再婚禁止期間に関する最高裁判所平成27年12月16日判決
各報道機関で大きく報道されているように、最高裁判所大法廷は、民法733条1項の再婚禁止期間を6か月とする規定について、100日を超える部分について違憲としました。
判決全文について、裁判所のサイトに載っていますが、長いのでポイントを説明します。
「」内は、判決引用部分、その他は私の文章です。
1 事案の概要
本件は、「女性について6か月の再婚禁止期間を定める民法733条1項の規定は憲法14条1項及び24条2項に違反する」と主張して、国会がこの規定をあらためなかったことについて、「立法不作為の違法を理由に」、国に対し、「国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を求める」事案です。
ここで、憲法14条1項は平等について定めたもので、24条2項は婚姻に関する法律は両性の平等に立脚して制定されなければならないと定めたものです。
2 違憲審査基準
⑴ 違憲審査基準
判決は、民法733条1項が憲法に違反するかどうかの判断基準として、
「立法目的に合理的根拠があり、かつ、その区別の具体的内容が上記の立法目的との関連において合理性を有するものものであるかという観点から憲法適合性の審査を行うのが相当である。」
としています。
⑵ 違憲審査基準を⑴のようにした理由
まず、判決は、憲法14条1項について、
「憲法14条1項は、法の下の平等を定めており、この規定が、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであると介すべきことは、当裁判所の判例とするところである。」
とし、民法733条1項について、
「本規定は、女性についてのみ前婚の解消又は取消しの日から6箇月の再婚禁止期間を定めており、これによって、再婚をする際の要件に関し男性と女性とを区別しているから、このような区別をすることが事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものと認められない場合には、本規定は憲法14条1項に違反することになると解するのが相当である。」
として憲法14条1項の問題となることを示しています。
次に、婚姻制度について、
「婚姻及び家族に関する事項は、国の伝統や国民感情を含めた社会状況における種々の要因を踏まえつつ、それぞれの時代における夫婦や親子関係についての全体の規律を見据えた総合的な判断を行うことによって定められるべきである。」
とし、憲法24条2項は、国会が合理的な範囲で法律を作ることができるが、その際に、「個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請、指針を示すことによって、その裁量の限界を隠したものといえる。」としました。
また、憲法24条1項は、「婚姻をするかどうか、いつ誰とするかについては、当事者の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにしたものと解される。」
婚姻は、配偶者の相続権や子供の嫡出に関する規定など重要な法律に関係すること、国民の意識の多様化、他方で法律婚を尊重する意識が浸透していることから、
「婚姻をするについての自由は、憲法24条1項の規定の趣旨に照らし十分尊重に値するものと解することができる。」としました。
このような婚姻制度の性質から、違憲審査基準を⑴のようにするとしています。
3 基準への当てはめ
⑴ 立法目的に合理的根拠があるか
判決は、女性のみ6か月の再婚禁止期間を設けた目的に合理的根拠があるかについて、
①民法は、昭和22年改正において、憲法24条2項の趣旨に従い、家制度を廃止し、夫婦の平等を図るものとされたが、再婚禁止期間については改正されなかった。
②民法733条2項や773条、772条の規定は、民法733条1項が、「父性の重複を避けるために規定されたものであることを前提にしたものと解される。」
ことを挙げ、
「以上のような立法の経緯及び嫡出親子関係等に関する民法の規定中における本規定の位置づけからすると、本件規定の立法目的は、女性の再婚後に生まれた子につき父性の推定の重複を回避し、持って父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあるとするのが相当であり、親子関係が早期に明確となることの重要性に鑑みると、このような立法目的には合理性を認めることができる。」
としました。
なお、DNA鑑定などで父子関係は分かるではないかという意見があることにもふれ、
「そのように父子関係の確定を科学的な判定に委ねることとする場合には、父性の推定が重複する期間内に生まれた子は、一定の裁判手続等を経るまで法律上の父が未定の子として取り扱わざるを得」ないから、子供の不利益が大きいから、父性推定の重複を回避する制度を維持することは合理性があると反論しています。
⑵ 具体的内容が上記の立法目的との関連において合理性を有するものものであるか
次に、父性推定の重複回避との関係で、6か月の再婚禁止期間に合理性があるかについて、
「民法772条2項は、「婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。」と規定して、出産時期から逆算して懐胎時期を推定し、その結果婚姻中に懐胎したものと推定される子について、同条1項が「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。」と規定している。そうすると、女性の再婚後に生まれる子については、計算上100日の再婚禁止期間を設けることによって父性の推定の重複が回避されることになる。」
そうすると、
「父性の推定の重複を避けるため上記の100日について女性の再婚を制約することは、婚姻及び家族に関する事項について国会に認められる合理的な立法裁量の範囲を超えるものではなく、上記立法目的との関連において合理性を有するものということができる」
としました。
そして、100日を超える部分については、民法制定時より科学技術が発達していること、晩婚化が進んだり、離婚、再婚件数が増えるなど、再婚をすることの制約をできる限り少なくするという要請が高まっていること、世界的には再婚禁止期間を設けない国が多くなっていることから、再婚をすることについての制約をできる限り少なくするという要請が高まっているとしたうえで、
「厳密に父性の推定が重複することを回避するための期間を超えて婚姻を禁止する期間を設けることを正当化することは困難である。他にこれを正当化し得る根拠を見いだすこともできないことからすれば、本規定のうち100日超過部分は合理性を欠いた過剰な制約を貸すものとなっているというべきである。」
としました。
4 結論
以上より、判決は、
「本件規定のうち100日の再婚禁止期間を設ける部分は、憲法14条1項にも、憲法24条2項にも違反するものではない。」
「本規定のうち100日超過部分・・・は、憲法14条1項に違反するとともに、憲法24条2項にも違反するに至っていたというべきである。」
としました。
5 立法不作為について
なお、本件は、国会が民法733条1項をあらためなかったことが違法だとしているので、国会が法律を変えないことが違法といえるかも判断されていますが、とくに目新しい部分はなく、訴訟テクニック的な話ですので省略します。
6 補足意見
本判決は裁判官全員一致の結論となっていますが、いくつかの補足意見が付いています。
うち6人の裁判官の共同補足意見に例外に言及している部分があるので紹介します。
「およそ父性の推定の重複を回避する必要がない場合には同条1項の規定の適用除外を認めることを許容しているものと解するのが相当であろう」
「具体的には、女性に子が生まれないことが生物学上確実であるなど父性の推定の重複が生じない場合、離婚した前配偶者と再婚するなど父性の推定が重複しても差し支えない場合及び一定の事由により父性の推定が及ばないと解される場合には、民法733条1項の規定の適用がないと言うべきである。
従来の戸籍実務においても、前婚の夫との再婚の場合、夫の3年以上の生死不明を理由とする離婚判決によって前婚を解消した場合、女性が懐胎することのできない年齢(67歳)である場合及び3年前から音信不通状態にあり悪意の遺棄を理由とする離婚判決によって前婚を解消した場合などにおいて、再婚禁止期間内の婚姻届枝を受理してよい旨の取扱いがなされて」いた。
「以上の理解に立つと、女性がいわゆる不妊手術を受けている場合についても、これをもって当該女性に子が生まれないことが生物学上確実であるときは、上記の各場合と同等に取り扱って差し支えないものと解されるであろう。また、前婚の解消等の時点で懐胎していない女性については、民法733条2項に規定する前婚の解消等の後にその前から懐胎していた子を出産した場合と客観的な状況は異ならないのであるから、100日以内部分の適用除外の事由があるとしても不相当とはいえないであろう。」
7 今後の影響
最高裁判所が、再婚禁止期間について、100日を超える部分は違憲と判断しているので、市区町村役場での取扱いについて政府から通達等で何らかの対策がされるはずです。
今すぐ婚姻届を出した場合は、とりあえず預かるということになるのでしょうか?分かり次第追記します。
【関連条文】
民法733条
1項 女は、前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない。
2項 女が前婚の解消又は取消しの前から懐胎していた場合には、その出産の日から、前項の規定を適用しない。
民法772条
1項 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2項 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
民法773条
第七百三十三条第一項の規定に違反して再婚をした女が出産した場合において、前条の規定によりその子の父を定めることができないときは、裁判所が、これを定める。
憲法14条1項
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
憲法24条
1項 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2項 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
国家賠償法1条1項
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
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監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。