面会交流の間接強制
子供との面会交流について調停で取り決めた、あるいは審判で決められたのに、相手が子供と会わせようとしない場合、間接強制が認められる場合があります。
間接強制とは、裁判所が、面会交流を実施するまで一定割合の金額を支払うよう命じて、心理的・経済的にプレシャーをかけるものです。
この間接強制は、面会交流の取り決めをしたら必ず認められるというものではないので、取り決めをする際には以下の点に注意して下さい。
以下で出てくる「監護親」とは、子供を引き取った方の親で、「非監護親」はそうではない方の親です。
1 概要
面会交流の間接強制が認められるための要件については、最高裁判所平成25年3月28日決定が判断しています。
なお、最高裁判所は、同じ日に3つの決定(41号、47号、48号)を出していますが、主要部分は共通しているので、区別せず説明します。
同決定は、
「子の利益が最も優先して考慮されるべきであり、面会交流は、柔軟に対応することができる条項に基づき、監護親と非監護親の協力の下で実施されることが望ましい」
と前置きをした上で、
①面会交流の日時又は頻度
②各回の面会交流時間の長さ
③子の引渡し方法
によって監護親がすべき給付の内容が特定されていることが必要としています。
各要件について、さらに詳しく見ていきましょう。
2 ①面会交流の日時又は頻度
最高裁判所決定が「日時又は頻度」という書き方をしていること、同決定は、「1箇月に2回、土曜日又は日曜日」との取り決めについて間接強制を認めた事案であることからすれば、「1か月に1回」という程度で決まっていれば、「日時又は頻度」という要件は満たされると思われますが、最高裁決定と同程度には具体的に決めておいた方がいいでしょう。
また、調停の時に、「相手が任意に面会交流に応じてくれず、間接強制をしなければならない」と考えるほど夫婦の関係がこじれているのであれば、トラブルを避けるためにもう少し具体的に決めておいた方がいいでしょう。
3 ②各回の面会交流時間の長さ
面会交流時間の長さを決めていないと、監護親側は「十分な時間子供に会わせた」と主張し、非監護親側は「ちょっと顔を見せただけで、あんなのは面会交流とはいえない」と主張するかもしれません。
そのようなとき、調停・審判で具体的な各回の面会交流時間の長さをが決まっていないと、裁判所は面会交流が実施されたのかどうか判断出来ません。
そこで、「1回の面会交流につき3時間」とか、「午前11時から午後3時まで」などと各回の面会交流時間の長さを具体的に決めておく必要があります。
ここで、子供が乳幼児期の離婚や、別居期間が長く、その間面会交流が行われていなかったような事案では、最初は短時間、慣れてきたら長時間としたい場合もあると思います。
そのような場合は、面倒でも「平成●年●月から平成●年●月までは1回1時間、同年●月以降は1回5時間」などとする必要があります。
4 ③子の引渡し方法
裁判所が、監護親に「●●するまで●●円」と命じるわけですから、監護親が具体的にどのようなことをすれば良いのかを特定しておく必要があります。
具体的には、子供の引渡しの時間、引渡し場所、誰が誰に引き渡すのかを決める必要があります。
例えば、「午前11時に非監護親方で監護親から非監護親に子を引渡し、午後3時に監護親方で非監護親から監護親に子を引き渡す」などが考えられます。
5 「原則として」は要注意
一見上記3つの要件を満たしているようでも、面会交流に関する審判の冒頭に、「原則として」と書いてあったものについて、不明瞭であるとして間接強制が却下されたことがあります。
他方で、裁判例では、面会時間の部分で「原則として●●時~●●時」とされている審判に基づき間接強制が認められているものがあります。
上記2つで判断を異にする理由はないように思いますし、上記が裁判所の共通見解かどうかも分かりませんが、面会交流の審判の冒頭に「原則として」とつけられた場合には、不服申立をしておいた方が良いでしょう。
6 間接強制は最後の手段です
間接強制とは、相手に対し、「子供と会わせないとお金を取るぞ!」というわけですから、相手との関係がさらに悪化することになるでしょうし、仮に間接強制をしたことで面会交流が出来たとしても、相手は子供にあなたの悪口を吹き込むことになり、子供がある程度成長した時に嫌われてしまうかもしれません。
また、せっかく間接強制が認められても、相手は間接強制を避けるために就業先を辞めたり、金融機関口座を解約してしまい、実際には何も取り立てられず、間接強制の意味がないということもあります。
長期的に子供と良好な関係を築きたいのであれば、相手に面会交流を拒否されても根気よく説得したり、誠実な態度を見せて相手に面会を認めてもよいという気持ちになってもらうのが原則で、間接強制は、どうしても会えない場合の最後の手段と考えておいて下さい。
【関連コラム】
*面会交流の具体的内容
*男女問題コラム目次
監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。