養育費・婚姻費用として塾代を請求出来るか?
子供が塾や習い事教室に通っている場合、養育費・婚姻費用の増額が認められるでしょうか?
このような場合、原則として塾代や習い事代は認められません(末尾*参照)。
なぜなら、塾代や習い事代は、通常の学校教育とは別に、あくまでも任意に行う私的な学習の費用であって、子供を育てている方の親が、生活費の範囲内で、その親の責任で行うのが基本となるからです。
この理屈からすれば、私立学校の学費も同じではないかという批判を受けそうですが、私立学校の場合は、あくまでも通常の学校教育であって、その費用が高いだけですし、現実的に、私立学校を退学して公立学校に転入するのは困難なので同様には考えられないでしょう。
ただし、塾代でも、両親が同居中から子供は塾に通っていて、受験が近づいてから両親が別居・離婚したような場合には、例外的に塾代を考慮して養育費・婚姻費用が決定されることがあります。
また、発達障害児の学習補助など学校以外の習い事が必要と認められる場合には、増額が認められることがあります。
《塾代を理由に婚姻費用の増額を認めた裁判例》
・広島家庭裁判所平成4年3月27日審判
申立人と相手方の収入から、一般的な養育費は月12万1000円としつつ、相手方の生活程度を考えれば、子供の塾代3万5000円を加算するのが相当とし、月16万円の婚姻費用が相当とした。
・東京家庭裁判所平成28年1月21日審判
相手方と同居中から進学塾に通っていたこと、同居中は私立中学への進学を容認していたこと、子が小学6年生であること、相手方の収入が高額であることから、算定表による婚姻費用月額22~24万円に塾代5万8695円を加え、月額29万6000円の婚姻費用を認めた。
*2023.7加筆
1、2年前までは、現場の裁判官の意見も冒頭に記載したように、塾や習い事代は原則として考慮しないというものでした。
裁判官論文も、冒頭のような見解で一致していました。
ところが、最近、裁判官から、なるべく同居中の生活を維持させるべきだから、塾や習い事代の一部を負担してはどうか、という意見を言われるようになりました。
裁判官の意見が変わってきている原因は、別のコラムでも紹介した本、松本哲泓著「婚姻費用・養育費の算定」と思われます(はっきりとこの本を指摘する裁判官もいました。)。
今のところ、調停時の意見レベルで、判決や審判で、同居中に通っていたという理由だけで塾代やその他の習い事代を支払えというものを貰ったことはありませんが、今後は裁判所の判断が変わってくるかもしれません。
【関連コラム】
・最近、家裁の裁判官がよく持っている本
・私立学校に通う場合の養育費|2019年12月改定対応
・コラム目次ー男女問題を争点ごとに詳しく解説-
監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。