最近、家裁の裁判官がよく持っている本
ここ1、2年くらい、家庭裁判所の審判や裁判に出席すると、裁判官がよく持っている本があります。
・松本哲泓(まつもとてつおう)著「離婚に伴う財産分与-裁判官の視点にみる分与の実務-」
・同「〔改訂版〕婚姻費用・養育費の算定-裁判官の視点にみる算定の実務-」
・同「即解330問 婚姻費用・養育費の算定実務 」
です。
ちなみに、近々、面会交流の本が出るらしいです。
著者は、弁護士なのですが、元大阪高裁部総括判事です。
部というのは、会社の人事部とか営業部と同じようなものです(ちょっと違うけど)。
そこを総括する立場にあるもの、つまり、部長です。
そして、大阪高等裁判所自体が、全国の裁判所の序列だとナンバー3なので(最高裁と東京高裁の次)、そこの部総括というのは、大手企業の本社の部長クラスでしょうか。
ちなみに、大阪高裁の部総括は、地方裁判所の所長を経験した後に任命されるものなので、地方裁判所所長より上の立場です。
地方裁判所の所長でさえ出世コースといわれるので、大阪高裁部総括となると、超出世コースです。
ちなみに、その上に高等裁判所長官というものがありますが、高等裁判所が全国に8つしかないので、8人しかなれません。
つまり、裁判所のとっても偉い人が書いた本なので、裁判官もよく参照しているということです。
では、著者の肩書抜きで、本のでき自体はどうなのかですが、正直なところ、網羅性があって悪くはないけれど、ところどころ?となる部分があります。
現場で判断してきた裁判官の書いた本というのは、判決の予測をする際に重宝するのですが、家事事件に関しては、現役の裁判官や、ある程度高い地位にあった元裁判官が網羅的に書いた本は、私の知る限り他にありません。
しかも、かなりマイナーな論点について記載されているので、ありがたい面はあります。
しかし、マイナー論点は、ほとんど議論されていなかったり、裁判例がないからマイナー論点なのですが、この本は、レアな裁判例を引っ張ってきて、一般的かのように書いていることがあります。
論点によっては、論理が飛んでいて、いきなり結論になったり、実務ではこうだで終わっていたりします。
正直なところ、この本を信じ切って主張するのは危険なので、メジャーな論点については、現役の裁判官が論文を発表しているので、そちらを参照し、この本はマイナー論点を検索するきっかけと考えた方がよいのではないかと思います。
ところが、厄介なことに、最近、現役の裁判官、とくに地方の家事事件専属ではない裁判官が、「松本本の●ページに●●と書いている」と、金科玉条のごとく掲げることがあります。
裁判官なら、偉い人の本にこう書いてあるではなく、法律を根拠に、なぜそうなるのかを説明してほしいと思うのですが、判断するのはその裁判官ですから、たとえ納得いかなくても従わざるを得ません。
そのような場合には、いかに自身の主張が松本本に沿った主張であるか、あるいは松本本の事例とは違うんだということを書くか、松本本とは異なる結論のもっと権威のある判例、裁判官論文を提出することになります。
という訳で、東京家裁の多くの裁判官がこの本を法廷に持ち込んでいるので、(悔しいけど)家事事件を扱う弁護士なら持っておきたい本です。
なお、一般の方にはお勧めしません。
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監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。