面会交流を認めなかった事例(父母の紛争性が高いことを理由とする)
父母の紛争性が高いことを理由に、父親から母親を相手方とする12歳の子の面会交流請求を認めなかった事例をご紹介します。
なお、以下の文章に出てくる相手方が父親、抗告人が母親です。
また、「」内は裁判例の言い回しをそのまま引用したものです。
1 札幌高等裁判所平成30年2月13日決定
・「相手方は、抗告人が生活費などのために預金口座から預金を動かしたことについて警察に通報し、平成29年2月××日、抗告人に警察からの事情聴取を受けさせた」
・相手方が、市と銀行を被告として、児童手当は控訴人ではなく相手方に権利があるから支払えという訴訟を提起し、「同訴訟で抗告人らが三者で共謀して相手方が申請していない児童手当89万6000円を搾取した旨を主張した。同訴訟は相手方が抗告人の虚言癖を証明するために提起したものであった。」
・「相手方は、抗告人に対し、平成28年8月から平成29年11月までの婚姻費用を支払っていない。」
との事実を認定したうえで、以下のように判断しました。
「原審で試行的面会交流が実施できなかったことにより、本件の面会交流の実現可能性を見極め、面会交流の具体的内容や条件の検討をすることが困難となっており、当事者間の紛争の実情に鑑みると面会交流を実施できるだけの信頼関係と協力関係が形成されているとも言い難く、当事者間で面会交流の実施に向けた具体的協議をすることも困難といえる。そうすると、現時点で相手方と未成年者らとの面会交流を実施するにあたっての諸条件が整っているとは認められない。
なお、抗告人が試行的面会交流の実施を拒否したことは、試行的面会交流の意義、目的を考えると遺憾と言わざるをえない。しかしながら、その拒否の事実を面会交流実施の可否を判断するにあたって、面会交流を実施する方向での一事情とすることは未成年者らの福祉の観点からは相当とは言い難い。」
2 コメント
面会交流が子供にとって重要な権利であることは間違いないのですが、ここ10年ほどの裁判所は、DVなどが証明された場合以外は、面会交流せよとの判断がほとんどでした。
ところが、今回ご紹介する決定は、父母の紛争性が高いことを理由に面会交流を認めないとしており、最近の裁判例では珍しいものとなっています。
もしかすると、近年無理やり面会交流させていた弊害を、裁判所が認めるようになったのかもしれません。
ただ、本件の場合は、父親が母親に対して、嫌がらせとしかいえないような行為を次々と行っているケースなので、裁判所も面会交流は無理だと判断しましたが、たとえば婚姻費用の不払いがあるという一点だけで面会交流を認めないということにはならないでしょう。
また、本件では、母親が裁判所が命じた試行的面会交流を拒否したのも特長的です。
この点について、裁判所は、試行的面会交流を拒否したからといって、面会交流実施方向の事情とは考えないと言っています。
おそらく、父親側からの主張に対する判断なのでしょうが、これを一般化して、試行的面会交流なんて無視すればよいと思うのは危険だと思います。
裁判官も人間ですから、試行的面会交流をするように指示したにも関わらず拒否されたら、やはりマイナス方向に考えてしまうでしょう。
【関連コラム】
・面会交流が父母の不仲を理由に制限された裁判例
・子供が面会を拒否しているのは身近な大人影響とした裁判例
・面会交流について諸般の事情を総合考慮して判断するとした判決
・コラム目次ー男女問題を争点ごとに詳しく解説-
監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。