不倫の慰謝料をもらった後も不倫が継続していた場合に再度慰謝料請求できるか?
夫(妻)が不倫をしたけれども、離婚を思いとどまり、不倫相手に慰謝料を請求するだけで終わらせた。
ところが、夫(妻)は、同じ相手と再度不倫をしたという場合、もう一度不倫相手に対して慰謝料を請求できるでしょうか?
時々あるご相談ですが、2段階で考える必要があります。
ひとつは、そもそも慰謝料を請求できるのかというステップと、もう一つは、いくら請求できるのかというステップです。
以下順に説明します。
1 そもそも2回目の浮気の慰謝料が請求できるか?
まず考えなければならないのは、そもそも2回目の浮気で慰謝料請求ができるかですが、そこで重要なのは1回目の浮気の後の夫婦関係です。
1回目の不倫で、不倫相手に慰謝料請求をして合意書を交わしたり、判決で慰謝料をもらった後、夫(妻)とやり直すつもりで同居を続け、普通に生活していた場合は、夫婦としての関係が続いているので、2回目の浮気も、その夫婦関係を裏切る行為として慰謝料請求できます。
しかし、1回目の不倫で、不倫された方の妻(夫)が、もうこんな夫(妻)とはやっていけない、でも相手の思い通りに離婚をするのは嫌だといったような理由で離婚せずに別居した場合、別居から数年たてば、夫婦関係は破綻(はたん)していると認定される可能性が高いです。
このように夫婦関係が破綻していると判断された場合には、その後の再度の浮気は、夫婦としての信頼を裏切る行為といえず、2回目の慰謝料請求はできなくなります。
では、別居して何年で夫婦関係が破綻したといえるのかですが、これは裁判官が具体的事情を総合考慮して判断するため、明確に何年とはいえません。
ただ、当職の経験からは、別居から3年経過していると破綻していると認定される可能性が高いと思います。
なお、夫婦関係が破綻しているかと、浮気した方からの離婚請求が認められるかは別問題です。
不倫をした方からの離婚請求は、原則として権利濫用または信義則違反として認められられないのであって、破綻していないから離婚が認められないわけではありません。
この点について詳しく知りたい方は、こちらの「浮気(不倫・不貞)した方からの離婚請求」のコラムをご覧ください。
2 同じ相手との再度の浮気の慰謝料額は?
示談あるいは判決で慰謝料をもらった後の再度の浮気の慰謝料額はどうなるでしょうか?
この場合、1回目の示談で再度の浮気の場合の違約金を決めていたかどうかが問題になります。
2-1 再度の浮気の場合の違約金合意がある場合
1回目の不倫の示談による合意書などで、再度の不貞行為があった場合、あるいは再度接触した場合の損害賠償について取り決めておくことがあります。
このような合意は、損害賠償の予定(民法422条)として原則として有効とされます。
その結果、合意書に書いてある損害賠償額の請求が認められるのが原則です。
もっとも、損害賠償の予定額があまりにも高額な場合には、公序良俗に反ずるものとして一部無効になることがあります。
この場合は、合意そのものが無効になるのではなく、裁判所が相当と認める金額までは有効、その金額を超える部分が無効となります。
では、いったいいくらまでは有効で、いくらを超えると無効になるのかですが、裁判例自体が少ない上に、その裁判例で認めている金額もまちまちなため、明確な金額は申し上げられませんが、再度の接触の違約金だと100万円、再度の不貞行為だと300万円くらいまでなら有効になる可能性は高いと考えます。
なお、再度の接触1回あたり●●円だとか、再度の不貞行為1回あたり●●円といった取り決めを有効としている裁判例もありますが、その場合は、さらに有効な金額がいくらなのかが難しくなります。
というのは、再度の不貞行為1回あたり100万円と取り決めたとします。
再度の不貞行為をすぐに見つけて、再度の不貞行為が1回あったと主張し100万円請求すれば、裁判所は認めるでしょうが、10回証拠が取れたら1000万円請求します、となった場合に裁判所が認めてくれるかというと、かなり怪しいと思います。
以上の次第で、違約金条項の有効性は、個別具体的に判断されるため、違約金条項自体を無効とされることはほとんどありませんが、金額の有効性についてはかなり微妙といえます。
以下、裁判例をご紹介します。
【再度の不貞慰謝料5000万円の合意を1000万円の範囲で有効とした事例】
〈東京地方裁判所平成21年1月28日判決〉
夫が妻の不貞相手に対し、慰謝料等を請求し、①慰謝料500万円を2か月後までに支払い、②接触禁止、③①②に違反した場合の違約金1000万円、で和解。
不貞相手が500万円を支払わなかったので、夫が慰謝料と違約金を請求。
不貞相手は、錯誤(勘違い)、脅迫、公序良俗違反で和解の無効を主張。
裁判所は、500万円の和解金の合意は有効と判断したが、違約金1000万円については、高額すぎるから公序良俗に反するとして無効としました。
【東京地方裁判所平成25年12月4日判決】
夫が妻の不貞相手に対しして慰謝料等を請求し、示談で、①慰謝料の支払い(示談時点で未確定)、②接触禁止と違反した場合1000万円の支払いを取り決めて合意書を作成しました。
その後、妻と不貞相手の関係が続いていたことから、夫が1回目の慰謝料とその後の違約金等を請求内容として訴訟提起しました。
不貞相手は、示談書は脅迫されて作られたものだという主張をしたが、裁判所はこれを否定し、示談書は有効と判断し、示談書で別途金額を決めるとしていた1回目の不貞慰謝料を150万円としました。
また、違約金条項も、妻と不貞相手の関係継続を防止する目的であり有効と判断しました。
しかし、違約金が1000万円というのは高すぎるから、150万円までは有効、これを超える部分は無効とし、150万円の違約金請求を認めました。
また、再度の不貞行為が認められ、その慰謝料としては200万円が妥当だが、上記違約金で150万円は補填されているので、差額50万円を支払えという判決を下しました。
2-2 違約金合意がない場合又は違約金合意が無効とされた場合の慰謝料の相場
判決で慰謝料が決められた場合や、合意書作成にあたり相手がどうしても違約金を書くことを嫌がった場合、あるいは、上記2-1のケースで違約金条項が無効とされて裁判になった場合、再度の不倫の慰謝料はいくらくらいでしょうか?
この点についての裁判例は少ないのですが、再度の不貞行為については悪質として、不貞行為慰謝料としては若干高めの慰謝料としているようです。
ただ、個別性が高く、相場といえるほどのものが形成されていません。
たとえば、以下の事案では250万円の慰謝料を認めています。
【東京地裁平成22年12月22日判決】
裁判上の和解で不倫相手が、不貞行為を謝罪するとともに、和解金300万円を支払うことで和解したが、その後すぐに不貞行為が再開した事案で、同じ相手への2度目の慰謝料請求で、慰謝料250万円の支払いを命じました。
《関連コラム》
・離婚慰謝料・不貞(浮気)慰謝料の相場
・離婚後に婚姻中の浮気が発覚した場合に慰謝料を請求できるか?
・コラム目次ー男女問題を争点ごとに詳しく解説-
監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。