面会交流に関する裁判所の理想と弁護士の現実
面会交流については、法律上は「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」(民法766条1項、771条)とされているだけで、明確な基準はありません。
しかし、現在の裁判所には、基本的な方針があります。
原則として面会交流を認め、例外的に、
①子を連れ去るおそれがある場合
②子を虐待するおそれがある場合などの事情がある場合
といった面会交流を認めることが子の利益に反すると思われる具体的事情を証明した場合には面会交流は認められません。
具体的なという点がポイントで抽象的なものではだめです。
そうすると、抽象的なレベルで子の利益に反するだろうといえるけれども、具体的な事情を証明できないケースというのが多くあります。
ここで、面会交流を認めたくないという依頼を受けた弁護士と裁判所で対立が生じます。
その時、裁判所からは、「面会交流を認めないということを離婚時の親権争いで考慮しますよ」とか、「審判になれば認めることになるので、今のうちに譲歩案を考えたらどうですか」と圧力がかけられます。
そんなことは、言われなくても離婚を扱う弁護士なら知っています。
もしかすると、裁判所は、面会拒否を主張する弁護士に対して、「依頼者の希望することを、そのまま主張する、何も分かっていない弁護士」と思っているのかもしれませんが、弁護士側からみれば「原理原則ばかりで実態に合った柔軟な対応ができない裁判所」と映っています。
言うまでもないことですが、私はもちろん、ほとんどの弁護士は、なるべくなら子供と親の交流はあったほうがいいと思っています。
実際に、協議離婚交渉においては、面会交流に反対する依頼者を説得することもあります。
では具体的に弁護士がどんなケースで悩むかというと主に以下の2点です。
① モラハラのケース
相手が、いわゆるモラハラのケースでは、子供との面会に応じると、「子供に何かされるのではないか」とか、「子供が変な価値観に育つのではないか」と心配で面会を拒否したいとおっしゃる相談者の方がいらっしゃいます。
一口にモラハラといっても、その程度は様々で、「ちょっと変わった人ですね」という人から、「犯罪でこそないけど、これは関わってはいけない人ではないか」という人までいます。
「ちょっと変わった人ですね」というレベルであれば、「ずっと一緒にいるわけではないので、大丈夫だと思いますよ」と相談者に申し上げることもあります。
問題は、「これは関わってはいけない人ではないか」と思う時です。
裁判所は、面会交流を拒否する側が、子の利益に反する具体的事情を証明しなければならないという発想ですから、こちらが、相手がいかにおかしいかということを証明しなければなりません。
しかし、モラハラは、日常的に行われることですから、証拠らしい証拠はないことが多いのです。
しかも、一つ一つの行為は「変わった人だね」で済まされるレベルだったりします。
そうすると、なかなか裁判官には、子供にとって面会することのほうがリスクがあるということが分かってもらえなかったりします。
② 子供が拒絶するケース
面会拒否理由は、「子供が面会を拒絶しているから」というのが、一番多いかもしれません。
子供が中学生くらいになれば、親には面会を強要したり拒絶したりする現実的手段がなくなりますから、実際に問題になるのは2、3歳~小学6年生くらいです(一度だけ14歳の男の子のケースで裁判官から「子供が拒否しているというだけでは面会拒否理由になりません」と言われたことがありますが・・・)。
このようなケースは、さらに具体的な理由があって拒絶しているケースと、子供がなぜ拒絶しているのかよくわからないケースに分かれます。
面会を拒絶する具体的な理由が分からないケースでは、相手から、「監護親に言わされているだけ」という反論がされますし、裁判官も、その可能性を踏まえて判断します。
しかし、相手から、そのように言われるのは分かっているので、少なくとも私は、明らかに言わされているだけのケースでは、調停に至る前に、「調停では、そのような主張は認められにくいので、お子さんに短時間でも会ってみるように言ってみてもらえますか」などと、面会が実現できないか話してみます。
しかし、中には、子供がどうも本心から会いたくないと言っているようだというケースもあります。
そうすると、今度は、相手から「監護親の影響を受けているからだ」という反論がされます。
程度の問題はありますが、監護親の影響は受けているでしょう。
というより、身近な人間の影響を完全に排除できる人間はいません。
このようなケースで、あからさまに相手の悪口を言っているようなケースでは、良心的な弁護士であれば、裁判所に言われるまでもなく調停の前の段階で、依頼者に、「お子さんにそういうことを言うことはやめてください」と言うでしょう。
問題は、相談者自身が、子供の前では相手の悪口を言っていない、あるいは言っていたとしても自覚がないケースです。
こういうケースで「そういうことを言うのはやめましょう」とは言えません。言っても意味がないからです。
では、どうすればいいのか?
裁判所調査官からは、「もっと会ってもいいという雰囲気を作るのが大切」とか、場合によっては「会ってみたらどう?と声をかけてみたら?」と言われたりしますが、そんなことは、良心的な弁護士であればとっくに依頼者に伝えています。
結局、具体的な改善策がなく、子供が嫌がっているようだという結論に変化はないまま調停が進み、裁判官から弁護士に冒頭に書いたような、「面会交流を認めないということを離婚時の親権争いで考慮しますよ」とか、「審判になれば認めることになるので、今のうちに譲歩案を考えたらどうですか」という圧力がかけられます。
そんなことを言われても、子供の気持ちに変化があるはずがありません。
それどころか、子供が裁判所を全く信用しなくなったケースがありました。
裁判官には、そんな圧力をかけるのではなく、具体的に何をすればよいのか解決案を提示していただきたいものです。
もう一つの、具体的な理由があって拒絶するケースですが、この理由が、だれしも納得するような理由であれば、そもそも子供の意思がどうこうではなく、その不適切行為自体を理由に面会を拒否できるでしょう。
ですから、実際に問題になるのは、大人にしてみれば大したことがない、あるいは問題行為ではあるが、そこまで拒絶することだろうかと思ってしまうよな理由による面会拒絶です。
こうなると、相手方からは、「監護親がちょっとしたことを大げさに言っている」などと主張され、裁判所からは、「そういった理由であれば、説得すれば何とかなるのではないか」などと言われたりしますが、そんな簡単にはいきません。
さて、こうやって子供の拒絶を理由に拒否し続けた場合ですが、裁判所が面会を認める審判をすることがあります。
そうした場合、これをどうやって履行するかという問題が出てきます。
2、3歳であれば何とか無理やり面会の場に連れていけるかもしれません(それでも苦労するでしょうが)。
しかし、小学生くらいになれば、本気で嫌がった場合には無理やり連れて行くのは無理ではないでしょうか?
それでも無理に連れ出そうとすれば、近所の人に虐待で通報される可能性もあります。
ご褒美で釣るという方法もありますが、1度目は通じても、2度目からは警戒するでしょう。
なにより、無理やり、あるいはだまして子供を面会させたのでは、今度はこちらが子供に不信感を持たれてしまいます。
子供の立場に立ってみれば、両親ともに信用できない人物になるということです。
こんなことが、とても子供の利益になるとは思えません。
繰り返しますが、たいていの弁護士は子供と親の交流があるに越したことはないとは思っています。
しかし、どうしても無理なケースがあるんです。
それも、裁判所が思っているよりも多く!
裁判所は、「面会させろ」というのならば、それで終わりではなく、ぜひとも「具体的に何をすればよいか」を命じていただきたいものです。
それが子供のためだと本気で考えているのならば。
【関連コラム】
・面会交流の具体的内容
・子供が面会を拒否しているのは身近な大人影響とした裁判例
・面会交流について諸般の事情を総合考慮して判断するとした判決
・コラム目次ー男女問題を争点ごとに詳しく解説-
監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。