財産分与請求について一部のみ判決することは許されるか?
離婚訴訟をする場合、附帯して(セットで)財産分与を請求することが多くありますが、その場合に、裁判所が、一部の財産関係は判断できないとして対象外とし、その他の財産についてのみ財産分与判決をすることは許されるでしょうか?
この点について、東京高等裁判所が、一部の財産についてのみ財産分与せよという判決を書いたのに対し、最高裁が一部のみの財産分与判決は許されないという判断をしたのでご紹介します。
1 事案の概要
かなり複雑な事実関係なので、一部のみの財産分与判決が許されるかという点に関する部分のみ要約します。
夫は、眼科医で、婚姻後に個人で眼科を経営しはじめ、その後に節税目的で法人化し(「A法人」とする)、自身が理事長となるとともに妻を理事とし、会計業務を行っていました。
その後不仲となり、別居し、妻が夫を被告として、東京家裁に離婚、離婚慰謝料、財産分与を求める訴訟を提起、夫は離婚と慰謝料の支払いを求める反訴を提起しました。
離婚訴訟の中で、夫は、妻が法人業務に携わっていた時に、法人資産を横領したことを財産分与で考慮すべきと主張しました。
東京家裁令和2年6月1日判決は、財産分与に関する判決部分で、「被告は、原告がAの資産を一定程度取得したとも主張するが、仮にそうであったとしても、別件訴訟等を通じた填補賠償が別途なされる頃であろうから、そのことを本件訴訟の財産分与のうえで考慮するのは相当でない」とし、離婚を認めるとともに、妻の夫に対する慰謝料請求を認め、財産分与も財産全体について判断を下しました。
これに対し、夫が控訴し、妻も付帯控訴(控訴と同じ手続きで後から控訴)しました。
判決の中で明確に書いてはいませんが、上記東京家裁判決後、高裁判決までの間に、夫がA法人の理事長として、妻がA法人の資産を横領したとして損害賠償請求を訴訟を提起したと思われます。
東京高裁令和3年3月16日判決は、以下の通り判示しました。
「一審原告は、Aの設立当初から理事となり、Aは、一審原告に対し、一審原告が同会の会計業務に携わっていた間に、資産を不正に持ち出したとして不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起しており、現在も係争中であると認められる。またAは、その定款上、社員たる義務を履行せず定款に違反し又は品位を傷つける行為のあった者は、社員総会の決議を経て除名することができ、当該社員は除名の結果社員たる地位を失い、当該社員はその払込済出資額に応じて払戻しを請求することが出来る旨規定しており、そうした場合には、払戻しにかかる持分の価格を決定する必要が生ずることになる。
そうすると、本件では、現時点で一審原告のAに対する貢献度を直ちに推し量り、財産分与の割合を定め、その額を定めることを相当としない特段の事情があるというべきである。
したがって、医療法人の出資持分は、離婚に伴う財産分与の対象とすることは相当と認められない。」
として、その他の財産についてのみ、財産分与の金額を決めました。
なお、離婚と慰謝料の部分は、東京家裁の判決を維持しています。
2 最高裁判決の概要
上記東京高裁判決に対し、最高裁令和4年12月26日判決は、次のとおり判示しました。
「民法は、協議上の離婚に伴う財産分与につき、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わ
る処分を請求することができると規定し(768条2項本文)、この場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮
して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定めると規定している(同条3項)。そして、これらの規定は、裁判上の離婚について準用されるところ
(同法771条)、人事訴訟法32条1項は、裁判所は、申立てにより、離婚の訴えに係る請求を認容する判決において、財産の分与に関する処分についての裁判を
しなければならないと規定している。このような民法768条3項及び人事訴訟法32条1項の文言からすれば、これらの規定は、離婚請求に附帯して財産分与の申
立てがされた場合には、当事者が婚姻中にその双方の協力によって得たものとして分与を求める財産の全部につき財産分与についての裁判がされることを予定してい
るものというべきであり、民法、人事訴訟法その他の法令中には、上記財産の一部につき財産分与についての裁判をしないことを許容する規定は存在しない。
また、離婚に伴う財産分与の制度は、当事者双方が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配すること等を目的とするものであり、財産分与については、で
きる限り速やかな解決が求められるものである(民法768条2項ただし書参照)。そして、人事訴訟法32条1項は、家庭裁判所が審判を行うべき事項とされ
ている財産分与につき、手続の経済と当事者の便宜とを考慮して、離婚請求に附帯して申し立てることを認め、両者を同一の訴訟手続内で審理判断し、同時に解決す
ることができるようにしている。そうすると、当事者が婚姻中にその双方の協力によって得たものとして分与を求める財産の一部につき、裁判所が財産分与について
の裁判をしないことは、財産分与の制度や同項の趣旨にも沿わないものというべきである。
以上のことからすれば、離婚請求に附帯して財産分与の申立てがされた場合において、裁判所が離婚請求を認容する判決をするに当たり、当事者が婚姻中にその双
方の協力によって得たものとして分与を求める財産の一部につき、財産分与についての裁判をしないことは許されないものと解するのが相当である。」
3 コメント
東京高裁は、財産分与判決後に新たな共有財産が見つかった場合に再度の財産分与請求ができるかという点について、「財産分与請求権は、当事者双方がその協力によって得た一切の財産の清算を含む1個の抽象的請求権として発生するもので、清算的財産分与の対象となる個々の財産について認められる権利ではない」としています。
この理屈からすれば、財産分与請求の一部を分離して判断せず、残りの部分のみ判断するということは認められるはずがありません。
東京高裁内の担当部が異なるからかもしれませんが、東京高裁が、わざわざ東京家裁の判決を変更してまで、このような整合性のとれない判決を書いたのが不思議です。
なお、この判例によっても、事者間の合意で、財産の一部についてのみ財産分与をすることまで否定されるものではありません。
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監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。