親子関係不存在確認の訴え
離婚をしてから300日以内に子供が生まれた場合、子供は前夫の子と推定されます(民法772条2項)。
これを嫡出推定といいます。
このような場合に、子供が前夫の子ではないと主張する方法として、法律には、前夫が子供を相手として嫡出否認の訴えをする方法しか規定されていません。
しかし、嫡出否認の訴えは、前夫が子供の出生を知ってから1年以内に手続をしないといけないため、酷な結果となることがありました。
そこで、「親子関係不存在確認の訴え」と「遺伝学上の父親に対する認知請求」という手続が解釈上認められるようになりました。
1 手続の概要
⑴ 誰ができるのか
親子関係不存在確認の訴えは、法律上の父子関係を否定することについて利害関係のある人なら誰でも申立てられます。
子供自身(母親が代理する)、母親、父親はもちろんですが、たとえば、父親の両親や子供の兄弟も父親が死んだ場合の相続関係に影響を与えるので申立てることができます。
また、父親や子供が死亡した後でも、利害関係人は、検察官を相手として親子関係不存在の訴えを申立てることができます。
⑵ 具体的な手続の流れ
「親子関係不存在確認の訴え」とは言いますが、実際には相手の住所を管轄する家庭裁判所で、調停を申立てることになります(検察官を相手にする場合を除く)。
調停の申立は、子供の出生届を出した後でも、出す前でもかまいません。
調停期日で親子関係がないといえることが確認できると、裁判所が合意に代わる審判をします。
その審判が送達(当事者の手元に届く)されてから2週間で審判の内容が確定するので、裁判所で審判書謄本と確定証明書をもって市区町村役場で手続をします。
仮に調停では親子関係がないことが確認できない場合、または相手が検察官の場合には、家庭裁判所に裁判を起こすことになります。
2 認められるための要件
では、どのような場合に親子関係不存在確認の訴えが認められるかですが、「嫡出推定が及ばないこと」が必要です。
嫡出推定が及ばないかどうかについて、最高裁判所は、懐胎した時期に法律上の父親とされる人物が刑務所に入っていたとか、海外にいたとか、事実上の離婚状態であった(完全に別居して連絡も弁護士を通してのみなど)など、その子の父親でないことが外観上明らかな場合をいうとしています(外観説)。
最高裁判所は、昭和44年5月29日判決から一貫して上記のように判断していますが、実際の家庭裁判所では、DNA鑑定などで親子関係がないことが明らかで、関係者が争っていない場合には嫡出推定が及ばないことについて緩やかに解釈していました。
ところが、最高裁判所は、平成27年7月17日判決で、原審がDNA鑑定の結果と子供が遺伝学上の父親と平穏に暮らしているという事情から、法律上の父親との父子関係がないとしたのを誤りとして、上記外観説によって判断し直すように判示しました。
最高裁判所が、家庭裁判所が事実上緩やかに解釈していたのを、原則通り厳しく判断しなさいということを言ったわけですが、上記は、そもそも最高裁判所での判断になるという時点で当事者間に争いがあった事案です。
ですから、家庭裁判所が上記最高裁判所の判断に忠実に判断するのか、それとも当事者間に争いがない事案については、従来通り緩やかに判断してくれるのかは現時点では不明です。
*2021.9加筆:東京家裁では、かなり緩やかに判断してくれる裁判官が多数派です。他の裁判所は、厳しい裁判官、緩やかな裁判官がいますが、おおよその傾向として、ベテラン裁判官は緩やか、若い裁判官は最高裁判決に忠実に、といった印象です。
【裁判所の親子関係不存在確認に関するページ】
http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_07_16/
監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。