離婚後に親権者である元夫及び子供と再度同居した元妻が子を連れ出した事例
離婚時に子供の親権者を父として離婚したけれども、母が自宅に戻り、元夫や子供と再度同居し、その後再び別居するときに子供を連れ出していいでしょうか?
このような場合に、子供を連れ出した行為は違法だとして、母親と母親にアドバイスをした弁護士に対する損害賠償請求が認められた事例を紹介します。
1 事案の概要
・2014年12月下旬~2015年1月6日 元妻が子らを連れて親族宅に行く
・2015年1月4日 元夫と元妻が協議離婚、子供2人(当時11歳と5歳)の親権者はいずれも元夫
・2015年1月7日 元夫と子供達で生活を始める
・2015年5月 元妻が元夫、子供たちと同居再開
・2016年1月 元妻が弁護士の助言を受けて、子供たちを連れて家を出て実家へ戻り、再度の別居開
・別件の親権者指定事件で、調査官調査が行われ、子供たちは元夫への拒否反応はなく、家族4人での生活を希望していること、元夫に監護を任せられない事情はなかったことなどの意見が書かれる。
・2019年 元夫が、以下の4名に対して以下の理由で慰謝料請求
①元妻:子供の連れ去りをした
②弁護士2名:元妻による子供の連れ去りをそそのかした
③元妻の母:元妻らに住居を提供するなど協力した
・2022年3月25日 東京地裁判決(①②に対する慰謝料は認め、③に対する慰謝料は認めない)
・その後、控訴されるが控訴棄却となる
2 判決(東京地方裁判所令和4年3月25日判決)
東京家庭裁判所は、要旨、以下の通り判示しました。
① 元妻(Y3)に対する慰謝料請求について
「被告Y3が本件別居時に子らを連れ出した行為は、子らとの不法に引き離されることのないという原告の法律上保護される利益を侵害するものであったというべきであり、原告が単独で子らを監護することが明らかに子らの幸福に反するというべき事情が存在しない限り、不法行為法上違法となると解するべきである。」としたうえで、元夫による子らの監護状況に、問題があったとはいえず、明らかに子らの幸福に反する事情はないから、元妻の行為は違法であるとしました。
また、離婚は、元妻の意思で行われていたのであるから、元妻が、「本件別居時、子ら原告と被告Y3の共同親権下にあると判断したことに相当な理由があったとは認め難い」し、「非監護親が監護親のもとから子を連れ出す行為は、人身保護法上原則として違法になることは判例上確立していることからすると上記行為が対親権者との関係でも違法となり得ることは容易に想定できるのであって、被告Y3は、前記⑶イ認定のとおり、原告による子らの監護状況に特段の問題がなかったことも認識していたというべきであることからすると、被告Y3において子らを原告のもとに残して別居することが明らかに子らの幸福に反すると判断したことに相当な理由があったとも認め難い。そうすると弁護士の助言を受けていたことを勘案してもなお、被告Y3が子らを連れて別居に及ぶことに違法性がないと判断したことには過失があるというべきである」としました。
損害賠償額については、弁護士らと連帯して110万円とされました。
② 弁護士2名(Y1、Y2)に対する損害賠償請求について
「裁判手続きにおいて、弁護士が代理人として、確立した判例がない分野についてその見解を主張することや、確立した判例と相反する主張すること自体は、直ちに違法となるものではないと解すべきではあるが、他方で、裁判外で、確立した判例のない事項につき一定の法解釈に従って行動したが当該行動が違法と判断された場合や、確立した判例に反する法解釈に従って行動した場合に、このような法解釈に基づく行動が法律上当然に許容されるものと解することはできず、自力救済が原則として違法となることに照らしても、裁判外での実力行使については慎重な検討を要するものというべきであり、このことは弁護士であっても当然認識すべきことである。
本件助言は、被告Y3に対し裁判を経ることなく子らを連れ出すこと、すなわち実力行使に及ぶことを助言するものであるところ、前記1で検討した通り、本件別居は原告に対する不法行為となるものであり、本件別居に違法性がないとの解釈は誤りでるというべきである。
本件助言が前提とする解釈は少なくとも人身保護についての確立した判例と整合せず、条件又は期限付きの親権者指定合意が有効であるという解釈を示す裁判例が相当数あったとか、どう解釈を示す学説が有力であったとかいう事情もうかがわれないことからすると、本件助言は、被告Y1らの独自の見解に基づいて違法な実力行使を助言したものと言わざるを得ず、不法行為法上違法となると解するべきである。」としました。
損害賠償額については、前記のとおり、元妻と連帯して110万円とされました。
③ 元妻の母(Y4)に対する損害賠償請求について
「原告は、被告Y4が、被告Y3を本件別居にあたって物心両面で援助した旨を主張するものの、具体的にどのような援助をしたのかについては何ら主張なく、本件全証拠によっても、被告Y4の本件別居への関与が、原告に対する不法行為を構成する程度のものであったことを認めるに足りない。」として、元妻の母親については、元夫との関係で違法行為を認めませんでした。
3 コメント
結論としては妥当だと考えます。
上記では省略しましたが、元妻は、してもいない浮気を疑われて責めたてられ、元夫の離婚請求に応じざるをえなかったから、そもそも親権者を元夫とする離婚自体が無効だと主張しています。
仮に離婚が無効であれば、通常の離婚と同じように、同居状態から子供を伴って別居をしただけですから、子供を連れて行ったことが違法となることは、一般的にはありません。
元妻にアドバイスをした弁護士は、元妻からこのような事情を聞いて同情し、子供を連れて出ていいとアドバイスしたのでしょう。
被告側に26人の弁護士がついていることからしても、悪い弁護士さんではないんでしょうが、ちょっと相談者に肩入れしすぎのように思います。
弁護士は、依頼者に寄り添うことは大事ですが、第三者的視点をもって冷静に判断することも重要だというのを改めて認識させられた裁判例です。
なお、元妻の母親については、元夫側からすると、元妻をかくまったということになるのでしょうが、母親の立場からすると、自分の娘が子供を連れて自宅に来たら受け入れざるを得ないでしょうから、これだけでは違法というのは酷でしょう。
母親の行動を違法というには、より積極的に連れさりをそそのかしたり、連れ去りに協力したり(たとえば、近くで車で待機していて、元妻が子供を連れ出したらすぐに車に乗せて立ち去るなど)しないと難しいでしょう。
【関連コラム】
・親でも子供を勝手に連れ去ると犯罪になることがあります
・コラム目次ー男女問題を争点ごとに詳しく解説-
監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。