弁護士が役に立ったと思う交渉術①-役割分担-
交渉をするには絶対に意識しなければならないことであり、かつ、極めて基本的なことなのに、交渉関係の本にはあまり書いていない交渉の原則があります。
それは、「役割分担」です。
具体的には、
・決定係
・交渉係
・記録係
という役割を分けます。
とくに、決定係と交渉係は絶対に分けてください。
物理的に分けられれば、それに越したことはありません。
たとえば、上司が部下に、取引先に交渉に行くように命じたりする場合がイメージしやすいでしょう。
上司が合意の最低ラインを決める決定係、部下が実際に相手と交渉する交渉係です。
なぜ役割分担が必要なのか?
それは、人間はその場の雰囲気で誤った決断をしてしまうことがあるからです。
ですが、役割分担をしておくと、このような失敗は避けられます。
先ほど上司と部下の例について考えてみましょう。
上司は、通常価格500万円の商品について、450万までなら割引をしても良いが、それ以上はダメだといったとします。
この場合、部下は、取引先から強引な値引き交渉をされても、450万以下にはしないでしょう。
どんなに気の弱い部下でも、最悪でも「上司に聞いてきます」と言って、450万円以下の契約を勝手にすることはありません。
なぜか?
「自分には決定権限がない」ということが分かっているからです。
ですから、一人で交渉する場合でも必ず役割分担を決めてください。
具体的には、交渉の準備段階までは、あなたは決定係です。
決定係として、交渉の目標や最低ラインを決定したら、それを書き留めてください(記録係)。
そして、交渉が始まる前に、自分に言い聞かせてください。
「私は交渉係で、決定権限はない」
自分の中で交渉係への役割変更ができたら、交渉開始です。
絶対に交渉中に決定係がした決定に違反してはいけません。
絶対に決定係から、役割を切替えずに交渉してはいけません。
では、想定外の流れになったら?
この方法だと、あらかじめ決定していない話題が出てきたら困ってしまいます。
しかし、絶対に交渉の場に決定係が出てきてはいけません。
では、どうしましょう。
簡単です。
「ちょっと考えさせて欲しい」
と言ってください。
相手が即断を迫ってきたら?
対応は同じです。
あまりにしつこければ、「ちょっとトイレ」とでも言って、とりあえず考える間をとりましょう。
そして考えましょう。
「即断することで自分にメリットがあるか?」
「即断を断ったら交渉が決裂するか?」
「交渉が決裂すると、どんな不利益があるか?」
「相手が即断を迫る理由は?」
たいていの場合は、1日や2日考えても大して影響はないはずです。
こうして交渉が進んだら、交渉内容を書き留めておいてください。
現在の状況が、自分の希望とどうちがうかや、今後の交渉の方針を決定するためです。
以下、また、決定係として交渉の方針を決め、役割を切替えて交渉にいどみ、それを記録するというプロセスを繰り返していきます。
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監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。