婚約者の浮気相手に対する慰謝料請求が認められるか?
結婚していれば、不貞慰謝料や離婚慰謝料が認められますし、婚約段階でも、婚約者が浮気をした場合は、婚約者に対して慰謝料を請求できることに争いはありません。
では、浮気をした婚約者の浮気相手に対して慰謝料を請求できるでしょうか?
この点について判断した裁判例として、大阪高等裁判所昭和53年10月5日判決があるのでご紹介します。
なお、当事者の呼称については、慰謝料を請求している方を「請求者」、その婚約者を「婚約者」、婚約者の浮気相手を「浮気相手」とします。
1 事案の概要
・浮気相手は、東京都内に本社を有する会社の事業部長あり、婚約者は、その会社の事務員であった。
・浮気相手は、婚約者と昭和43年8月ころから性的関係にあった。
・浮気相手は、昭和48年10月ころに、婚約者が請求者と結婚を前提とする交際をしていることを知った。
・婚約者は、昭和49年2月に浮気相手に対し、請求者と結婚することに決めたので関係を清算したいと求めたが拒否し、「死んでやる。」とか「誰かに頼んでも二人の結婚をつぶせる。」などと言って請求者と婚約者の結婚に反対した。
・請求者は、婚約者と昭和49年4月7日に婚約した。
・浮気相手は、昭和49年4月8日に請求者と婚約者の婚約を知ったが、婚約者と性的関係を持った。
・請求者は、同年5月5日、浮気相手から婚約者に対する業務連絡の電話を受けたのをきっかけに、婚約者と浮気相手の不貞を疑ったが、婚約者も浮気相手も関係を否定した。
・同年5月15日、請求者は、浮気相手に誤解したことを謝罪するために浮気相手に会いに行ったところ、浮気相手から、「あらぬ疑いをかけたから告訴する。」と言って請求者を脅迫した。
・請求者は、婚約者と浮気相手の言葉を信じて、同年7月5日に婚約者と結婚した。しかし、婚約者らの態度に釈然としないものを感じ、再度婚約者を問い質したところ、婚約者は、昭和50年3月ころになって、浮気相手との関係を告白した。
請求者と婚約者は不仲となり、請求者は離婚も考えたが、子供を含めた家庭の事情などから、離婚についいて決断できず、現在(本件訴訟時)に至った。
上記経緯で、請求者は、浮気相手に対し損害賠償(慰謝料)を請求した。
2 大阪高等裁判所の判断(当事者の表記及び太線は当職が加工)
「思うに、婚約当事者は互いに一定期間の交際をした後婚姻をして法律、風俗、習慣に従い終生夫婦とし共同生活することを期待すべき地位に立つ。婚約は将来婚姻をしようとする当事者の合意であり、婚約当事者は互いに誠意をもつて交際し、婚姻を成立させるよう努力すべき義務があり(この意味では貞操を守る義務をも負つている。)、正当の理由のない限りこれを破棄することはできない。婚姻はその届出と届出時における真意に基づく婚姻意思の合致によつて、成立するから、婚約当事者の一方が婚姻意思を失ない、婚約を破棄したときは、他方は婚約の履行として届出を強制することはできず、正当の理由がなく婚約を破棄した者に損害賠償を請求しうるにすぎない。しかし、その故をもつて婚約は何らの法的拘束力を有しないということはできない。そして、婚約当事者が合意に従い、合意の通常の発展として婚姻した場合に終生夫婦として共同生活を続けるべき義務のあることは疑問のないところであるから、婚約当事者の前記地位は法の保護に値いするというべきであり、これを違法に侵害した者は損害賠償義務を負うといわなければならない。
ところで、婚約当事者の一方及びこれと意を通じまたはこれに加担した第三者の違法な行為によつて婚約当事者の他方が婚約の解消を余儀なくされ、あるいは婚姻をするには至つたものの、これを解消するのやむなきに至つた場合はもとより、解消に至らず婚姻を継続している場合でも、少なくとも婚約の破棄あるいは離婚するについて正当な事由があつて、婚約あるいは婚姻関係が円満を欠き、その存続が危ぶまれる状態(婚姻破綻のおそれ)に至つた場合にも婚約当事者の有する前記法的地位の侵害があると解するのが相当である。つまり、婚約当事者は、婚約の通常の発展としての、将来の婚姻成立後の夫婦の地位(いわば将来の権利)についても、法の保護を受けることができるものというべく、婚約期間中、その当事者の一方または双方に対し、将来の婚姻の破綻を生じさせるような原因を与える第三者の行為は、法の容認しない違法なものといわねばならない。」
・・・
「浮気相手は、婚約者と共同して請求者が婚約に基づいて得た婚約者と誠実に交際をした後婚姻し、終生夫婦として共同生活をすることを期待すべき地位を違法に侵害したものであるから、請求者に対し不法行為による損害賠償義務を免れないというべきである。」
とし、婚約者と性的関係を持ったこと、さらに、請求者にたいし「あらぬ疑いをかけたから告訴する。」と脅迫したことの慰謝料として50万円の支払を命じました。
3 コメント
上記のとおり、まだ結婚していない段階でも婚約していれば法的保護に値するので、浮気相手に対して慰謝料請求できるとした裁判例です。
婚約段階で浮気をしていた、あるいは、浮気の疑いがあるというケースで、そのまま結婚してしまうことは、それほど多くはないでしょうから、類似裁判例が見当たりません。
そのため、かなり古い裁判例ですが、参考になると思われるのでご紹介いたします。
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監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。