父子関係に関する最高裁判所H26.7.17判決
1 最高裁判所平成26年7月17日判決の概要
最高裁判所第一小法廷は、平成26年7月17日に父子関係に関する判決を3つ下しました。
判決1 事件番号:平26(オ)226号
民法777条が嫡出否認の訴えの期間を1年としたのは、身分関係の法的安定性を保持する上から合理性を持つ制度であって、憲法13条に違反しない。
また、憲法14条等に違反しないことは、最高裁判所昭和30年7月20日判決から明らかである。
判決2及び3 事件番号:平25(受)233号、平24(受)1402号
・ 夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり、かつ、子が、現時点において夫の下で監護されておらず、妻及び生物学所の父の下で順調に成長しているという事情があっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから、上記の事情が存在するからといって、同条による嫡出推定が及ばなくなるものとはいえないから、親子関係不存在確認の訴えを提起することはできない。
・民法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について、妻がその子を懐胎すべき時期に、既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ、又は遠隔地に居住して、夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には、上記子は実質的には同条の推定を受けない嫡出子に当たるということができる。
2 上記判決の影響
上記判決2及び3は、いずれも、原審が、法律上の父親が生物学的父親ではないことが科学的に明らかで、子供が生物学的な父親と生活している場合には、民法772条による嫡出推定を受けないとしていたのを破棄したものです。
民法772条の嫡出推定について、最高裁判所は、昭和44年5月29日判決で、離婚届より2年半以上前から事実上離婚していたとの事実認定を前提に、そのような場合には「実質的には民法772条の推定を受けない嫡出子」であるとし、平成10年8月31日判決では、受胎したときに夫は戦地に行っていたので懐胎できないのは明らかだから、民法772条の推定を受けない嫡出子であるとする一方で、同日の別居を理由とする案件では、別居後も1度は性的関係を持つ機会があったとして、民法772条の推定を受けない嫡出子に当たるとはいえないとしていました。
さらに、最高裁判所平成12年3月14日判決も同様の判決を下しています。
これらの判決は、「最高裁判所は、嫡出推定が及ばないのは、夫婦間の接触がなかったという、夫の子でないことが外観上明白な場合に限るとした」と評価されていましたが、平成26年の3つの判決は、これを明確にしたものと考えます。
もっとも、これまで、昭和44年の最高裁判所の判決にもかかわらず、家庭裁判所レベルでは、科学的に見て、法律上の父親が生物学的父親といえないケースで、かつ、子供に不利益がない場合、民法772条の嫡出推定が及ばない場合を広く解釈するものが多くありました。
今回、最高裁判所が破棄した原審も、嫡出推定が及ばないケースを広く認める判決でした。
このことから、「嫡出推定が及ばない」との判断が厳しくなるとの評価もありますが、現場への影響は今後の裁判例の集積を待たないと分かりません。
そもそも最高裁で判決されるということは、関係者の間で相当争われていた事案ですので、関係者が全く争っていないような場合には、従来通り嫡出推定が及ばない場合が緩やかに解釈される可能性もあります。
〈平成27年10月23日追記〉
上記判決が出てから1年少々が経過しましたが、この間に依頼を受けた事件に関する家庭裁判所の判断からは、認定が厳しくなったという印象はありません。
もっとも、300日問題は、それほど多くの申立が行われているわけではありませんし、当職の経験だけからの印象ですから、裁判官によっては厳しい認定をする可能性も否定できません。
監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。