法テラスの評判が悪いことについて、弁護士の立場から
法テラスについて検索すると、評判が悪いという書き込みや、弁護士に手抜きをされるのではないかという書き込みが散見されます。
そこで、弁護士の立場からみた法テラスはどうなのかということについて説明します。
*申し訳ありませんが、現在当事務所では法テラスを利用しての案件はお受けしておりません。
1 法テラスとは
「法テラス」というのは通称で、正式名称は、「日本司法支援センター」と言います。
法テラスは、法務省の管轄下にあり、多額の税金が投入されていますが、国家機関というわけではありません。
法テラスを利用したい場合は、法テラス法律事務所か、法テラスとの間で民事法律援助利用契約を締結している弁護士に相談する必要があります。
法テラス法律事務所は、法テラス直営の弁護士事務所です。
法テラス法律事務所の弁護士は、3年間の期限付きで、固定給(かなり安い)で法テラスに雇われています。
ですから、事件の採算を考えずに事件を受任することができます。
逆に言えば、手抜きをしても、好きな事件だけ受任して他を断っても、もらえる給料は同じです。
また、法テラス法律事務所の弁護士は、ほとんどが弁護士経験が浅い弁護士です。
民事法律援助利用契約弁護士というのは、一般の弁護士が、法テラスとの間で法テラス利用ができる契約をしていることです。
弁護士には、法テラスと利用契約をする義務はないため、ご相談を考えていらっしゃる弁護士さんが、法テラスの利用契約をしている弁護士かどうかは、その弁護士さんに聞いてみないと分かりません。
なお、法テラスでは弁護士が選べないと書いてあるサイトが非常に多いですが、間違いです。
どうも書き込みを見ていると、法テラス地方事務所の相談会での相談を想定しているようです。
たしかに、そのような相談会は、法テラス利用契約弁護士が交代で対応するので、弁護士を選べません。
そうではなく、相談したいと思っている法律事務所に「法テラスを使えますか?」と聞いてみてください。
その事務所が、法テラス利用契約をしていれば、その事務所に法テラス利用で依頼が可能です。
2 弁護士から見たメリット
法テラスの利用が決まると、依頼者と法テラス、弁護士の三者間契約となり、法テラスから着手金が振り込まれ、依頼者は法テラスに対して分割で弁護士費用を支払っていくことになります。
もっとも、法テラスの弁護報酬は、極めて低額ですから、ほとんど儲かりません。
弁護士にとっては、従来、相談者の話の筋は通っていて、なんとか解決の手伝いをしてあげたいけれど、事務所の経営上無料では受けられないという心苦しさがあったのが、法テラスを使って最低限度の報酬をもらうことで、相談にいらっしゃった方を見放すという心苦しさから解放されるという精神衛生上のメリットがあります。
3 弁護士から見たデメリット
① 手続きが煩雑
とにかく法テラス利用は手続きが面倒です。
まず、相談を受けたら、相談表を書きます。
法テラスの審査員に事情が分かるように、ある程度詳しく書かないといけません。
また、法テラスが要求する書類を集めて提出しなければなりません。
法テラスの決定が出て、事件に着手すると(実際は先に着手することが多いですが)、着手報告書というものを提出しなければなりません。
裁判を起こした場合は、訴状などの書類を添付しなければなりません。
さらに、中間報告、終結報告というものまであり、何日にどんな手続きをしたかを書かないといけません。
終結報告書には、和解書や判決文等を添付する必要がありますし、経費が多くかかった場合には、その報告もしないといけません。
養育費など、分割で相手からお金を受け取る場合は、きちんと分割払いがあるかも報告しなければなりません。
しかも書式改訂のたびに書く項目が増えていっており、これらの報告書を書いて添付資料を整理して提出するだけで、かなりの時間を要します。
② 料金が不明確
法テラスには、代理援助立替基準という一応の基準がありますが、非常に分かりにくいものとなっています。
また、金額は、幅を持って記載されているため、はっきりとは分かりません。
一応、標準額というのはありますが、それが適用されるかどうかは分かりません。
しかも、同時に関連する複数の事件(離婚と婚姻費用分担請求など)の援助申し込みをすると、金額が調整されます。
これらの事情により、相談時に料金を明確にお伝えすることができません。
③ 勝手に報酬を決められる
上記のとおり、法テラスから弁護士に支払われる金額は、代理援助立替金基準の範囲内で法テラスに勝手に決めます。
すごく苦労したのに、「簡易な事件」と認定されて、標準額でさえ安いのに、さらに安い金額にされることもあります。
また、離婚したくない方が、相手から離婚調停を申立てられたため、法テラス利用して弁護士同伴で調停に出席したとします。
この場合、離婚を拒否し続け、調停が不成立で終わると、成果がなかったと判断されて弁護報酬が発生しません。
法テラスは、離婚したくないという人間を無理やり離婚させる機関なのかと思えてきます。
さらに、事件本体は解決しても、相手が支払いしない場合は報酬を減らされるらしいです(すいません、こちらは経験がないので詳しく分かりません)。
④ 報酬が安い
法テラスが定める代理援助立替金基準の金額は、まれに例外がありますが、かつて弁護士会が定めていた報酬基準より、かなり安いものとなっています。
たとえば、相手に300万円の損害賠償請求をするとします。
旧弁護士会基準ですと、着手金が24万円、成功報酬が48万円の合計72万円です。
法テラスの標準額ですと、着手金が18万3600円、成功報酬が30万円の合計48万3600円です。
同じ事件を同じように処理しても、法テラスだと約24万円安くなります。
通常価格の34%offという、在庫処分セールでもやっているのかという価格です。
法テラスが、いったい何を根拠に、こんなにも安い報酬基準を設定したのかは分かりません。
報酬基準が安すぎるという苦情は、法テラス発足当初から、多くの弁護士からありましたが、これに対する法テラスの回答は、高くすると経済的に厳しい依頼者の負担が増えるからといったものでした。
しかし、後述するように、法テラスは、多額の宣伝広告費を使い、それでも年度末には予算があまるようですので、増加分は法テラスが負担すれば解決すると思われます。
ちなみに、私が所属する第二東京弁護士会では、法テラス事件や国選弁護などの公益活動をしないと5万円の罰金が取られます。
つまり、「法テラスの報酬は安いけれど、ボランティアだと思ってやれ」ということです。
上記のように、法テラスは、国家権力を背景に弁護士を安く買い叩いておりますが、法テラス職員が弁護士の苦労など何とも思っていないことがよく分かる以下のようなやりとりがありました。
私「既に援助契約をしている方で、申込時は反訴予定と記載していた案件について、裁判官が別訴の方が好ましいというということですので、別訴提起をしたいと考えています。その場合、どういう手続きをして、報酬はどうなりますか?」
法テラス「それは報告をいただいたものを審査委員にまわして決めますので、現段階では何ともいえません。ただ、決定が出てなくてもやっていただいても良いですよ。」
私「決定がでてなくてもやっていただいて良いって、1件分で2件やれってことですか?」
法テラス「そうなりますね。ははははは・・・」
私「・・・」
なお、法テラスは、必ずしも依頼者に優しい制度ではありません。
なぜなら、一般的な事件では、上記のように報酬が異常なくらい安いのですが、債務整理に関しては、なぜが普通に弁護士に依頼する方が安かったりします。
また、最近、法テラスが、生活保護費を減額されたのが不当だと訴えた裁判で、その主張が認められ、減額された分の支払を命じる判決が出たところ、その生活保護費の後払い分から立替費用分を取ろうとして問題となりました。
⑤ 出張費などが出ないor安い
東京に事務所があると、東京に通勤している近隣県の方の相談を受けることもよくあります。
その場合、いくら職場が東京でも、他県在住なので、裁判は他県で行われます。
そうすると、往復2時間以上かかるケースもあるのですが、法テラス利用では、遠方の裁判所だからといって出張費が出たり、交通費が上乗せされたりすることはありません。
依頼者が東京だけれども、裁判所は遠方となるケースでは、交通費は出ますが出張費は出ません。
実際に、ご相談の際には、東京在住で裁判管轄が大阪というケースで、「大阪の弁護士には打ち合わせなどの煩雑性を理由に断られ、東京の弁護士には法テラス基準では安すぎて受けられないと断られました」という相談を受けることもあります。
⑥ 契約まで時間がかかる
最初に説明したように、法テラスの援助制度を利用するには、必要書類をそろえて提出し、法テラスの審査を待ち、法テラスの援助開始決定が出ると契約書が送られてきて、三者間契約がされるということになるため、時間がかかります。
急がないような事件なら良いのですが、たいていの場合は依頼者は一刻も早く問題を解決したいと思っています。
なかには、すぐに着手しないと問題が起こるような場合があります。
そうすると、弁護士としては、契約も成立していないのに事件に着手しなければならないということになります。
実際、私は、法テラスに、「この事件についてすぐに着手しても良いですか?」と質問したことがありますが、法テラスからの回答は、「着手してもかまいませんが、自己責任です」との回答でした。
負担はすべて弁護士に押しつける、この回答のどの辺が弱者の味方なのでしょうか?
このような問題を回避するため、なごみ法律事務所では、法テラスの援助開始決定がでることを解除条件とする暫定的な契約書を作成させていただくことがあります。
なお、契約してから弁護士に支払いがなされるのは翌月末なので、弁護士が着手金を受け取れるのは事件に着手した2か月ほど後です。
⑦ なぜか大量の宣伝広告費をつかっている
法テラスの設立趣旨は、経済的問題から弁護士に依頼できない方を救済しようというものです。
この趣旨からすれば、弁護士が、相談に来られた方の相談内容に合理性があるのに、経済的問題から依頼できないと判断した場合に、法テラスの説明をすればよいはずです。
ところが、法テラスはなぜか大量の宣伝広告費を使い様々なメディアで宣伝しています。
ためしに、インターネットで「法律相談」と検索してみてください。法テラスが一番に表示されるはずです。
その結果、法律相談といえば法テラスというイメージを持ってらっしゃる方も多くいます。
なぜ、公的機関が、それも経済的に困窮している方の救済を目的としている機関が、一般の弁護士と相談者を奪い合おうとするのか理解できません。
3 法テラス案件で弁護士は手抜きをするか?
ネットの書き込みにあるように、法テラスを利用すると弁護士は手抜きをするのでしょうか?
上記のように、手続きが煩雑で、弁護報酬も安いとなれば、依頼する側からみれば「手抜きをされるのではないか?」と疑いたくなるのは当然だと思います。
実際、そういう弁護士がいないとは言いませんし、「手抜きではなく、金額に見合った適正な仕事をしただけ」とおっしゃる弁護士の方もいます。
監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。