相続の承認・放棄・限定承認-相続は原則3か月以内に決断が必要-
どなたかが亡くなると、当然に相続が開始します(民法882条)。
この段階で暫定的に法定相続人または遺言で指定された方が相続人となり、財産を相続します(民法896条)。
しかし、確定的なものではなく、自己のために相続があったのを知ったときから原則3か月(熟慮期間)以内に家庭裁判所で手続をすれば、相続をしない(相続放棄)、または、相続財産の範囲で負債の責任を負うことを前提に相続する(限定承認)ことができます(民法915条)。
なお、「自己のために相続があったのを知ったとき」とはいつかについては争いがあるので、別のコラムで説明します。
また、期間経過前でも相続人であることを認めることもできます(承認)。
では、各手続について詳しく説明します。
1 単純承認(民法920条)
単純承認とは、被相続人の一切の権利義務を受け継ぐことです。
ただし、被相続人の個性が重視される権利(一身専属的権利)は除きます(民法896条ただし書き)。
たとえば、身元保証人の地位や離婚請求権などが一身専属的な権利とされます。
単純承認は特別な届出等はなく、一定の行為をしたり、熟慮期間を経過した場合に単純承認をしたものとみなされます。
具体的には以下の行為のいずれかをすると、単純承認したものとみなされます(民法921条)。
①相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
②相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
③相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
なお、承認するか放棄するか、もう少し考えたいという場合には、家庭裁判所で「相続の承認または放棄の期間の伸長」という手続をすれば、熟慮期間を延ばすことができます。
伸長手続については、裁判所の「相続の承認または放棄の期間の伸長」に関するページで詳しく説明され、書式も載っています。
手続には、戸籍等が必要になるので、余裕を持って準備をしてください。
2 限定承認(民法922条)
⑴ 限定承認とは
限定承認とは、相続した財産を使って借金などの負債を返し、あまったら相続しますという制度です。
すごく合理的な制度ですが、手続が結構面倒です。
なお、相続財産に不動産があるときは、限定承認者に「みなし譲渡所得税」というものが課されます(所得税法59条1項1号)
⑵ 限定承認の手続
全ての相続人が、亡くなった人の最後の住所を管轄する家庭裁判所に、自己のために相続があったと知ってから3か月以内に、限定承認の申述書と相続関係を証明する書類を提出して行います。
必要な書類は、以下の通りです。
・申述書
・収入印紙800円
・裁判所との連絡用切手(裁判所によって金額が異なります)
・相続関係を証明するための書類
・亡くなった方の生まれたときから亡くなった時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
・亡くなった方の住民票除票又は戸籍附票
・限定承認をする人全員の戸籍謄本
・その他、相続人を特定する上で必要な戸籍など
・財産目録
書式などについては、裁判所の限定承認のページで確認できます。
⑶ 精算手続
限定承認手続に問題がなければ、亡くなった方の財産から負債を弁済し、あまった分を相続人で分ける精算手続が行われます。
精算手続は、相続財産管理人が行います。
相続財産管理人は、相続人のなかから家庭裁判所が選任するのが原則ですが、適切な処理ができそうにない場合には、裁判所に対して相続財産管理人の選任を請求できます。
多くの場合は、弁護士が相続財産管理人となっているようです。
3 相続放棄(民法938条)
⑴ 相続放棄とは
相続放棄とは、相続手続に一切関わらないという制度です。
相続放棄手続が適切に行われると、初めから相続人にならなかったものとして扱われます。
その人は、初めから相続人ではないのですから、その子が代襲相続をしたりすることはありません。
また、初めから相続人ではないので、税金などの公的な負債も支払う必要はありません。
⑵ 相続放棄の手続
相続放棄は、本来ならば相続人になる者が、亡くなった方の最後の住所を管轄する家庭裁判所に、自己のために相続の開始があったことを知ったときから原則3か月以内に、申述書と相続関係を証明する書類を提出して行います。
必要な書類は、以下の通りです。
・申述書
・収入印紙800円
・裁判所との連絡用切手(裁判所によって金額が異なります)
・相続関係を証明するための書類
・被相続人の住民票除票又は戸籍附票
・放棄する方の戸籍謄本
など
書式などについては、裁判所の相続放棄のページで確認できます。
なお、上記単純承認のところでも記載した通り、承認するか放棄するか、もう少し考えたいという場合には、家庭裁判所で「相続の承認または放棄の期間の伸長」という手続をすれば、3か月より期限を延ばすことができます。
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・相続問題コラム目次
監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。