モラハラで離婚や慰謝料が認められるか?
相手のモラハラが原因で離婚したいという相談者も多くいらっしゃいます。
モラハラとは、モラルハラスメント=道徳に反する嫌がらせ行為をいいます。
モラハラも、理論的には民法770条1項5号「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」にあたり、離婚原因になりますが、実際にはモラハラを原因として離婚や慰謝料を求めるのは簡単ではありません。
その理由は、大きく3つあります。
1 モラハラの幅が広すぎる
モラハラは、道徳違反する嫌がらせですが、道徳とは何かというと、ものすごく幅が広く、かつ、価値観を含む行為のため、人によってモラハラに当たるかどうかの考え方が違いますし、モラハラに当たるとしても、どの程度ひどいモラハラかにも違いがあります。
例えば、「妻が家を掃除しないんです」というご相談がありますが、ゴミ箱がいっぱいで、横に空き缶が何個か積んであるという場合と、家中にゴミが散乱していて玄関にはゴミ袋がいっぱいで、ごみをかき分けないと家に入れないというのでは全然違います。
ですから、一口にモラハラで離婚といっても、様々なケースが考えられ、一律にモラハラ=離婚原因になるとはいえません。
そして、誰もが認めるようなひどいモラハラの場合、モラハラではなく別の概念が存在することが多いです。
例えば、暴力や暴言であれば、それを理由に離婚を主張すればよいということになります。
結果としてモラハラを理由に離婚という場合、1つ1つは大きなことではないけれども積み重なってつらいとか、無視されるといった事情になります。
そうすると、裁判で、一つ一つのモラハラを書いても、裁判官にはイマイチ響かず、「この程度で離婚?」と思われてしまいがちです。
2 証拠がない
モラハラは、精神的暴力なので、身体的な暴力のようにケガが残ったり、物が壊れたりしません。
証拠として効果的なものの一つとしてメールがありますが、メールでモラハラなやりとりをすることは多くありませんし、数が少ないと夫婦喧嘩の際の売り言葉に買い言葉と判断されかねません。
録音・録画も効果的ですが、モラハラ行為は日々の生活のなかで突然行われるので、タイミング良く録音や録画をするのは難しいと思います。
とくに、「無視をする」というモラハラの場合、そもそもモラハラの状況を音として残すのは難しいでしょう。
他にも、日記をつけたり、事情を知っている人物に証人になって欲しいとお願いするなどの方法もあります。
しかし、日記は本人が自由に書けるものですから、録音や録画ほどは証拠として価値はありません。
日記を証拠として使う場合は、裁判官に、「後から創作したとは考えにくい」といえる程度に具体的に書いたり、客観的事実と関連づけながら書くことが望ましいです。
日記がわりに、親族や友人にLINEなどで出来事を送っておくという方法もありますが、逆に、ありもしない出来事を周囲に吹聴したのが離婚原因だと反撃される可能性もあります。
また、証人も間接的に知っているだけでは証拠としての価値が低いので、モラハラを直接見聞きしていることが望ましいですが、そのような証人を見つけるのは難しいことが多いと思います。
上記のいずれの証拠を確保する場合でも問題となるのは、「証拠を確保するまで、しばらくはモラハラに堪えないといけない」ということです。
場合によっては、精神的安定のために、裁判上の有利さをあきらめないといけなくなります。
3 相手がモラハラと思っていない
上記の通り、モラハラを裁判官に認めてもらうのは難しい場合が多いので、証拠が少ない場合には、協議離婚が出来ればベストなのですが、ほとんどの場合、モラハラをしている本人は、自分自身の行為をモラハラとは思っていません。
ですから、相手に非を認めさせて離婚することは、かなり難しいです。
4 どうすればいいのか?
以上のとおり、残念ながらモラハラを原因とする離婚は簡単ではありません。
ですから、「モラハラかな?」と思ったら、詳細に日記なのどに残しておいてください。
早めに周りの人に相談することも重要です。
ただし、相談相手から夫(妻)に相談内容が漏れる可能性もあるので、十分注意してください。
また、上記の通りモラハラを証明するのは難しいので、離婚に際してある程度妥協することが必要な場合もあります。
たとえば、慰謝料をあきらめるとか、モラハラで謝罪を受けることをあきらめて解決金として実質的な慰謝料をもらうなどです。
裁判に踏み切った場合でも、裁判の途中で、裁判官の反応を見ながら、和解できないかを考える必要もあります。
なお、モラハラを原因として慰謝料が認められる場合、モラハラの程度に応じて慰謝料の金額は様々ですが、多くの場合は300万円以下です。
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監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。