財産分与の判決後に新たに財産が見つかった場合の裁判例
離婚訴訟において、財産分与を請求し、離婚と一緒に財産分与判決がされて確定した後、その離婚裁判で審理されなかった新たな財産が見つかった場合、財産分与のやり直し、あるいは、その新たな財産についての財産分与が請求できるでしょうか?
この点について、東京高等裁判所令和4年3月11日決定が、再度の財産分与請求はできないとしているのでご紹介します。
1 事案の概要
・昭和52年11月26日 結婚
・平成30年1月30日 離婚判決確定
夫→妻に離婚と慰謝料を請求(横浜家裁)、妻→夫に離婚と慰謝料と財産分与を請求
横浜家裁判決(離婚と夫から妻への財産分与の支払い)
妻が東京家裁に控訴、東京家裁が請求棄却(横浜家裁の判決を維持)
妻が最高裁へ上告、上告却下
・令和2年1月27日 離婚判決時に財産分与の判断の対象とされなかった妻名義の有限会社の出資口数(株式のようなもの)などについて財産分与を求める調停申立て→不成立に伴い審判へ移行
・令和3年10月15日 横浜家裁が新たな財産分与を認めないとの審判→夫が東京高等裁判所へ不服申立て(即時抗告)
・令和4年3月11日 東京高裁が新たな財産分与を認めないとの審判を維持する決定
2 東京高等裁判所の判断
東京高裁は、以下の通り、①一般論として財産分与判決後に見つかった新たな財産についての再度の財産分与請求を否定するだけでなく、②本件の個別事情を考慮すると、そもそも新たに見つかった財産といえないとして、2段階で夫の主張を排斥しました。
①は、裁判例をそのまま引用します。
②は、分かりにくいので要約を記載します。
①について
「財産分与に関する民法の規定及び判例法理等に照らすと、財産分与請求権は、当事者双方がその協力によって得た一切の財産の清算を含む1個の抽象的請求権として発生するもので、清算的財産分与の対象となる個々の財産について認められる権利ではないのであるから、裁判所が、その協議に変わる処分の請求に基づいて、財産分与の額及び方法を定める内容の判決等が確定した時は、その効力として、当事者双方がその協力によって得た財産全部の清算をするものとして具体的内容が形成されるものである。
したがって、上記判決等が有効に確定したものである限り、当事者は、上記判決等に確定したものである限り、当事者は。上記判決等において考慮されていない財産があることを理由に、当該財産について、重ねて清算的財産分与を求めることはできないと解するのが相当である」
・・・「たとえ当事者が、前件判決において、本件申立理由に係る財産が財産分与の対象となる旨の認識を有しておらず、あるいは同財産の存在について何らの主張立証をしていなかったとしても、これらの財産について、重ねて財産分与の申立てをすることはできないといわざるを得ない。」
②について
夫は、上記の離婚とは別途、横浜地裁に以下の内容の確認を求める訴訟を提起しました。
①妻名義になっている有限会社の社員権について、夫が独身時代に買った車の売却代金があてられたものであるから、夫固有の財産である
②その後の増資は、社員への利益配当をもってなされたものだから、①のとおり社員権は夫のものなので、その利益配当としてなされた増資による新たな社員権も夫のものである
これに対し、横浜地裁は、証拠がないとして夫の請求を認めませんでした。
夫は、横浜地裁の判決によって、はじめて有限会社の社員権が自分個人の財産でないと分かったのだから、財産分与では考慮されなかった新たな財産を発見したんだと主張しました。
これに対し、東京高裁は、以下のように判断しました。
証拠がないんだから横浜地裁が夫の主張を認めないと予想できたはず。
そうだとすれば、夫は、横浜地裁で無理な争いをするんじゃなく、財産分与として争うべきだったのにしなかったんだ。
だから、有限会社の社員権は、新たに見つかった財産といえない。
3 コメント
何度も財産分与請求のやり直しが認められると、相手方もそれにお付き合いをしなければならないので、一度判決や審判で財産分与が決まった後は、たとえ新たな財産が見つかっても、財産分与のやり直しはできないというのはやむを得ないでしょう。
ただ、相手方が意図的に隠したような場合にまで再度の財産分与が認められないのはどうかと思います。
上記の東京高裁判決が、例外を一切認めない趣旨なのかどうかまでは分かりません。
なお、再度の財産分与については、広島高裁松江支部の平成2年3月26日決定というものもあります。
こちらは、原則としては再度の財産分与を否定しつつ、審判又は判決を維持することが著しく信義、公平に反する場合には例外的に前判決又は審判を取り消したり、変更したりできるとしています。
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監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。