労災保険金の損害額への充当方法に関する最高裁判所判決
仕事中の交通事故では、労災保険金の請求と加害者(保険会社)への請求ができますが、相殺保険金が支払われた場合の加害者への請求額に影響を与える最高裁判決がなされたので紹介します。
最高裁判所大法廷は、平成27年3月4日、労災保険金の損害額への充当方法について、
「被害者が不法行為によって死亡した場合において、その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定 したときは、損害賠償額を算定するに当たり、上記の遺族補償年金につき、その塡 補の対象となる被扶養利益の喪失による損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有する逸失利益等の消極損害の元本との間で、損益相殺的な調整を行うべきものと 解するのが相当である。」
と判示しました。
要するに、労災保険金を受け取ったら、遅延損害金(利息のようなもの)ではなく、元本に充当するということです。
何が違うかというと、例えば、仕事で車を運転中に交通事故に遭い死亡した場合、加害者に対して損害賠償請求をするのですが、労災保険金の給付もあります。
このとき、被害者の損害額は、お金の出所に関わらず一定なので、加害者に損害賠償を請求するにときには、労災保険からもらったお金を差引いた金額になります。
そして、交通事故で損害賠償請求をする場合、損害は、事故時点で発生しますが、請求はある程度時間が経ってから行われるため、損害額に遅延損害金がつきます。
ここで、労災保険金を遅延損害金から差引くか、損害の本体(元本)から差引くかで、金額に違いが出ます。
なぜなら、元本から差引くと、労災保険金が給付された時点から元本が少なくなるため、遅延損害金も少なくなるのです。
具体的に考えてみましょう(計算しやすい数字にしています。交通事故の相場を示しているわけではありません)。
たとえば、平成23年1月1日に仕事中の交通事故で亡くなり、損害が5000万円と算定されたとします。
2年後の平成25年1月1日に労災保険から1000万円給付がありました。
さらに2年後の平成27年1月1日に加害者から損害賠償金が支払われることになりました。
民法で、遅延損害金は年5%とされています(2020年改正後は3%)。
この場合、元本に充当する方法だと、平成25年1月1日に、元本5000万円から1000万円が差引かれ、4000万円となり、既に発生している遅延損害金が500万円あることになります。
そして、加害者からの支払日である平成27年1月1日には、元本4000万円と、これに対する平成25年1月1日からの遅延損害金400万円、平成25年1月1日に既に発生していた遅延損害金500万円の合計4900万円が支払われます。
これに対し、利息に充当する方法だと、平成25年1月1日に、既に発生している遅延損害金500万円から1000万円が差引かれ、足りない分を元本から差し引き、元本4500万円、遅延損害金0円となります。
そして、加害者からの支払日である平成27年1月1日には、元本4500万円と、これに対する平成25年1月1日からの遅延損害金450万円、合計4950万円が支払われます。
このように、労災保険金を元本と遅延損害金のどちらに充当するかで、最終的に支払われる金額に50万円の違いが出てきます。
事情によっては、上記の事例より大きな金額の違いとなります。
以上から、労災保険金を元本に充当するとした今回の判決は、今後の損害賠償請求訴訟に大きな影響を与える判決といえます。
なお、大法廷とは、最高裁判所の裁判官15人全員で行われる裁判のことです。
大法廷以外に、裁判官5人で行われる’(第1~第3)小法廷というものがあり、憲法問題や過去の判例を変更するなど、重大問題は大法廷で判決されます。
監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。