同性婚で不貞(不倫・浮気)慰謝料を認めた裁判例
同性婚のパートナーが不貞(不倫・浮気)をして、同性婚を解消する結果となった場合、パートナーや不貞相手に慰謝料を請求できるでしょうか?
この点について、東京高等裁判所が、令和2年3月4日に判決を下しているのでご紹介します。
なお、当事者については、裁判上の呼称はややこしいので、慰謝料請求した方を「請求者」、その元パートナーを「パートナー」、パートナーの不倫相手を「不倫相手」とします。
1 事案の概要
請求者:女性
パートナー:女性
不倫相手:男性(性同一性障害があり、後に性転換して女性となる)
・2009年3月:交際開始
・2010年2月:同居開始
・2014年12月:アメリカの同性婚が認めらている州で婚姻登録証明書を取得して結婚式を行う
・2015年5月:日本で結婚式、披露宴も行い、周囲にも同性婚を明かしていた
・2015年7月ころから、第三者から精子提供を受けて2人で育てる計画し、2016年12月までには、2人で子を育てる場としてマンション購入を進める
・2016年12月28日~2017年1月3日:パートナーが、不倫相手の家に宿泊
・2017年1月:別居
2 裁判所の判断
裁判所は、上記経緯からすると、請求者とパートナーとは、「単なる同居ではなく、同性同士であるために法律上の婚姻の届出はできないものの、できる限り社会観念上夫婦と同様であると認められる関係を形成しようとしていたものであり、平成28年12月当時、男女が相協力して夫婦としての生活を営む結合としての婚姻に準ずる関係にあったということが出来る。」とし、同性婚も法的に保護されることを認めました。
そして、パートナーと不倫相手との間で「複数回にわたりペッティング(挿入を伴わない性行為)に及んだこと」が推認でき、その後、パートナーが請求者に不倫相手のことが好きだと伝えたことから婚姻解消手続きをするに至ったのであるから、損害賠償が認められるとしました。
損害額については、上記経過を総合考慮して、慰謝料100万円、慰謝料請求のための弁護士費用10万円の合計110万円を認めました。
3 コメント
本件は東京高裁の判決ですが、原審の宇都宮地方裁判所真岡支部も同性婚は法的保護に値するとしており、同性婚でも不倫をすれば慰謝料が認められるということに争いはないと思われます。
ただ、原審は、内縁関係は男女間に限られるが、同性婚は内縁に準じるとしながら、男女関係と比較すると法的保護の利益が低いとしているのに対し、東京高裁は、同性婚も婚姻に準じる関係とストレートに認めています。
もっとも、どちらも損害賠償額は110万円で変わりません。
この損害賠償額110万円というのは、法律婚が不貞行為で解消することになった場合の平均的金額が200万円程度であることと比べると低いですが、これは同性婚であるからというより、内縁関係の解消が一般に法律婚の解消より低い傾向にあるためだと思われます。
もっとも、同性婚を選択した方からすれば、法律婚をしたくても出来ないんだから、法律婚でないことを理由に差をつけるのはおかしいということになるでしょうが、これ以上は裁判所が法解釈でどうこうする問題ではなく、国会で立法論としてどうするかという問題でしょう。
ところで、パートナーは、本件で、同性婚は法的保護に値しない(正確には現段階では法的保護に値せず立法解決を待つべき)と主張していますが、わざわざアメリカで同性婚をするほどの方が、同性婚は法的保護に値しないと主張するのは、なんだか悲しい気がします(弁護戦略的なものももあるのでしょうが)。
また、この判決では、パートナーが不倫相手は性同一障害で勃起しないので挿入行為はなく、不貞行為に当たらないと主張したため、裁判所は、ペッティングがあったと認定し、性的関係があったとしていますが、もし、パートナーが性的な関係を完全否定していたら、女性同士の同性婚で、パートナーが男性と宿泊をしたという事実だけで、はたして性的関係が認められたかは疑問です。
性的関係の立証について、異性間の結婚・内縁とは別の難しさがありそうです。
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監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。