相続放棄の手続と期間
両親などが亡くなったけれども、どうも借金があるらしいので相続放棄をしたい、でも、どうすれば良いか分からないという方も多いと思います。
提出書類を集めるのが面倒ですが、手続自体は簡単なので、ご自身で行うことができます。
以下で、相続放棄の手続と期間を説明しますが、その前に、まずは、相続放棄とは何かについて簡単に説明します。
1 相続放棄の概要
相続放棄とは、法律上、相続人となる者(法定相続人といいます)が、家庭裁判所で手続をすることで、初めから相続人ではなかったものとなる制度です(民法939条)。
初めから相続人ではなかったのですから、借金はもちろん、未払いの税金などについても一切支払う義務はなくなります。
また、相続人ではなくなるだけなので、生命保険の受取人に指定されている場合には、生命保険金を受け取ることができます(保険会社によっては、受取人が「相続人」となっている場合は受け取れないことがあります)。
なお、相続放棄については、金融機関などに通知される訳ではないので、家庭裁判所が発行する「相続放棄申述受理通知書」のコピーなどを提出しないと、金融機関からいつまでも連絡が来ることになります。
2 相続放棄の手続
⑴ どこで手続をするか
まず、相続放棄の手続をどこですれば良いかですが、亡くなった方の最後の住所(住民票があるところ)を管轄する家庭裁判所です。
管轄裁判所は、たいていの場合は、一番近い裁判所ですが、詳しくは裁判所の管轄に関するページでご確認ください。
⑵ 提出書類など
管轄裁判所を確認したら、次のものを用意して、裁判所に提出してください。
なお、「相続放棄申述書」と費用以外は、一緒に申立をしたり、以前に申立をした方と重複するものは必要ありません。
重複によって提出する必要があるかどうか分からなければ、念のために提出しておきましょう。
□「相続放棄申述書」
相続放棄を行うには、「相続放棄申述書」という書類を裁判所に提出します。
「相続放棄申述書」は、裁判所で定型の書式が用意されており、相続放棄の説明ページから書式と記入例がダウンロードできます。
未成年者の場合の記入例は、未成年者の場合のページをご覧ください。
また、窓口でもらうこともできます。
□収入印紙800円
「相続放棄申述書」には、800円の収入印紙を貼る必要がありますが、書類に不備などがあったときのために、貼り付けずに持っていくことをお勧めします。
□郵便切手82円~300円程度(裁判所によって異なる)
予納郵券といって、裁判所との連絡用の切手が必要になります。
金額は手裁判所によって違うので、申立をする裁判所でおたずねください。
□亡くなった人の「住民票除票」または「戸籍附票」
市区町村役場で、亡くなった人の「住民票除票」か、「戸籍附票」を申立書と一緒に提出してください。
「住民票除票」とは、「亡くなったので住民票を抹消しましたよ」という書類です。
「戸籍附票」は、戸籍と一緒になっている住所を記録した書類ですが、本籍地で取得する必要があります。
□放棄する方の戸籍謄本(全部事項証明書)
放棄する方が相続人であることを証明する必要があるので、戸籍謄本を提出する必要があります。
現在の法律では、「全部事項証明書」と言いますが、様々な公的書類を「全部事項証明書」というので、「戸籍謄本」と言った方が分かりやすいです。
*放棄する方の立場によって異なる書類
・放棄する方が、亡くなった方の夫(妻)や子供の場合
□亡くなった方の死亡の記載がある戸籍謄本
・放棄する方が、亡くなった方の孫など(代襲相続)の場合
□亡くなった方の死亡の記載のある戸籍謄本
□亡くなった方の子供など、本来なら先に相続する立場の人の死亡の記載のある戸籍謄本
孫などが子供に代わって相続するのは、子供が先になくなっている場合ですので、そのことを証明するための戸籍が必要となります。
・放棄する方が、亡くなった方の両親の場合
□亡くなった方の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
□亡くなった方に子供や孫などがいたが先に死亡していた場合は、その子供らの出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
亡くなった方の両親などが相続するのは、亡くなった方に子供がいない場合ですので、亡くなった方が生きている間に作られた全ての戸籍を確認し、子供がいない、または、先になくなっていることを示す必要があります。
・放棄する方が、亡くなった方の祖父母の場合
□亡くなった方が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本
□亡くなった方に子供や孫などがいたが先に死亡していた場合は、その子供らの出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
□亡くなった方の両親の死亡の記載のある戸籍謄本
祖父母が相続人となるのは、亡くなった方に子供がなく、両親も先になくなっている場合ですので、そのことを示す戸籍が必要になります。
・放棄する方が、亡くなった方の兄弟姉妹の場合
□亡くなった方が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本
□亡くなった方に子供や孫などがいたが先に死亡していた場合は、その子供らの出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
□亡くなった方の両親の死亡の記載のある戸籍謄本
□亡くなった方の祖父母の死亡の記載のある戸籍謄本
・放棄する方が、亡くなった方の甥姪の場合
□亡くなった方が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本
□亡くなった方に子供や孫などがいたが先に死亡していた場合は、その子供らの出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
□亡くなった方の両親の死亡の記載のある戸籍謄本
□亡くなった方の祖父母の死亡の記載のある戸籍謄本
□亡くなった方の兄弟(ご自身の親)の死亡の記載のある戸籍謄本
3 相続放棄の期間
⑴ 原則
相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に」しなければならないと決められています(民法915条1項本文)。
そして、「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」とは、「相続開始の原因たる事実を知り、かつ、そのために自己が相続人となったことを覚知したとき」と解釈されています(大審院大正15年8月3日判決)。
要するに、相続する人が配偶者(夫・妻)や子供の場合は、その人が亡くなったことを知ったとき、そうでない場合は、その人が亡くなったことを知るとともに、配偶者や子供がいない、あるいは相続放棄し、自分が相続する立場であると知ったときです。
このように相続放棄の期間が限定されているのは、相続放棄をいつまでのできるとすると、永遠に相続人が決まらなくなるからです。
⑵ 法律上の例外
そうはいっても、「財産があったら相続して、借金だけだったら放棄しよう」と考えている方もいると思います。
そこで、民法は、915条1項ただし書きで、利害関係人の請求によって、裁判所は3か月という期間を伸ばすことができると定められました。
ですから、相続財産を調査したけれども、資料がそろわず、もう少し待って欲しいという場合には、家庭裁判所に期間の伸長の申立をする必要があります。
期間の伸長についても裁判所が書式と記載例を用意してくれていますので、期間の伸長のページからダウンロードしてください。
⑶ 解釈上の例外
自分が相続人になることは知っていたけれども、亡くなった人にはプラスの財産も借金もないと思っていたら、3か月を過ぎてから、金融機関等から請求書が来たというケースがよくあります。
このような場合について、最高裁判所は、「被相続人(亡くなった方)に相続財産が全く存在しないと信ずるにつき相当な理由があると認められるときには、本条(民法915条)の熟慮期間は、相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識し得べき時から起算する」としました(最高裁判所昭和59年4月27日)。
ですから、3か月の期間を過ぎてから相続放棄をしようという場合には、裁判所に、相続財産がないと信じた事情と、借金があったのを知った事情について説明する書類を提出する必要があり、裁判所が、それを相当と認めた場合には、相続放棄が認められます。
監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。