勝手に離婚届けを出されそう(出された)
1 離婚届の不受理申出
離婚届けを勝手に出されるかもしれないというときは、離婚届の不受理申出を行ってください。
離婚届けの不受理申出とは、文字通り、相手が離婚届けを提出しても受付ませんという制度です。
この申出は、平成20年までは6か月の有効期限がありましたが、現在は、取下書を提出するか不受理申出書を提出した本人が離婚届けを提出するまで有効です。
この離婚届の不受理は、本人が「不受理申出書」を本籍地または住所地の市区町村役場の窓口に提出することでできます。
代理人や郵送による手続は受け付けていない自治体が多いですが、法律で決まっているわけではないので自治体によって違いがあるかもしれません。
不受理申出書を本籍地の市区町村役場に提出する場合は1通でいいのですが、住所地の市区町村役場に提出する場合は2通提出し、そのうち1通は住所地の市区町村役場が、本籍地の市町村長宛に送ることになります。
ですから、住所地の市区町村役場に提出すると、手続が若干遅れるのと、不備が発生する確率が上がるので、できれば本籍地の市区町村役場に提出した方が良いでしょう。
「不受理申出書」は、全国共通の書式ですから、お近くの市区町村役場の窓口でもらってください。
インターネット上でダウンロードサービスを実施している自治体もあります。
なお、市区町村役場の不手際で、離婚届けの不受理申出書を提出しているのに離婚届けが受理された場合、当然には無効とならずに、家庭裁判所で離婚無効調停を申し立てる必要があります。
裁判所で離婚が無効となった場合には、判決(審判)書と確定証明書を持って市区町村役場の戸籍係で戸籍の訂正を行います。
2 離婚届けを勝手に書かれた・以前書かれた離婚届を勝手に出された場合
離婚届けは、必要事項が記入されていれば受理されるため、上記のような不受理の申出をしておかないと、勝手に離婚届けを書かれて提出されるということがあります。
この場合も受理されてしまった以上、市区町村役場ではどうしようもなく、家庭裁判所で離婚無効を確認する調停を起こす必要があります。
調停で相手が勝手に離婚届けを書いて出したことを認めれば、合意に代わる審判という簡単な手続で離婚無効が認められます。
その後は、審判書謄本と審判の確定証明書を持って市区町村役場で戸籍の訂正手続をします。
調停で相手が争ったり、そもそも相手が調停に出席しない場合には、調停は不成立となり、離婚無効確認の裁判をする必要があります。
離婚届けが無効だという判決が出たら、判決謄本と確定証明を持って市区町村役場で戸籍の訂正手続をします。
裁判では、離婚届けが無効だということは、無効を主張する側が証明しないといけません。
離婚届が偽造された場合には、筆跡や印影から、偽造であることを証明していくことになりますが、昔書いた離婚届を勝手に出されたというケースでは、署名も押印も本人のものですから、勝手だされたことを証明するのが非常に難しくなります。
ですから、まずは安易に離婚届用紙を渡さないこと、離婚についてトラブルになった場合には離婚届の不受理申出をすることを忘れないでください。
3 親権者欄だけを勝手に書かれた場合
離婚自体には同意していて、離婚届けの署名押印もしたけれど、子供の親権について合意できず、親権者欄を空欄にしておいたのに、相手が勝手に親権者欄を記入して提出したというご相談もあります。
この場合、法律に明確な規定はなく、裁判例も少ないのですが、裁判例が離婚自体は有効としている点は共通しています。
では、子供の親権はどうなるかですが、
・戸籍訂正許可申立手続によって行う
・親権者変更調停によって行う
・親権者指定申立をする(手続は親権者変更調停とほとんど同じ)
・親権者指定協議無効確認の訴えを提起する
などの方法によって、親権者を離婚届けに記載した方から変更することが可能とされた裁判例があります。
私としては、親権者指定協議が無効とされただけでは、どちらが親権者か決まらないので、親権者指定の申立をするのが現実的だと考えますが、明確な手続が定められていない以上、担当裁判官とも協議のうえで裁判所に受け付けてもらえる方法を選択することになります。
4 離婚無効が主張できない場合
いくら離婚届けを勝手に出された場合でも、離婚届けが出されていることを知っていながら長期間放置していた場合や、離婚を前提とする行動を取っていた場合には離婚無効が認められなくなってしまいます(無効な離婚の追認)。
具体的にどのような行動で離婚無効が認められなくなるかですが、裁判例では、離婚届けから28年経過していたもの、離婚慰謝料を請求して支払を受けたにも関わらず離婚無効の主張をしたものなどがあります。
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監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。