つからなかった青い鳥を身近に探すべく、じっくり腰を据えて真剣に気長に話し合うよう、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認め」ると判示しました。
公表されると、弁護士や学者から酷評された判決ですが、きっと妻側弁護士は、こんな判決になるなどということは全く予想していなかったでしょう。
当然、妻側は控訴し、控訴審で和解による離婚となっています。
「青い鳥」が衝撃的すぎて、そちらばかり取り上げられますが、この判決は、他にも独創的な認定をしています。
家族の意義はゲゼルシャフト(共同社会)とゲマインシャフト(利益社会)に分類できて、電化製品の普及によって家事労働が楽になってきたから女性に考える余裕ができた。
だから、ゲゼルシャフトからゲマインシャフトに移行しなければならないのに、夫はゲマインシャフトへ変化できなかったんだ。
と、社会構造の変化を鋭くとらえている自分に酔っているのであろう認定をし、独自の視点から真の離婚原因を見いだしてらっしゃいます。
ゲゼルシャフト時代の女性は、何にも考えてないから男に逆らうこともなかった、あるいは、殴って言うことを聞かせてもよかったってことですかね・・・
私は、ここまでひどい離婚関係の判決をもらったことはありませんが、これは証拠がなくてむずかしいかなと思っていた案件で損害賠償を認めてもらったり、逆に、100%とはいわないまでも9割方認められるだろうと思っていた損害賠償が認められかったことはあります。
そういう判決をもらうと、何がいけなかったのだろうかと、これまでの書面を読み返したりしますが、たいていは、なぜ予想外の判決となったのかは分かりません。
なお、離婚問題ではありませんが、交通事故で青い鳥判決に匹敵するのではないかと思うくらい理解できない判決をもらったことはあります。
それは、降雪地帯の山間部で2月の早朝に起こった事故で、6輪のうち2輪のみオールシーズンタイヤ、その他はサマータイヤというトラックを制限速度をオーバーして走らせ、凍結路でスリップし事故を起こしたという事案です。
運転手側から、道路を凍らせた自治体に事故の責任があるとして国家賠償請求訴訟を提起されました。
自治体から依頼を受けた当時の勤務先事務所で事件を担当することになった私は、「負けるわけがない」と思っていました。
しかし、判決は損害賠償を認めるというものでした。
控訴したところ、控訴審1回目で裁判官が苦笑いしながら「1:9で和解できませんか?」とおっしゃったのは印象に残っています。
やむなく損害の1割を負担して和解したのですが、今でも一審でなぜ負けたのか理解できません。
そんなわけで、弁護士は、これまでの裁判例、一般常識から、おおよその見通しを立てますし、多くの裁判官は納得できるような判決を書いてくれますが、中には全く理解できない判決をもらうこともあります。
ですから、「絶対大丈夫ですよ」という弁護士には気を付けた方がよいと思っています。
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監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。