親の生活費を援助した次男が、長男と三男に費用負担を求めた事例
両親に対して経済的に援助していた次男が、長男と三男に対して、すでに亡くなった父親への援助金の一部を支払え、母親の今後の生活費の一部を支払え、と主張したのに対し、広島高等裁判所が平成29年3月31日に決定をしたのでご紹介します。
まず、前提として民法で定められている親族の扶養義務について説明します。
民法877条は、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定めています。
直系血族とは、血のつながりがある親や祖父母、子や孫などです。
ですから、両親が経済的に困っていたら子供は助ける義務があるということになります。
では、だれがどの程度援助するのかですが、民法879条は、「扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所が、これを定める」と具体な計算方法は定めていません。
この点について、具体的に示したのが、ご紹介する広島高等裁判所の決定です。
長いので、要点だけまとめると、以下のようになります。
・余力がある場合には、親の生活が生活保護レベルの生活になるように援助しなさい
・余力は、人事院が算定した標準生計費以上の収入があるかどうかで決めます
・標準生計費以上の収入があるかどうかの判断にあたって、妻の収入を単純に足すことはしませんが、ある程度考慮します。
なお、平成30年版の人事院による標準生計費はこちらをご覧ください。
もう少し詳しく知りたい方は、広島高裁の言い回しをご紹介いたしますので、読んでみてください。
「子の老親に対する扶養義務(民法877条1項)は、いわゆる生活扶助義務、すなわち、自らの社会的地位等に相応する生活をした上で余力がある限度において負担する義務と解されることを考慮すると、扶養料の額は、原則として、実際に要した生活費ではなく、参加人及びEの生活を維持するために必要である最低生活費(生活保護基準額等を参考にするのが相当である。)から同人らの収入を差し引いた額を超えず、かつ、扶養義務者らの余力の範囲内の金額とすることが相当である」とし、足りない金額を、扶養義務者の収入に応じて案分した金額を算出しました。
そのうえで、「抗告人及び当審相手方らの経済的余力について、具体的に検討する。」とし、「扶養料の支払い義務者らについて、扶養料の負担の余力の有無を検討する前提となる生活費については、統計による標準的な生計費を参考とすべきであるところ、人事院が算定した標準生計費(平成26年人事院勧告の参考資料)は、世帯人員3名の場合は月19万9600円(年239万5200円)、4名の場合は月21万9630円(年263万5560円)、5人の場合は月23万9660円(年287万5920円)である。
抗告人については、上記標準生計費(世帯人員3名)及び抗告人の収入を基準とした場合、負担の余力がない(16万6000円-19万9600円=▲3万3600円)ようにもみえる。
しかしながら、抗告人の妻は、看護師として稼働しているところ、夫婦は収入等を考慮して婚姻費用を分担すべきとされていること(民法760条)からすると、抗告人世帯の生活費については、抗告人の妻が抗告人と分担しているものとして、抗告人の余力の有無、程度を判断するのが相当である。」としました。
なお、妻の収入を考慮していいのかという点にも言及し、「抗告人の分担額を検討するに当たり、扶養義務者でない妻の収入を合算して余力の有無を検討することは相当ではないが、他方で、抗告人夫婦で分担すべき生活費に関して、抗告人が分担すべき額を検討するに際して妻の収入を斟酌することは当然に許される。」としています。
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監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。