子供が面会を拒否しているのは身近な大人影響とした裁判例
子供が別居している母親と面会を拒否しているのは、父親やその親族などの影響によるもので、それを解消するためには早期に母親と面会の機会を設けることが必要であると裁判所が決定したのでご紹介します。
ただし、かなり特殊な事例ですので、参考程度にご参照ください。
1 事案の概要
・2008年 結婚、出産
・2016年 母のガン判明
・2017年1月 母入院
父が、働きながら家事育児をする
・2017年4月 父が、躁うつ病になり休職
母が退院
・2017年8月 父が子を連れて家を出る
別居後も母と子の間でLINEのやりとり、父が母に子の学芸会のDVDを送る、母が子の誕生日にプレゼントを送る、という交流はあった
・2017年12月 母が面会交流調停申立
・2018年1月 父が母に、子とのLINEをやめるよう求め、以降LINEによるやり取りはなくなる
・2018年8月 調査官調査①
・2019年1月 母、余命1~3か月と告げられる
母、子の住居近くに引っ越す
・2019年2月 父が調停にて面会交流拒否、母、面会交流調停取下げ
母は、子の小学校を何度も訪れたが、父に警戒され面会できず、面会交流の申し入れも拒否され続ける
・2019年4月 母が再度の面会交流調停、同保全の申立て
・2019年7月 調査官調査②
・2019年8月 保全審判(面会を認める)→父親が即時抗告(東京高裁への不服申し立て)
2 裁判所の判断(仙台高等裁判所令和元年10月4日決定)
「このような未成年者の過剰ともいえる拒絶的な反応をみれば、未成年者は、現在身の回りの世話を頼っている環境において、相手方の情愛を肯定的に受け止められる助言を得ておらず、むしろ、霊的なものによる攻撃等という容易に払拭することが出来ない説明が未成年者に強い影響を及ぼしていることが認められる。」
「未成年者は出生から小学3年まで相手方と同居しており、家庭裁判所調査官の調査結果によれば、同居当時は相手方のことを好きと認識していたことがうかがわれる。将来、未成年者が母の身上に思いを致す時が来るかもしれないことを考慮するとき、自ら面会交流を拒否したというようなことになれば、それは、未成年者に取り返しのつかない悔いを残してしまうことにもなりかねない。」
「相手方にとって、面会交流の場で直ちに自らの思いが未成年者に伝わることは期待できず、むしろ、未成年者の心情を受け止める機会にとどまることも覚悟すべきではあるが、相手方の病状に鑑みれば、未成年者の福祉のため、早期に相手方と未成年者との面会交流を実施すべきであると認められる。」
などとして、母親との月1回の面会交流を認めました。
3 コメント
本件は、別居親である母親が末期がんであること、調査官調査が2度行われているという特殊性があります。
さらに、調査官調査において、子供が、「抹殺される」とか、母親と直接会うと「霊的なものがくっつく」などと言っており、父方親族による異常な刷り込みが認められる事案です。
ここまであからさまな刷り込みがある事案は少ないので、一般的には参考にならないと思いますが、中には同様の問題でお悩みの方もいると思いますので紹介いたしました。
ところで、2020年6月に裁判官が面会交流に関する論文を発表して以降、面会交流の運用が変わりました。
ざっくりいうと、
①じっくり話し合いましょう
②面会を拒否する側が、面会を認めることが不利益である具体的な事情を証明しなければならない、というこれまでの運用を改めましょう
③子供の意思を尊重しましょう
という内容です。
一見いいことを言っているようですが、①のせいで、かなり厄介なことになっています。
というのは、裁判所に調停を申立てると、1回目の調停は申立から1か月半~2か月くらい先になります。
その後、1~2か月(最近の東京家裁だと2か月がデフォルト)に1回のペースで調停が入ります。
そして、じっくり話し合え方針のため、しばらく調停委員を間に挟んだ当事者同士のやり取りのみが行われ、調査官調査は行われません。
調査官調査がされるのは、調停申立から1年後ということがざらです。
つまり、離れて暮らす方の親は、1年以上面会できず、1年後には、子供は一緒に暮らす方の親にネガティブ情報を植え付けられて、離れて暮らす方の親に拒否反応を示すという訳です。
もちろん、子供を引き取った方の親が、面会交流に拒否的な場合ばかりではありませんが、その場合は調査官が入るまでもなく早期に面会交流が実現します。
また、もともと親として不適格ではないかと思われる人や同居中から子供に嫌われているという人もいるので、そのような場合は仕方がないでしょう。
しかし、別居時点では子供は別居親のことを嫌っていなかったのに、次第に監護親などの影響で別居親のことを拒否するというのは、よくあることです。
このような事情を確認するために、早期に調査官調査がなされるべきですが、調査官が入るのが遅いために、調査がされる頃には、子供は、別居親を拒否するようになっており、調査報告書には、子供が面会を拒否しているので間接的な交流から始めるべき、などと書かれてしまうケースがあります。
今回ご紹介した仙台高裁の決定は、子供の母親に会いたくないという意思が、まわりの大人の影響を受けているんだと正面から認めて、面会を認める判断をしていますが、これは、調査官による調査を2度行い、その間に子の反応が変わってきたことが確認できたからこそ、なされた決定です。
多くの裁判官が、子供は(大人もですが)周りの大人の影響を受けやすいという事実を認め、早い段階で調査官調査をするという運用に改めてくれるよう望みます。
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監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。