内定取消しで損害賠償が認められる場合があります
採用内定とは何か
採用内定とは、法律的には、「就労または労働契約の効力の始期付きで解約留保権付きのもの」とされます。
つまり、採用内定の通知が届いた時点で契約としては成立しますが、効力が発生するのは仕事が始まる日ですよ、学校を卒業できないなどの合理的理由がある場合は解約できますよ、という条件がついているわけです。
採用内定の取消しが有効かどうかの判断基準
条件付きとはいえ契約が成立しているので、何の理由もなく内定を取り消すことはできません。
内定を取り消すことができるのは、「解約権留保の趣旨、目的に客観的に照らして合理的で社会的に相当」といえる場合だけです。
そして、中途採用の方に対する採用内定の方が、新卒者に対する採用内定よりも、前職を退職している、または、退職願を出していることを考慮して厳しく判断する傾向にあります。
採用内定の取消しが有効となる具体的な例
採用内定の取消しが有効とされる具体的な例としては、以下のようなものがあります。
・内定者が卒業予定の学校を卒業できなかった場合
・内定者が病気やケガで正常な勤務ができなくなった場合
・内定を出した当時には予測できなかった経営悪化で、会社の人員計画を大幅に変更せざるを得ず、既存社員も整理解雇されるような状況にある場合
・内定者に学歴・経歴の重要部分に詐称があった場合
・内定者が刑事事件を起こしていた場合
上記はあくまでも代表的な例ですので、これ以外にも内定取り消しが違法とされることがあります。
上記のような内定取り消しが有効となる事由に該当する覚えがない方は、会社に対して、内定取消しの理由を書面で出すよう請求してください。
*「新規学校卒業者の採用に関する指針の策定について」(平成5年6月24日労働省発職134号)という通達で、会社には内定取消し事由を明示するよう求めています。
違法な採用内定取消しにおける損害賠償額
採用内定取消しが違法とされた場合、理論的には、内定が有効となるので、その会社に就職することになるはずですが、いったん内定を取り消されて裁判までした会社に入ろうという方はまれです。
ですから、ほとんどの裁判では違法な内定取消しを理由として損害賠償を請求する、または、とりあえず内定取消し無効確認訴訟をして、途中で和解をしています。
そして損害としては、多くの裁判例では、逸失利益又は給与と慰謝料が認められています。
逸失利益とは、就業していれば得られたであろう給与相当の金額をいいます。
逸失利益ではなく、内定取消しが違法で無効なのだから、給料が発生しているとしている裁判例もあります。
逸失利益か給与かは、訴えるときにどちらで請求するのかと、原告が再就職しているかどうかで分かれているようです。
慰謝料については、近年の裁判例だと、中途採用のケースで50万円~100万円を認めているものがあります。
新卒のケースについては裁判例は見つけられませんでしたし、私自身も相談を受けたことがありません。
おそらく学生の方の場合、内定取消しがあっても、その会社にこだわるより、新しい就職先を探そうとする方が多いからではないかと思います。
実際に訴訟をした場合は、会社側の対応はもちろんですが、内定後も就職活動を継続しているかや、卒業までの期間などから総合的に判断されるのではないかと考えます。
採用内定の取消しが有効でも、説明義務違反で損害賠償が認められることがあります
大阪地方裁判所平成16年6月9日判決では、パソナが、ヨドバシカメラへの派遣予定への社員に対し内定を出したが、パソナとヨドバシカメラとの業務委託契約がなくなったことから、内定を取り消したという事案で、内定取消しは有効としつつも、パソナには、ヨドバシカメラとの業務委託契約がなくなった場合には内定を取り消すことがあるということを説明したうえで、内定者らに労働契約を締結するか意思確認をする義務があったのに、これをしなかったとして、慰謝料20万円を認めています。
<参考裁判例>
・最高裁判所第二小法廷昭和54年7月20日判決(大日本印刷事件)
・最高裁判所第二小法廷昭和55年5月30日判決(電電公社近畿電通局事件)
・東京地方裁判所平成9年10月31日判決(インフォミックス事件)
・東京地方裁判所平成16年6月23日判決(オプトエレクトロニクス事件)
・大阪地方裁判所平成16年6月9日判決(パソナ事件)
・福岡地方裁判所平成22年6月2日
・東京高等裁判所平成24年7月30日
監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。