私立学校に通う場合の養育費|2019年12月改定対応
私立学校に通っているから養育費を増額するよう請求することが出来るでしょうか?
裁判所の公表している「養育費算定表」は、公立学校に通う場合を想定しているため、お子さんが私立小学校、私立中学校、私立高校などに通っている場合、養育費が増額されることがあります。
もっとも、どんな場合でも増額が認められるわけではないため、そもそも増額対象になるのか、増額されるとして、いくら増額になるのか順に説明します。
1 私立学校に通うことで養育費が増額される場合
私立学校に通っていることで養育費が増額されるのは、養育費の支払い義務者側が、お子さんの私立進学に同意していた場合です。
同居中にお子さんが私立学校に進学した場合には、原則として同意があったと認定されます。
別居後に私立学校に進学した場合は、私立への進学について相手に伝えており、相手も同意していたといえるやり取りがあった場合には、養育費の金額が増額されます。
逆に、相手が私立学校への進学に反対していた場合や、資産、収入などから学費の増額分を相手に負担させるのが相当といえない場合は、たとえ実際に私立学校に進学が決まっていた場合でも、養育費は増額されません。
悩ましいのは、公立高校の入試に落ちてしまって、私立高校に進学した場合です。
近年、婚姻費用の事案ではありますが、東京高等裁判所で、このような事情で私立高校に進学したため婚姻費用の増額を求めた事案で、非監護親(父親)が平均をはるかに超える収入を得ているにもかかわらず、父親は公立高校への進学しか認めていなかったとして、私立加算はしないとした決定があります。
他方で、東京家庭裁判所では、高校進学率が約99%で、高校受験浪人というのが一般的ではない状況からすれば、公立高校に落ちてしまったため、やむを得ず私立高校に進学するという場合には、原則として養育費の加算が認められるとした審判もあります。
当職としては、公立高校に落ちて私立高校に行く場合は、加算が認められるべきだと考えますが、裁判官によって異なる結論となる可能性があります。
もう一つ悩ましいのは、同居中に私立中学などに進学することに同意し、進学塾などに通い、受験直前に別居、離婚となったケースです。
このようなケースについて、婚姻費用の事案ではありますが、私立加算が認められた事例があります。
もっとも、「受験直前」とはいつなのか、明確な基準があるわけではないので、同居中にどの程度私立受験に協力的であったのかや、義務者側の経済力、学歴なども含め、総合的に判断するしかないでしょう。
*養育費の増額を否定した裁判例
【神戸家庭裁判所平成元年11月14日審判】
娘が私立学校に通うことを理由に、養育費の増額を請求した母親に対し、裁判所は、①姉2人が公立高校を卒業していること、②父親の収入が低いことから、増額を認めると負担が大きいこと、③父親が当初から私立高校への進学を強く反対していたこと、を理由に養育費の増額を認めなかった。
2 私立学校に通う場合の養育費の計算
まず、私立学校の学費として考慮されるのは何かですが、裁判では、授業料および施設利用費などの学校納付金を対象としています。
学用品費などは、公立でも私立でも大きな差はないと考えて考慮しない場合のが一般的です。
では、具体的にどのように計算するかですが、裁判例は統一されていませんが、大きく次の2つの計算方法に別れています。
①私立学校の学費から公立学校の平均的教育費を差引いて、収入に応じて案分する方法
②生活費指数のうち教育関係費に相当する部分を差引いて養育費を計算し、私立学校の学費を収入に応じて案分する方法
上記のうち①は、世帯平均収入である約750万円前後であれば、養育費算定表とセットで用いれば、簡易に算出できるので便利ですが、平均から大きくズレる場合は誤差が大きくなります。
上記記載のとおり、裁判例は統一されていませんが、義務者の所得がよほど高額でない限り①の計算方法を用いる判決の方が多数派な印象です。
以下、順に計算方法を説明します。
①の計算方法
⑴ 考え方
①は、統計上14歳以下の子の教育関係費の平均が13万1379円、15歳以上の子は25万9342円であることから、平均金額と実際の私立の学費との差額を、収入の比率で按分しようという考え方です。
計算式にすると、次のようになります。
加算額=(私立学校の学費-公立学校の教育費)×義務者の基礎収入÷(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)÷12か月
基礎収入については、「養育費の計算」で説明しているので、そちらをご覧ください。
⑵ 具体例
具体的に計算してみましょう。
私立小学校に通う子供の学費と施設利用費が年間50万円、義務者が会社員で年収が700万円、権利者が会社員で収入が300万円とします。
加算額=(50万円-13万1379円)×700万円×41%÷(700万円×41%+300万円×42%)÷12か月
≒2万1661円
となります。
義務者の年収700万円、権利者の年収300万円、小学校に通う子供が1人の場合を養育費算定表に当てはめると、6~8万円の枠の下の方です。
これに、上記金額を加えて、養育費は約8万円となります。
②の計算方法
⑴ 考え方
②の考え方は、養育費算定表の元になっている標準算定式が、大人の生活費を100とした場合、子供はどれくらいかを考えて算出していることを応用する方法です。
この、子供の生活費が大人と比較して何パーセントかを表したものを生活費指数といいます。
2019年12月の改定の際に、この生活費指数について次の通り発表されています。
・14歳以下の子供の教育費を除いた生活費指数は51、教育費を考慮した生活費指数は62
・15歳以上の子供の教育費を除いた生活費指数は60、教育費を考慮した生活費指数は85
この教育費を除いた生活費指数を用いて標準算定式で養育費を計算し、実際の教育費は別に収入に応じた負担額を計算し、両者をたして養育費を算出します。
具体的には、まず、基本となる養育費を標準算定式、または、養育費算定表に当てはめて算出します。
標準算定式、養育費算定表の使い方は、こちらの養育費の計算のコラムをご覧ください。
そうして算出された養育費は、子供の生活費指数を62(15歳以上は85)として算出されているので、51(15歳以上は60)に割り戻します。
計算式にすると次の通りです。
・教育費を除いた養育費(14歳以下)=養育費算定表の金額×51/62
・教育費を除いた養育費(15歳以上)=養育費算定表の金額×60/85
これとは別に、実際の学費を基礎収入に応じて按分した金額を算出し、上記で算出した金額に加えます。
なお、この方法で計算すると、義務者の収入に比例して、養育費算定表に織り込み済みの教育関係費が多くなるので、高額所得者の場合、私立の学費を上回る教育費がもともと織り込み済みであると認定されることがあります。
⑵ 具体例
具体的に考えてみましょう。
私立小学校の学費が50万円、義務者の給与収入が年700万円、権利者の給与収入が300万円の家族について考えてみましょう。
上記の収入を養育費算定表に当てはめると、月額6万円程度が適切な養育費となります。
ここから教育費を除いた養育費を算出すると次の通りです。
6万円×51/62≒4万9355円
義務者の基礎収入は、700万円×41%=287万円
権利者の基礎収入は、300万円×40%=120万円
なので、実際の学費50万円のうち義務者が負担すべき金額は次の通り。
50万円×287万円/(287万円+120万円)≒35万2580円
月額=35万2580円÷12
≒2万9382円
教育費を除いた養育費に、これを加えて、
4万9355円+2万9382円≒7万8736円
となります。
3 塾代などの増額請求
塾などの習い事は、親権者が任意に行うものと考えられており、原則として養育費の増額理由にはなりません。
もっとも、相手が塾に通わせることを同意している場合や、発達障害児の学習補助など学校以外の習い事が必要な場合には、増額が認められることがあります。
なお、学童保育の費用は、請求者が、その年収を得るために必要なものですので、原則として加算が認められます。
詳しくは、下記関連コラムをご覧ください。
【関連コラム】
*養育費・婚姻費用として塾代を請求出来るか?
*養育費の計算
監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。