親への仕送りと養育費・婚姻費用
養育費や婚姻費用の支払い義務者が、義務者の両親に対して仕送りをしているので、養育費や婚姻費用を減額して欲しいと主張してきた場合、その主張は認められるでしょうか?
1 原則として両親への仕送りを理由とする減額は認められません
裁判所は、原則として、義務者が両親へ仕送りしているからといって、養育費や婚姻費用の減額を認めることはありません。
なぜなら、夫婦間やその子供に対する扶養義務と両親に対する扶養義務は法的性質が異なるからです。
法的には、親が未成熟の子供を扶養する義務や夫婦間の扶助義務(お互い助け合う義務)は、生活保持義務とされています。
生活保持義務とは、自分の生活を犠牲にしてでも、自分と同じくらいの生活ができるような援助をしなければならないという義務です。
これに対し、子供が年老いた両親の生活を援助する義務は、生活扶助義務となります。
生活扶助義務とは、まずは自分の生活を優先し、余裕があったら援助しましょうというものです。
この扶養義務の法的性質の違いから、まずは生活保持義務を負う子供や配偶者への支払い優先しなければならないということになり、養育費や婚姻費用の算定において親への仕送りは考慮しない、という結論になります。
2 例外
原則としては、上記の通り、両親に仕送りをしているからといって、養育費や婚姻費用は減額されないのですが、義務者の両親が無年金または低年金等、援助なしではどうしても生活できない場合には、ある程度考慮される場合があります。
この点について、支払義務者とその両親が別居している場合には、仕送りを考慮される場合は少ないですが、支払義務者とその両親が同居しているような場合には、実質的には家計が一緒だったり、支払義務者の日常の家事をその両親が行っていたりすることがあるため、養育費が減額されやすくなります。
裁判例には明確に同居か否かで異なる取り扱いをする理由は書いていませんが、おそらく、別居していれば生活保護などの行政の支援が受けられるので、養育費や婚姻費用を減額してまで仕送りする必要はないが、同居している場合には行政支援も受けづらく、義務者が金銭的負担をせざるを得ないからではないかと思います。
3 裁判例
《新潟家庭裁判所昭和59年11月30日審判》*仮処分申し立てに対する判断
婚姻関係が破綻している夫婦において、妻から夫に対する婚姻費用の請求がなされた。
裁判所は、本来は妻に対する婚姻費用の分担義務は、夫の老親に対する扶養義務に優先するが、妻にも一定程度破綻の原因があること、夫の母が夫の身の回りの世話をしていることを考えると、仮処分段階では両者間に優先劣後の関係はないものとして扱うのが相当とした。
《東京高等裁判所昭和42年9月12日決定》
妻から夫に対する婚姻費用請求について、夫が低額の年金収入しかない母親へ仕送りをしていることを婚姻費用算定の考慮要素とした。
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*養育費の計算
監修弁護士紹介
弁護士 本 田 幸 則(登録番号36255)
・2005年 旧司法試験合格
・2007年 弁護士登録
弁護士になってすぐのころは、所属事務所にて、一般的な民事事件はもちろん、行政訴訟や刑事事件、企業法務まで担当しました。
独立後は、身近な問題を取り扱いたいと思い、離婚や相続などに注力しています。
ご相談においては、長期的な視野から依頼者にとって何がベストなのかを考え、交渉から裁判まであらゆる手段を視野に入れてアドバイスいたします。
弁護士 鈴 木 淳(登録番号47284)
・2006年 早稲田大学法学部卒業
・2006年 法務省入省(国家Ⅰ種法律職)
・2011年 明治大学法科大学院修了
・2011年 新司法試験合格
・2012年 弁護士登録
一般民事事件や中小企業法務を中心として、交渉から裁判まで、様々な分野の案件を担当してきました。
この度、なごみ法律事務所の理念に共感し、市民の方の生活に密着した問題や、経営者の日常的に接する問題を重点的に扱いたいと考え、執務することとなりました。
ご依頼者と同じ目線に立ちながら、最善の解決策を共に考えてゆきたいと思います。