ストックオプションの財産分与
離婚する際に就業先にストックオプション制度がある場合、そのストックオプション制度を利用することによる利益を財産分与の際にどうするのかが問題になることがあります。
ストックオプションとは、会社が従業員に対して一定の金額で自社株を買う権利を与える制度です。
従業員は、自社株の市場価格がストックオプションで決められた価格より高ければ、権利行使して自社株を安く買い市場で高く売ることで利益を得ることができます。
逆に、ストックオプションで決められた価格より市場価格が安ければ、権利を行使する必要はありません。
このような性質から、ストックオプションの財産分与を行う場合、権利行使や株式の売却時期により次のようなパターンに分けて考えられます。
1 結婚前に権利の付与があり、結婚後に権利行使し、結婚している間に株式を売却した場合
この場合について一般に公開されている裁判例はないようですが、2つの考え方があります。
① 結婚前に権利を取得したので共有財産にはならない。結婚後に権利行使し、株式を売却したのは、持っていた権利が具体化したにすぎない。
② 権利行使によって初めて具体的な財産になるところ、具体的な財産を取得したのは結婚後であるから夫婦共有財産となる。
2 結婚前に権利の付与があり、結婚後に権利を行使し、結婚している間には株式を売却しなかった場合
この場合の基本的な考え方は上記1と同じです。
① 結婚前に権利を取得したので共有財産にはならない。結婚後に権利行使し、株式を売却したのは、持っていた権利が具体化したにすぎない。
② 権利行使によって初めて具体的な財産になるところ、具体的な財産を取得したのは結婚後であるから夫婦共有財産となる。
⇒この考え方の場合、上記1と違い、まだ売却していないので株式の価格をいくらと考えるのかが問題となります。
上場株式であれば市場価格があるので、離婚時の市場価格を基準にすることになり、非上場株式の場合は公認会計士による鑑定によって価格を算定することになるでしょう。
もちろん、離婚に際し実際に売ってしまってもかまいません。
3 結婚後に権利の付与があり、権利行使し、株式を売却した場合
この場合においては、売却益が財産分与の対象となることに異論はないと思われます。
離婚事件ではありませんが、東京地方裁判所平成21年3月24日判決も、このような場合について夫婦共有財産であると判決理由中で判断しています。
4 結婚後に権利の付与があり、権利行使し、結婚している間には株式を売却しなかった場合
この場合も、上記3と同様で、違いは、売却をしていないので株式の価格が分からないというだけです。
この場合、上記2②と同様に上場株式であれば市場価格があるので、離婚時の市場価格を基準にすることになり、非上場株式の場合は公認会計士による鑑定によって価格を算定することになるでしょう。
もちろん、離婚に際し実際に売ってしまってもかまいません。
5 結婚後に権利の付与があったが、結婚している間に権利行使をしなかった場合
この場合について一般に公開されている裁判例はないようです。
考え方としては上記1及び2の場合と全く逆になります。
① 結婚後、離婚前に権利の付与があった以上、夫婦共有財産である。
② 権利行使によって具体的な権利になるところ、離婚時に具体的権利になっていない以上、夫婦共有財産とはならない。
6 結婚前に権利の付与があり、権利行使もしていた場合
この場合についても裁判例等はありませんが、共有財産とならないことについて争いはないと思われます。
私見
上記1、2、5において、共有財産となるかどうかの基準を権利行使時とする考え方は、税制上の取扱いと同じように考えようというものです。
税制上、ストックオプションは、権利行使時に権利行使価格を基準に給与所得として課税され、例外的に税制適格のストックオプションは、株式売却時に売却価格と権利行使価格の差額について譲渡所得として課税されます。
しかし、税制上どのように扱うのが適正かと、離婚時にどのように扱うのが適正かは、必ずしも一致しないので、この点を理由とする主張は弱いと考えます。
権利行使時を基準とすると、結婚後に権利が付与されていたのに、権利取得者が離婚を考えていたため、権利を行使しなかった場合に不合理な結果となることを考えると、権利が付与された時を基準として考えるのが妥当なように思います。
もっとも権利付与時を基準とすると、上記5のように結婚している間に権利行使しなかった場合に、利益をどう考えるのかという問題は残ります。
つまり、結婚している間に権利付与があり、結婚している間は権利行使しなかった場合にストックオプションも財産分与の対象にするとすると、もし、権利付与時の株式の時価より離婚時の時価が下がっている場合は利益はなかったことと考えればいいように思いますが、権利付与後に一旦株価が下がり、その後上がった場合に、その下がりきったときに権利行使をしておけば離婚時に利益があったと考えられるので、いったいどこの時点を基準に利益を考えれば飯田という問題です。
このような場合、誰も株価の底値を正確に予測することなどできないのですから、権利付与時と離婚時の株価を比較して利益の有無を考えざるを得ないように思います。
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監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。