別居と住居侵入罪
1 別居中に元の家に入るのは犯罪か?
元々夫婦で住んでた家に別居後に相手の承諾なく入った場合、住居侵入罪(刑法130条)が成立する可能性があります。
これは、その家が誰の名義になっているかや、賃貸の場合に借り主が誰の名義かと関係ありません。
もっとも、夫婦喧嘩で家を飛び出したけれども、すぐに戻ってきたというような場合は、住居侵入罪となることはありません。
2 なぜ住居侵入罪となるのか?
「元々夫婦で住んでいた家なのに、なぜ住居侵入罪が成立するの?」と思うかもしれませんが、これを理解するには、刑法において住居侵入罪をどのように考えられているかを知る必要があります。
刑法の住居侵入罪は、いったい何を守ろうとしているのかですが、大別して2つの説があります。
一つは、(新)住居権説、もう一つは、住居の平穏説です。
住居権説は、おおざっぱにいうと、そこに住んでいる人が誰を家に入れるか決める権利があるため、その権利を守るために、その人に意思に反する進入を罰しようという考え方です。
この考え方からは、別居をしてしばらく経てば、もう住人ではないので、住人である相手の意思に反する住居への立ち入りは違法となります。
では、どれくらい別居すれば住人ではないと判断されるかですが、これは具体的事情に応じて判断されることになりますが、別居から1か月以上経って、相手と連絡も取っていないような場合には、勝手に入らないようにした方が安全でしょう。
住居の平穏説は、文字通り、守られるべきは住居の平穏であって、住んでいる人以外が勝手に入ることは住居の平穏を害する行為にあたるため罰しようという考え方です。
この考え方からは、別居してしばらく経ったら、出て行った方がいないという住居の状態が形成されているため、相手の承諾なく勝手に家に入ると住居の平穏が害されたということになります。
こちらも上記の住居権説と同様に、どれくらい別居が続いたら違法になるのかは具体的な事情によるので、実質的には住居権説と違いはありません。
3 ストーカー規正法が適用される場合もあります
何度も拒否しているのに家をたずねてくるような場合にはストーカー規正法が適用される場合もあるので、同法の成立がないかも警察や弁護士に相談してみてください。
4 実際に警察は動いてくれるの?
理論的には別居からある程度時間が経っている場合には住居侵入罪が成立するのですが、実際に警察に相談しても、相手が包丁を持って押し入ってきたような事情でもない限り、「夫婦の問題でしょ」で終わりとなるケースが多いと思います。
ただ、警察に通報するだけでも相手への牽制になりますし、記録に残るため、離婚の際には相手の非常識な行動を裏付ける事情の一つとしては使えるでしょう。
なお、どうしても許せない場合は、告訴をしてください。
告訴と被害届、相談の違いですが、相談は文字通り単なる相談で、一般的には警察署内部で相談記録として記録が残されるだけです。被害届は、警察に犯罪被害を受けたことを届け出るもので、法律上は規定がなく、警察内部で捜査の端緒とするためのものです。告訴は、訴追を求める意思表示で、告訴をした場合には、警察は、告訴があったこと、それに基づいて捜査をした結果を検察に報告する義務があります。
上記のとおり、告訴をすると警察は捜査をせざるを得ないので、なかなか受け付けてくれません。
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監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。